●「ヴォイス・オブ・ヘドウィグ」

チラシに、LGBTQとある。

皆さんよくご存知とは思いますが、ここでちょっとふれておきましょう。
L:Lesbianレズビアン、G:Gayゲイ、B:Bisexualバイセクシュアル、
T:Transgenderトランスジェンダー、そして新顔の、Q:queerクィア。
いずれもセクシュアリティをカテゴライズするもので、他にもパンセクシュアル、アンビセクシュアル、トリセクシュアル、インターセクシュアル、トランスセクシュアル、アセクシュアル、などなどと、ちらっとウィキペディアを覗いてみただけでも、「ドンダケ?!」と叫びだしたくなります。個人的にはフェミとか腐女子とかヲタクも加えていいのでは?なんてことも思います。たぶん却下でしょうが。この「セクシュアリティをカテゴライズする言葉」は、それを使うときのシチュエーションや意図や思惑や、そして時代によって、いくらでも変容していく言葉群です。生ものです。だからどれが正解ってことはなく、どの言葉を選んで使うかで、ある種の意志表明ができたりもするわけです。

さて、前置きが長くなりました。この映画は、もちろん、独立した一個の作品であるわけですけど、それだけじゃ語りきれない。いろいろなものが手を携えながら同時進行していくプロジェクトの一部であるから。むしろプロジェクト全体をつなぐ媒体みたいなもので、それは「作品としてはどうなのよ?」と言えなくもない。でも、もういいんだよー、そんなことは。わたしの記憶の中で映画が映画として独立して留まっていなくても、この映画にとってはまったく結構なんだよーという思いの方が勝っていく。

この映画は一面、ミュージック・アルバム『ウィッグ・イン・ア・ボックス』のメイキング・ビデオです。チャリティーなので、とにかくCDの売上増という重大な使命を担っています。アーティストそれぞれの録音風景、何度もやり直したり、アレンジしたり、歌詞をかえちゃったり。ヘドウィグという類まれなキャラでブレイクした曲を、自分のものにしようと格闘する、アーティストたちの素顔といったところ。ヨーコ・オノなんかは譜面をヒラヒラさせながら「これ今朝もらったのよー。いい曲ねー。」などと余裕をかまし、ぶっつけ速攻で歌いあげて、さっそうと立ち去って行く(ように編集されている)。ファンとしてはやっぱり凄いじゃん!の満足感いただきました。

それと同時にこの映画は、ハーヴェイ・ミルク・ハイスクールの意義を社会にアピールするドキュメンタリーでもあります。この学校はLGBTQの子供たちが安心して自分らしくすごせるようにと創られた特別な学校で、2003年にニューヨーク市から公認を受けるまでになった。そのことにもこのプロジェクトが大きく関わっているはずです。目的を達成するために、もっとも正攻法でインパクトのあるやり方、それは実際の生徒が積極的に画面で自らを語ること以外ではないでしょう。軽快なロックのリズムに映画全体が彩られているので、この子たちはカッコイイ、この子たちは勇敢だ、この子たちはとってもステキ、な気分で展開していきますが、自分を語ってくれた4人の生徒たち、メイ、エンジェル、ラルフィ、テナジャ、少しでも彼らの身になることができたのは、わたしの場合、むしろ映画を見終わってしばらく経ってからでした。メイがどうしてあんなに泣き虫なのか、エンジェルがどうしてあんなにアンニュイなのか、ラルフィがどうしてあんなにチャラいのか、テナジャがどうしてあんなにハード・フェミなのか。映画館で彼らと対面している最中には思い至らなかった。そんな自分がちょっと寂しいです。

まるで森の成長を短時間に縮めて早まわしで見ているように、
実際の歴史と物語りが、
ミュージシャンの歌声と4人の生徒の独白が、
フィクションと現実が、
映画を思い出すたび、
絡んで繋がり膨らんでいきます。

ヘドウィグはアングリーインチ
ハーヴェイ・ミルクはゲイと公言して当選した初めての議員
WA! WA! WA! WA! WOW! WOW! WOW! WOW! 叫ぶのはオノ・ヨーコ
ジョン・レノンは銃で撃たれて殺された
ハーヴェイ・ミルクは銃で撃たれて殺された
切られたのはエンジェルの長い髪
自分の母親から親権を取り上げたのはタナジャ
いなくなったのはラルフィ
モデルの仕事でミッソーニを着ているのはメイ
ニューヨークの真中で、森は成長する
声を挙げる人
守る人
手を振る人
拍手する人
メッセージボードに囲まれて登校するのは
ハーヴェイ・ミルク・ハイスクールの生徒たち

そんなふうに思考をうろうろさせていると、
わたしの記憶の中でこの映画は解体されてバラバラになってしまう
ポラロイド写真が散乱した部屋のようになってしまう

これは映画なんだけど、映画というだけじゃない。動く何かの一部分みたいだ。それは何なのか何が動いているのか、わたしはとうに知っている、と思う。知っているということは、きっと、わたし自身もこの森の一部として動いている、動いていけるということじゃないかな?たぶんこの映画にかかわった多くの人が、そんな可能性を感じているのじゃないかな?そして、わたしも含めて、この映画を気に入った全ての人が、自分自身の枝をはり葉を茂られていくことができますように、と願う。

ヴォイス・オブ・ヘドウィグ
follow my voice with the music of hedwig
2006年 米国
監督:キャサリン・リントン
出演・音楽:ジョン・キャメロン・ミッチェル、オノ・ヨーコ、
ヨ・ラ・テンゴ、フランツ・ブラック、ブリーダーズ、他
配給:アップリンク
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/voiceofhedwig/"
上映中:東京 渋谷ライズX、大阪 シネマート心斎橋
上映予定:沖縄 桜坂劇場、他


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