「あんたって全ての感情が怒りからきてるのね〜」by父・総一朗
「あんた」とは、女房、私にとっては母の節子のこと。節子はとにかく毎日何かしら怒ってる人でした。
母を知る人(主に家族)の間で語りつがれる話を少々お知らせさせていただきます。
母怒れる話その1
ある夜、まだ母が病気になる前だったと思います。
父が先に入浴し(これも父は洗い場で、母は湯船で身体を洗うかららしいのですが)、母に「お風呂入れば?」と声をかけたそうです。まあ、複数で暮らしている場合の普通の光景ですね。
すると母が怒り出したのですと。「入れば」とはなんだと。「(自分が)入ったよ」と言えばいいと。つまり自分に指図するな、ということらしいのです。ははははは…(弱い笑い)母上ならばさもありなん。(別に24時間風呂とかではないのですよ…)
母怒れる話その2
その昔、まだ母が若いアナウンサーだった頃。岩波映画制作の番組のナレーターとして、呼ばれた事がありまして。
録るべきは、とある男性の独白とナレーション。独白部分は男アナウンサー。ナレーション部分は女アナウンサー、という予定だったようです。
ところが母が現場に到着してから女アナウンサーはいらない、と言われたそうで。母はもちろん抗議しました。が、結局男アナウンサーがへとへとになって、両方の録りを行ったとか。女はいらない、と言った張本人が当時岩波に所属していた父・総一朗だったというのは後から分かった事です。まだ節子ちゃんと総一朗くんが出会う前のお話。それを知ったのは、父とちゃんと知り合って後、たまたま今まで作った作品の話になった時のこと。
私はついこの前まで父も母も含めて食卓を囲んでいる時などに、昔の話としてよくこの事は聞いてたのですが、話しているうちに初めはにこやかだった母の表情が少しずつこわばり、父の方を睨みつけ、いつの間にか両手ともグーになってて、ついさっき侮辱されたかのようにわなないていたりするのです。
母怒れる話その3
また時代はさか上って、母、高校の時の事。家路について、もうすぐ我が家、という道を歩いていた女子高生・節子は家の前で自分の方を向いてたたずんでいる父親(私には祖父)を発見。あ、迎えに出て来てくれてる、とほのぼのした気持ちで父親の側まで行った節子ちゃん、普段から無口で穏和な父親から聞いたいきなりの一言は「太い足だなあ」。
祖母が非常にスタイルの良い、足の形もカッコいい美人だったそうで(祖父と祖母は、明治生まれにしては珍しく?逆ナンの恋愛結婚!)、祖父には祖母の足もきっと自慢だったのだろう、というような事も母から聞いていましたが、
これもつい最近までいまだ悔しそうに話し続けた50年以上前のエピソードです。
母怒れる話その4?
実は、母が病気になるまで私自身は殆ど母に直接怒られたという経験はありませんでした。私が子供時代すご〜く良い子だったせいもありますが…。
母がまたエラく私に申し訳ながっていたせいもあるのじゃないかな〜。まだ働くお母さんが今より珍しかった60年代から70年に子供をあまり構わなかったこと。それも今思えばそれは仕事の為だけではなく、父・総一朗と会っていた為でもあったようですから。
私が思い出せる母の怒りと私との構図は、誰かに怒っている母を私が横から見て困っている図。じっと聞きながら何とか対処しよう(止めよう)と身構えてる図。たまに後ろから必死で止めている図(止まんないけど)。
病状が進行し、亡くなった年(2004年)になってからは身体の自由が効かなくなり、感情の起伏もより激しくなりました。服の着替えや靴下の脱ぎ着も手を貸すようになったのですが、子供を育てた事も(産んだ事も)ない私が貸す手はかなりおぼつかないもので、「人を着替えさせた事がないのね、下手ね」と文句言われ「そーよ、しょーがないじゃん」とブツブツ返しながら着替えさせてました。
母はそれでも「靴下をはかせる時はまず踵まで一気に滑りこませて…そうそう…違う!」とマンツーマン鬼指導。変に「いつもすまないねえ」にならない母を私は気に入ってますけどね。ばんばん言いたい事は言ってくれるので、こっちも「今どんな居心地なのかな」と邪推したりとか変な気は基本的に遣わずに手を出せますし。それはある意味、楽。
例えば昨日は、ベッドから起き上がる時に手をかしてって言ってたのに、今日になって同じ場面で手を出そうとしたら「いらない!」だし。そんな風に手を出すべきポイントが毎日違っててそれは結構参ったけれども。
母の事は毎日思い出してる私ですが、少なめに見積もっても7割くらいは怒ってる姿。亡くなってから私の夢に出てきた時も8割は怒ってる姿(何故か1割増えてる)。
母が怒るのは、嫌じゃあない。母を思う時、いつも笑顔…よりも怒っている様子の方が生き生きと思い出せるんです。それは母にとって不本意なことかなあ?矛先が自分に向くと少々キツイ…だけど、あまり怒らないでいられるのも落ち着かない。
怒らない母など母じゃない。というか想像もつきませんわ!?