ポニョは分かります、主人公の名前です。まるまると太って、体全体がポニョポニョと柔らかいからポニョ。それじゃあ崖の上って?もう一人の主人公である人間の男の子、宗介の家が海を臨む崖の上にあるから?崖の上、見晴らしの良い、風通しの良い、すてきな一軒家。だけど嵐のときは荒波や突風をまともに受ける孤立した一軒家。崖っぷちの一軒家。なんで崖っぷち?誰が崖っぷち?それはきっと、宮崎駿監督自身が崖っぷちであるからと、わたしは思いました。
宮崎駿監督の映画製作は4年ぶりなんだそうです。4年前と言えば「ハウルの動く城」。ところがその次にスタジオ・ジブリとしてはもう一本、「ゲド戦記」。これ、駿監督はノータッチと言われています。長男の宮崎吾郎が初監督。なんで駿監督は製作に携わらなかったんでしょう?その頃彼はもう創らない、引退すると言ってましたっけ。なんでやめる気持ちになっていたんでしょう。更に「崖の上のポニョ」で再デビュー。揺れる監督ゴコロ、いったいどうしてなんでしょう。巨匠たるもの死ぬまで現役でいて欲しい、ファンの多くはそう望んでいることでしょうに。
まっ、いいです。人の内面はなかなか推し量りがたいもの、ましてやアーティストの気分をや。。。ただやはり、苦しんでるなーってふうに想像してしまいます。もう創れない、いやこのまま終わってはいけない、次世代の子供たちに何か残したい、自分にいったい何ができるのか、今までいったい何をしてきたのか、自分の人生はなんだったのか、などという、言わば「答え」を求めているような。自分探しをしているような。ポニョに託して、もう一度産まれ変わってやり直したいというような、悩める老人のイメージが映画全体を悲しく覆っている気がするんです。
ポニョはかわいいということになっています。でも、本当は怖いのでは?轟々たる嵐の中、津波のように盛り上がる真っ黒な海のうねりをモノともせず、っていうかポニョ自身が引き起こしている超絶自然現象なんですけど、波頭の上を全速力で走り回る、闇夜に浮かぶ赤い子供。そんなものを目にしてしまったら、怖くてブルブル震えてしまう、わたしなら。そんなものに追いかけられたら、「おーたーすけー!」とかなんとか叫んでしまう、わたしなら。監督の情念が込められているような気がして、なんだかちょっとゾッとなりました。
ポニョの出現とともに世界は水に覆われ、町は海に沈み、人々は孤立しさ彷徨う。海中はファンタジーの世界であり魔法の世界であり、小さくなって点在している島々はかろうじて残った人間の世界、といったところでしょうか。駿監督のココロから何かがドバッと止めどなく溢れ出てしまったような感じです。
わたしの推理はこうです。残すべきものは、次世代の子供たちへのメッセージなんだと決心した駿監督、うーんうーんとがんばって、未だたどり着けないファンタージェン目指し、深く深く自身の内面に潜っていこうとします。思い馳せるのは、自身の子供時代。体の弱かった母親との愛の葛藤(NHKのドキュメンタリーで見ました)。例えば、映画の脇キャラクターにトキという婆さんがいて、老人ホームに車椅子で生活してるんですけど、魔法の海の力で元気はつらつ。この婆さんには監督の母親が投影されていて、宗介との関わりの描き方には随分ココロを砕いたそうです。「宗介こっちにおいで!」宗介が走ってくる、そして二人はどうするのか、何日もうーんうーんと頭をひねったそうです。そしてトキ婆は宗介を抱きしめる、というシーンにたどり着く。これ、観客としてはなんてことないシーンだと思うんですけど、監督にとって、とても大切なシーンなんだそうです。それは、監督自身のトラウマ、病気のせいで子供を抱き上げられなかった母の悲しみと子の寂しさの思い出の吐露であって、昇華であったわけなんです(NHKのドキュメンタリーで言ってました)。
それを知ったわたしの感想はこうです。この映画は監督の私小説です。スタジオ・ジブリ版「僕とおかん」です。そして、「女の一生」です。ポニョとは謎めいたパワーを持ってこの世に産まれてくる女の子、何事もテキパキと取り組み生活力旺盛な子育て中の宗介の母、或いは船上の赤子を抱いた若い母親、そして老人ホームで余生を送る婆さんたち。更にポニョの母である海なる母(叶姉妹似あるいは観音様似)、それらはきっと、全てたった一人の人の思い出に連なっているのでしょう。
男ジェンダーを持つ人の母なるものへの思慕は、あまりにもロマンチックで理解しがたいところもありますが、宮崎駿ワールドの少女戦士がなぜいつも悲しいのか分かったような気がします。今後、駿監督はどうするでしょう。もう気が済んだでしょうか?つまり引退でしょうか?そんな話は聞こえてきませんが。結構なヒットに気を良くして、第二第三のポニョを産み出していくでしょうか?それとも、ようやっと溢れ出たなにかしらから、これまでなかったような宮崎駿ワールドが出現するってこともあるのでしょうか?