「自殺したアイドルをめぐる男たちのミステリー・コメディ」わたしがコピーをつけるとしたらそんな感じですけど、ホームページを見ると「最高に面白く、最高に暖かい、ハートフル・ワンシチュエーション・サスペンスの誕生」とあります。えっ?ハートフル?あれってハートフルなのかー。いったいどのへんがハートフルなのかー。確かに、何度も繰り返される新たな謎をめぐるドタバタ劇の末、最後をしめくくるシーンとして、それぞれの男たちがそれぞれの思いを満たし、空想の星空を見上げるというような場面があります。もしかして、ハートフルなのはあのへんかしら?まっ、解らないことはさて置いて、毎度おなじみ、製作者の意図とは微妙にズレてますけどワタクシの感想。
実は、この映画すっごく好きです!何度もDVD借りてきては、もうたぶん10回くらい見てます。なーにがそんなに面白いのでしょうか?
第一にノリがいい。高校生の頃、運動系クラブ活動なんかで味わった、屈託のない友情を思い出します。一つのケーキをみんなで分けて食べていたようなあの頃、大小の違いはあるにせよ、目前の自分の分に夢中なので、そのことにはあまり気付かず、みんなで同じケーキを食べているというシチュエーションに酔っていたあの頃、懐かしいです。
第二に男しか出てこない。日本映画に女が出てくると、いきなり無条件に、全登場人物のキャラクターがジェンダー的にデフォルメされてしまい、観ているわたしは「そんな女いねーよ、そんな女いねーよ」とつぶやくことで、しょっちゅう眉間のしわを延ばさねばならず、物語に集中できなくなってしまう。ところが「キサラギ」にはそんな苦労がない!だって生身の女が出てこないから。
もう少し突っ込んでみましょう。「キサラギ」とは三流アイドル女の子ちゃんの名前です。出てくるじゃん女。しかもタイトル。そう、そこがまた言い得て妙。商業的アイドルってものは、職業として「女の子」を演じていると一般に了解されています。そのような存在は稀で、女性を物語る言葉の多くは、だいたい全てにおいて、女性自身の実態から乖離しているのじゃないでしょうか。処女、淑女、聖母に悪女にアダージョ、エビージョ、えとせとらエトセトラ。さらにキサラギは死んでいる。完璧に沈黙しているのです。キサラギが本当はどんな人だったのか、自殺の理由は何か、それとも他殺かあるいは事故か、キサラギの実体ことごとくはすでに失われているので、男たちは持ち寄った断片をつなぎ合わせ、かろうじて想像を逞しくするしかない。いくら考えても悩んでも、キサラギの本心を知ることは永遠にできない。挙句の果てに彼女が死んだのは自分のせいだと言って頭を抱える。まるで殺人者であることを競うように。
そんな男たちの到達点は、おのれの悲しみを癒すこと。自分にできるのは自分の心を見つけることだけ。オレこそが彼女を助けたり導いたり育んだりしたという自負は、或いはしなかったという自責は、みんなユメマボロシだったと納得し、そんな彼女への届かぬ愛を抱くオレを、オレは可愛いと思う、オレはオレを愛していると気付く。素晴らしいです!麗しい物語です!僭越ですが、ワタクシはここに初めて真っ当な男の愛を見た思いがいたしますのです。男って悲しい生き物なのねー。男の心ってドーナツ型なのかしらー。真ん中の空しいところを誰かに埋めてもらいたいのねー。解るわその気持、辛いわねー。「キサラギ」観終ってからの数分間、ワタクシは心からそんな男心を愛しいと思ったのでした。
もう少し続けましょう。「キサラギ」の最も秀逸なる点は、男社会の構造をわかりやすく紐解いて、おもしろおかしく見せてくれているということ。追悼に集まった5人の男たち、どれだけキサラギの情報を手にしているか、キサラギファンとしてどちらが上かということでお互いを推し量り始めます。しかしそれはまだ気楽なゴッコ遊びの延長線上、ハンドルネームでこと足りる世界。職業を持ち出すことで関係性に微妙な変化が。中に一人、「無職です」と告げる人物にみなは落胆。「それは言わない方がよかった・・・」と言って。「無職」が紛れ込んでいるということが、集まりそのものの価値を下げてしまうとでも言いたげです。そしてさらに現実へ踏み込むきっかけは、キサラギの死に対する疑念でした。そこから繰り広げられる本当の戦い、それはキサラギを同心円としての、より一層中心点に近いのは、一番の重要人物は誰なのかという戦いに他なりません。5人は共通のファンという立場以上に、実はキサラギを取り巻く存在としては、まったく違ったポジションにいたということが、謎解きの過程で暴かれていきます。男たちは共感し動揺し敵対し、憎みあい許しあい愛を分ち合う。
男たちが、「もしかしてオレは彼女のこと何も知らないんじゃないか?オレの思い描いていたのはオレの創り出した幻影なのかも」って思うところで大きく頷き、「だけどそれでもいいや。彼女はオレにとってオレだけの彼女だもの」と自らを癒すところで手を叩き大笑い。「男心」を描いた他に類を見ない、正直で等身大の、しかし意外と奥深いイケテル映画だと思います。たぶん製作者の意図とはだいぶズレてると思いますけど、大絶賛!です。
「キサラギ」
2007年 日本映画
監督 佐藤裕市
脚本 古沢良太
5人の男たち
家元:小栗旬
オダユージ:ユースケサンタマリア
スネーク:小出恵介
安男:塚地武雅
イチゴ娘:香川照之