●「フリーダム・ライターズ」

あたしの周りの、この映画を観た人たちが口を揃えて「すごくいい映画」といっているので、だいぶ出遅れてますが、ようやっと観てみました。うん、いい映画でした。正攻法の、ぐっとくる。涙も出れば、心も熱くなる。自分の生き方を反省したり、教育の現場を心配したり、表現することのパワーを再確認したり。

ヒラリー・スワンク主演の映画、「ミリオンダラー・ベイビー」と、「ボーイズ・ドント・クライ」の三本観ましたが、それぞれ見た目も性格も全然違う人物を見事に演じ分けていて、ごっつうプロやなーと、フーサン注目女優の筆頭です。「ボーイズ・ドント・クライ」のブランドン、あのサラシ巻いた(いや、ナベTだったか?)引き締まったボディ、きれいだったなー。さてさて。

今回のヒラリー、理想に燃えてます。影で支えるのはお父さんです。いわゆる「父の娘」ですな。高い自尊心と社会的野心、人生は自己実現の長い旅路です。どうやらええとこのお嬢さんで、普通なら大企業のCEOでも目指すような学歴の持ち主らしいです。そんな彼女が自らすすんで選んだ赴任先は人種差別や貧困、暴力に日々晒され、過酷な闘争の中を生き抜いている、お勉強どころではない、大人の言うことなんてきかない生徒ばかりの、いわゆる「サイテー」の高校です。アメリカ社会はいい意味でも悪い意味でもかなーりダイナミックなところらしい。これだけ環境の違う育ち方をした教師と生徒が遭遇するところを日本社会で想像することは難しいです。日本社会にも貧困はある、暴力はある。バカよばわりされている生徒ばかりの学校だってたくさんある。ところが、アメリカ社会ほど地域差や階級差としてカタマリとして目に見えてこない。日本社会の差別って、相互に見張ったり見張られたり隠蔽したり無視したり。より内包的でより陰湿なんです。なんかいやだねー、暗くなっちゃうねー。

ダイナミックといえば、つい最近、NHKの特集番組で中国の教育現場を紹介するものがありました。経済特区、広州の新興中産階級に生まれ、高層マンションに住み、毎日たらふく食し、両親の期待に応え、お勉強に専念し、この度めでたく理系大学の最高峰精華大学を主席で卒業の運びとなったエリートお嬢様。このお嬢様の地方貧困村でのボランティア教師体験を取材したものでした。お嬢様は理想に燃えて夢を描いて、何日も列車にゆられて貧困村にたどり着きます。しかしそこは、とても同じ国とは思えない貧困ぶりなのでした。電気はねー、食べ物はねー、仕事はねー、社会保障もねー、しかし生徒はやる気マンマン。学歴を手にする以外、このとんでもねー貧困から立ち上がる術はないから。早朝4時、夜明け前、生徒たちは教科書を手に続々と外灯の元に集まります。すべてを暗記しようとブツブツとつぶやき白い息を振り撒いています。寒そうです。悲壮感漂ってます。お嬢様は生徒の家庭の事情に苦悩し、励まし、社会の矛盾を思い知り、自分は恵まれていたといって滂沱の涙を流します。都会に戻ったら人々のために働きたいと、人間的に成長し、エリートとしての決意も新たに帰郷していきます。生徒の方もエリートお嬢様に出会ったことで、目標を手放さずなんとか頑張っていけそう、というところで番組は終ってます。一応は前向きに。

中国のダイナミックさはまた独特で、政府が無策だからこんなことになってんだろっ、というような批判の声など届きません。反対に政府から、豊かになりたければ勉強しろっ、というメッセージが運ばれてきて、皆その国策にからめ取られて、もうそりゃあ猛然と勉強するしかないのです。若者は泣きながら歯を食いしばって、うそでもいいから未来を信じます。それでも希望は希望だと思わないでもありません。

さて、フリーダム・ライターズの本当の主人公は生徒たちが4年間書き綴った日記です。自分の力じゃどうしようもない現実を訴え、心情を吐露していくうちに、そんな中でも自分の行動は自分で選んでいけるのだと書き手が気づいていく。憎み合っていたクラスメイトが、人種間の抗争を超えて、同じ痛みを分かち合う仲間になっていく。生徒たちはリスク覚悟で新しい自分になろうとします。相互扶助と友愛関係がクラス内に創りあげられていく。

それであたしは、濃密な関係というものは、もともとそこにあったのではなかったか?と、はたと思い当たりました。憎みあい、鼻を突き合わせて殴り合う、非常に近しい関係が。憎しみとは、憎む相手を身近に肌で感じるものだと思う。それは、実は、恐ろしいことかもしれないけれど、相手と重大なものを共有する関係であるのだと思う。あたしは映画で描かれているような、心を開いてみんな友達になったというような簡単なことではないだろうと思う。友達は好きになったけど、相変わらず○○人は嫌いと思うことだって可能だから。生まれ出た憎しみはどうやっても消すことはできないのだと、憎しみを抱えながらも同じくらいの、もっと大きながっちりとした友愛関係をもまた、生み出していくしかないのだと。それは憎んだ人も憎まれた人も等しく背負っているものなんだろうと、そう思いました。


INDEX
[2008/12/27]
「金寅大賞」
[2008/12/14]
「エンジェル」
[2008/11/28]
『つぐない』
[2008/11/14]
「ハンサム★スーツ」
[2008/10/26]
「やわらかい手」
[2008/10/11]
「おくりびと」
[2008/09/26]
「セックス・アンド・ザ・シティ」
[2008/09/12]
「グーグーだって猫である」
[2008/08/29]
「崖の上のポニョ」
[2008/08/01]
「ブリッジ」
これより前のコラムを見る
▼コラム一覧へ戻る  ▲topへ