新年あけましておめでとうございます!今年もたくさんのステキな映画との出会いを楽しみに、張り切って「映画乱爛」連載していきます。よろしくお願いいたします。さて、新春リレーエッセイ、江川さんより「初めて心にガツーーーンときた映画ってなんですか?」とのバトンをいただきました。「ガツーーーン」ですね。ええ、「ガツーーーン」ですとも!
新年早々「ガツーーーン」発生。
世間並みにお幸せなお正月を演出しようと、今年は大人ぶって初親孝行、温泉宿に親兄弟を招待し、そこでちょっと深い話をの目論み。江川さんからもご紹介していただきまして恐縮ですが、このラブピコラムで連載していた『半社会的おっぱい』の抜粋が、『ぽっかり穴のあいた胸で考えた』という一冊の本になっています。江川さん、読んで下さりありがとうございました。お母さまの田原節子さんのことは、わたしにとって今なお鮮烈な出会いの印象そのままです。江川さんの連載『我が母ストーリー』によって、また何度も節子さんと出会い続けているかのような気がしています。続編を楽しみにしております。
で、『ぽっかり穴のあいた胸で考えた』の中で書いた通り、がんを患ったことを父親には秘密にしてました。なぜならば、てんてんてん、それは長い話になりますんで、お知りになりたい方はどうぞ本買って読んでね!いつか、打ち明けたときのことをご報告したいと連載中にも申しましたが、あっと言う間に3年経っちゃいました。やっと打ち明ける気になり、それでこの正月にお膳立てしたというわけでして、いやはや、まったく。さすがに期待を裏切らないと言いますか、うちの父親、予想以上の展開でした。
北国の山あい、みぞれ降る川景色、ひなびた隠れ宿の小部屋で、心づくしの正月料理をつつく小さな家族連れ。白髪の父親と、もうかなりいい年の独身娘ふたり。「あのさ、話があるんだけど」唐突につぶやくソフトモヒカン。「なんだ、結婚するのか?」「いやいやそういう話でなく、実は4年前に乳がんになってさ」「なんだと」「まあ、もう大丈夫そうなんだけど。それで、闘病記が本になったりもして」「ふーん」「まあ、その年になれば人生いろいろあらーな」(あれ?意外にあっさり?)小首を傾げるソフトモヒカン。「オレも事故で胃がつぶれたときは死ぬかもしれないと思ったもんだ」(あっ、オレ話がはじまってしまった)「そうだねー、あのときはお父さん死ぬかもと思ったよねー」「ちょうど一ヶ月で退院したんだ」「そうだったねー、すごく早かったんだよねー」(全然いつもの会話と変わらん)「ママのときはオレも大変だった」「そうだったねー」「あたしはあんまり覚えてないよ」「お前はまだ小さかったからな」「この豚シャブおいしいよー」「この辺の有名な豚だ」「この刺身もおいしいよー」(まあ、こんなもんでよかった。あまりショックがられても困るし)「本は売れてるのか?」「あんまし。後で見せる」食事が終わって、わたしもほろ酔い。調子に乗って、自著の朗読を始めてしまいました。父親の悪口をたんまり書いたつもりの『わたしのオヤジ』という章を、ちょっとビクビクしながらも。ところが当の本人は、悪口聞いて上機嫌になりました。「ふんふん、なかなか愛情にあふれとる。良い良い。ハハハハ!」どういうわけなのお?変な人。更に調子づいたわたしは他の章も朗読しつづけました。いつの間にか、スースー寝息を立てる老父。寝ちゃったらしい。何か平和じゃん。良かったじゃん。唯一残った聴衆の妹に「これはお母さんのことを書いたところだよ、『わたしの母は今で言うドメスティック・バイオレンスの被害者で、うんぬん。酔ってたけり狂う夫からしばしば暴力を受けていた、かんぬん』って、わけなんだ」すると寝ていたはずの父親が背中越しに「ふん、そんな本は売れんな!ただ愚痴がかいてあるだけじゃないか!お前に夫婦の何がわかる!結婚したこと無いくせに!」(きゃー、起きてたのお!)一天にわかに掻き曇りました。
それからは、お決まりの罵りあい。バカバカしいので途中割愛します。「もうお前とは付き合わん!ここから去れ!風呂にでもいきやがれ!」「うるさいよ!付き合わない人には命令もできないんだよ!」「まったくバカな奴だ。さっきまで楽しかったのに!」(なんじゃ、そりゃ)で、わたしと妹はもう一度温泉に浸かりにいきました。15分ほども経った頃でしょうか、なにやらドスドスいう足音が近づいてきて、突然、乱暴に、浴室の扉が開け放たれました。たまたま他の宿泊客がいなかったのは幸いでした。「こらあ!オレは帰るぞ!」ピシャリ!遠ざかる足音、ドスドスドス。スタタタタタ。入れ替わりに近づいてくる気ぜわしげな足音。「お父様が!この吹雪の中、車で帰るとおっしゃられて、お止めしたんですが、路上も凍ってますし、お酒も多少!ああ、どうしたら」「すみません。お騒がせして。喧嘩しちゃったんです。言ってもききませんから放っておいて下さい」「そんなあ」スタタタタタ、遠ざかり、また近づき、遠ざかる足音。湯船でただ天井を見上げているソフトモヒカン。「結局、ぶち壊しやん」とつぶやく。
以上、新春「ガツーーーン」でした。フーサン親子バトルは今年もまだまだ続きそうです。そして今思い出している映画は、学生の頃見たタルコフスキーの『サクリファイス』です。世界の終わりを予感した主人公の老人が自宅に火を放ち、気の狂った人として救急車で連れ去られて行くシーン。哀しくも美しい、火炎立ちのぼる羽生の宿。この映画を観た直後、わたしは一番わかってくれそうな友人に公衆電話から電話をかけ、涙ながらに感動を訴えたものでした。誰にとっても世界の中の、唯一の居場所であるマイホーム。燃え盛り、消失するマイホーム。人は愛しながら憎み、未来を願いながら破滅することをもできる生き物なんだと、そんなことを考えていたように思います。
そんなわけで、高山さん、好きだけど嫌いなものの話を聞かせて下さい。高山さんの優しさと毒気を、どうぞこのわたしに注入して下さい。