ドコモ茸も、スイカのペンギンも、キティちゃんも、ペコちゃんも、ケロケロケロッピも、クマのプーさんも皆、架空のドウブツみたいなもので、キャラクターと呼ばれ、布や紙上にプリントアウトされ、カバンや携帯電話にぶら下げられ持ち運ばれ、ちょっと神社のお守りみたいな感じでもあり。あるいはぬいぐるみとして物体化され窓辺に飾られたり、ベッドのまくら周りを取り囲んだりしている。このキャラクターが一人で動いたり、話し掛けてきたりしたら、どんなに楽しいことだろう。キティちゃんの歩く姿なんてたまらなくかわいいだろうな。スイカペンギンはCMの中で急にエレキギターを派手にかきならしたりして、ずいぶん驚かされた。プーさんと語り合うことができたらきっと、ダライラマと語らう以上の体験になるような気がしなくもない。
或いは、犬猫に代表されるような小型のペットを飼い、携帯電話の待ち受け画面に「ウチノコ」の笑顔(?)を飾り、暇さえあれば愛で、指先で画面を撫でててさえいる。コノコと言葉をかわせたら、コノコといつもいっしょにいられたら、通勤中も仕事中も旅行中もデート中でさえ、離れることなく、いつもコノコを身近に感ずることができたら、ペットを持つ人は皆、そう思わずにいられないのでは。
ペットもお気に入りのキャラクターも、ちょとなんだか自分の分身みたい。なんでも話せる親友って感じもする。人間どうしの仲とは別のもっと特化された、二者だけの閉じられた関係。言葉が通じない以上に魂で触れ合おうとする、なによりも純真な関係。そしていざというときには、例えばこちらの気分が落ち込んでいるようなときには、身をすり寄せて全身そして全霊で慰めてくれようとする、何の説明も求めず、ただ一心になろうとしてくれる、どこか良い所へ導いてくれているかとさえ思える、ただそこにいるだけで。何にも換え難い、いとおしいペット。
与えられてきた素晴らしいものを一つひとつ使い尽くし、食べ尽くし、破壊するままに、ただ享受してきただけの邪悪な人間が、与えられてきたものを使い尽くさず、食べ尽くさず、破壊よりは自らの死滅を選んできたドウブツと関係が結べるとは、今まで気がつかなかったけれど、もしかすると人類最後に残された素晴らしい恩寵、「与えられたもの」なんじゃないか。あたしは珍しく殊勝な気持になった。映画「ライラの冒険」を観て。
ライラの世界はこの現実世界とパラレル・ワールドで、良く似ているけれど、何かが違うという設定になっている。ロンドンの風景も、流浪の民ジプシー(ライラの世界ではジプシャン)も、ホッキョクグマ(ライラの世界では鎧グマ)の生態も(これはかなり違いますが)、空飛ぶ乗り物も、見たことはあるけれど違うもの。そんな近くて遠い別世界。その中で、最も目を引く大きな違いは、人間には一人ひとりに必ず<ダイモン>がいるっていうこと。
パンフレットによると、<ダイモンdaemon>とはギリシャ語で、デーモン(悪魔)の語源になった言葉だとか。いつも自分のそばにいる神秘的なもの、魂のようなもの、そんな感じ。それぞれの<ダイモン>はその人間とは似ているけれど、正反対の性格を持っていたりもする。例えば勇気溢れる主人公の少女ライラの<ダイモン>はかなりの臆病者、ライラは<ダイモン>の「やめた方がいい」という助言をいつも無視して、リスクに向かってずんずん進んでいく、ハイリスク・ハイリターンのファンドリーダーのごとく。たぶんライラには「やめた方がいい」という慎重派の声が必要なのだろう。その声を受けてよりいっそう勇気が湧くのであろうし、慎重にもなるのであろう。とにかくいつだって、自分は一人じゃないんだということが、その人にどんなに勇気を与えることか。
この後に続く予定の、第二作、第三作も含んだ、ストーリー全体のキーパーソンであるらしい、ニコール・キッドマン演ずるところの、コールター夫人と<ダイモン>の関係がまたふるっている。金髪碧眼の美しき謎の未亡人、その<ダイモン>もまた輝く毛並みのゴールデン・モンキー。夫人は苛立ちのあまり一度、自らの<ダイモン>に平手打ちを喰らわしてしまう。<ダイモン>と本人は肉体の感覚も繋がっているので、当然夫人の頬も同じ痛みを感じている。心と肉体と両方の痛みに打ち震える二人。そして抱き合い、お互いに心から慰め合う二人。ああ、倒錯ってこのことよね。。。
なぜか急に、自分のフィギュアーを大量生産し、ギャラリーの床一面に並べて、同じ格好をした作家(あたし)自身がオーディエンスを出迎える、という展覧会をしたくなり、展覧会後はみんな(誰?)にフィギュアーを配るのだ、という企画を友人に、自慢げに話すと、「欲しくないよそんなもん!」と一蹴された。なんで欲しくないのかな?ステキな贈り物じゃないかな?あたしはしばらく考えてみた。そうだ、みんな欲しいのは自分の<ダイモン>なんだ。人のものもらっても邪魔なだけだよ、気持悪いだけだよ。どこまでも自分中心だな、お前って奴は。心の中で誰かの声が聞こえました。<ダイモン>、姿は無くても、あたしの心にも住んでるのかもしれません。
「ライラの冒険」久しぶりに心躍るファンタジーの王道です。
「ライラの冒険―黄金の羅針盤」
SF/ファンタジー
2007年 アメリカ