アメリカではかなりヒットしたそうです。しかも受賞した脚本賞を含めて、アカデミー賞4部門ノミネートという話題作。映画のオフィシャルサイトから流れてくる、ソフトでナイーヴで普段着なサントラを耳にしていると、こういうふうな曲が全米チャート1位になるなんて、アメリカ、もしかして最近変わった?などと思えてくる。で、ニッポンではどうなんでしょうね、観客動員数どのくらいいくのかなー。
この映画はティーンエイジャーの妊娠と出産の物語。すごく分かりやすいテーマですよね?ヤバいことがおこって、前向きに対処して、いろいろ経験つんで成長して、諸々無事に終了して、はいおしまい、です。だから正直、今ひとつ引っかかってかなかった。特にこれはすばらしい脚本のせいだろうと思われますが、ストーリーに不自然さがなく、脚色に衒いがなく、主人公の言動や判断基準にまったく違和感がなく、物事はおおむね順調。「へー」と思うこともたくさんあったけど、そこはそれ外国の話だから、で納得していた。例えば、激高しない父親とか、腹ボテでも普通に通える高校とか、「養子縁組募集!」などという個人の広告とか。
それが一変して、「ジュノ」はストーリーとして興味深いのだということに気づかせてくれたのが、ニッポンのTVドラマ「14才の母」。これがまたすごかった。きついきつい社会の掟、冷たい冷たい周囲の人々、すごいすごい自己責任の嵐、怖い怖い命がけの出産。ぎゃーぎゃー騒ぐだけの父親、おろおろするだけの精子君。苦労しっぱなし命かけっぱなし妊産婦の怨念がとりついたかのような驚愕のドラマでした。なんでー!どうしてー!と叫んでいるうちにドラマは終わってしまった。最後は精子君と婚約したようですけど、それってハッピーエンドなの?もうそれすらも分からなかった。一方は120分あまりの劇場映画、もう一方は全編540分の連続TVドラマ、事件の量やストーリーの展開なんかが違ってくる訳ですから、単純に比較はできません。できませんけど、同じ地球上で、こんなにも大きな違いって・・・・
「ジュノ」では、恋愛と、セックスと、妊娠と、出産と、子育ては全部別のこととして語られています。というか、作者の頭の中では明確に別のこととして整理されているようです。それに主人公は妊娠中も、当たり前ですけど、高校生としての普通の精神生活を続けています。セックスしたからと言って精子君とつき合っていると思っているわけでなく、出産を決意したからといって、母になることを望んだ訳でもありません。その考え方の道筋は至極まっとうで自然なことだという気がします。あんまり真っ当すぎて、現実にはアメリカでだってジュノの選んだ道はプレッシャーの大きい大変なことという事実を忘れてしまうくらい。例えば、ジュノが大きなお腹で学校の廊下を歩くと他の生徒はみなささーと両側にひいていきます。そこでジュノは内心「これがモーゼの孤独ってやつね」とつぶやく。
「14才の母」では、出産を決意するということは母としての自覚を持つことであり、義務教育の最中なのに退学し「子育てに専念しろ」圧力がかかり、普通の14才の精神生活はいっさい語られず、幼いながらもどれだけ母として生きていけるかのみが追求されます。そして主人公の未来ちゃんはそんな雪隠詰めの中にあっても、ひたすら健気に、倒れても倒れても(まるで白血病の少女)母となる日を待ち望むのです。妊娠が懲罰のようです。「ジュノ」でモーゼの行進になぞらえられた友人や学校との関係では、未来ちゃんの場合「妊娠した生徒がいるってことは、学校が汚れるから退学」という同級生や教師たちの大合唱として表現されます。見守るしかない視聴者のわたしは、絶句して目を白黒させるのみです。イバラ道を選ぶ主人公への同情からではなく、設定に対する違和感に窒息しそうです。
やはりテーマは「母」なんです。若年であることとはつまり、「母」観念の言わば最前線であり、それは通常の「母」観念の臨界が如実に反映されるってことだと思います。一方の社会では「母」は女たちの共同作業と言ってよく、一方では「母」は唯一絶対の存在です。絶対とはつまり侵さざるべき、つまり特化、つまりこの場合、押しつけ、差別、放置。このニッポンというところは制度として観念として「母」が肥大している異常な社会だと気づきました!(なんで「ジュノ」観てこんな話になっちゃったかな・・・・)認められていない代理母出産しかり、法的欠陥と言っていい離婚後の300日規定しかり、戸籍上の表記問題しかり、こんなふうに「母」を社会の変容から閉め出すことで、いったい何を守ろうとしているのでしょう?「このままではニッポンは滅びる!」って、ここで言う台詞じゃないでしょうか。
「ジュノ」にニッポンのマンガが出てきます。セーラー服にお腹丸出しで格闘する「スーパー妊婦ユキ」。実現しないであろう最強ネタですが、だからこそのスーパーブラックジョークだったんでしょうか?わたしのジョークセンスを超えてます。どなたか感想をお聞かせくだされば嬉しいです。
「ジュノ/JUNO」
2008年 アメリカ映画
監督 ジェイソン・ライトマン
脚本 ディアブロ・コディ(本作品でデビュー、アカデミー脚本賞受賞)
出演 ジュノ エレン・ペイジ
リア(親友)オリビア・サルビー
ブレン(義母)アリソン・ジャネイ
ヴァネッサ(里親)ジェニファー・ガーナー
ポーリー(精子君)マイケル・セラ
マック(父)J.K.シモンズ
マーク(里親)ジェイソン・ベイトマン