今月のマモルくん
ワケの分からない「守る」の使用例
2017.04.27
by 牧野雅子
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とある議員が重婚だわ、ストーカーだわ、でもって、メディアは病気療養中の妻が謝る姿を流すわで、なんなのこれ! と頭にきていたら、しばらく忘れていた人のことを思い出した。そういえば彼もマモルくんなのだった。


今回のマモルくんことC氏30代(当時)。結婚して数年経った頃、妻の親が病気になった。長期間の入院と自宅療養、リハビリが必要なため、妻は仕事を辞め、親の看病をすることに。片道30分程度とはいえ、毎日実家に通って親の世話をするのはしんどい。妻が疲れていくのがよく分かった。C氏は妻に言った。「オレのめんどうはみなくていいから。オレは別に部屋を借りるよ」。


その話を聞いたとき、わたしは最初、何のことか分からなかった。看病が必要な期間は家に親を呼び寄せてもいいよ、気兼ねなく看病できるようにその間だけ自分は部屋を借りて住むから、という意味ではないらしい。C氏は妻と住んでいる家がありながら別に部屋を借りて住み、妻はC氏と住んでいた家に一人で住んで親の看病のために実家に通うのだ、と。たしかに、C氏の家から職場まではちょっと距離がある。といっても、普通に通勤圏内だし、通っていたんだよね。


それ、どういうことです?
「ヨメさんが大変だから。オレのメシ作って、親のめんどうもみて、って。だから、せめてオレがいなくなれば、オレのメシのことを考えずにすむでしょう。ヨメさんの負担を少しでも減らせたらと思って」
Cさんがご飯を作ればいい、それだけの話じゃないんですか? 
「へ?」
Cさんが、ご飯を作って、掃除や洗濯もすればいい、そういう話じゃないんですか?
「へ?」 


あのときの、「へ?」という顔は、10年以上たった今でも忘れられない。そんなこと、これまでの人生で一度も考えたことがなかった、とでもいう表情。あるいは、オレに何をさせる気だ? とでもいう表情。
ああ、アレ、なのか。妻が高熱出して寝込んでいたら、「ボクのメシのことは気にしなくていいよ、外で食べてくるから」と言う夫がいるとかいう、アレ。あるいは、「夕飯買ってきたから」と言ってテーブルに広げるも、自分の分のコンビニメシだけだったとかいう、アレ。
妻たるもの、夫の世話をするのが当然、それを免除してやるオレってエライくらいの感覚らしい。だから、自分が部屋を借りて家を出ることを、いいことをしてやったかのように話せるのだ。
C氏の妻から話を聞いたわけではないから、実際のところがどうだったのかは分からない。でも、聞いている方が恥ずかしくなる、ダメダメなC氏の言動が自慢話のように語られているところをみると、たぶん、状況は、かなり、悪い。
C氏はそれまでも、家事一切をやってこなかった。妻だってフルタイムで仕事をしていたのに、だ。きっと、結婚当初は、妻は夫に思うところを伝えようと、頑張ったのではないだろうか。けれど、何をやってもC氏は妻の意図を汲み取ろうとせず、妻は自分でやった方が早いと、C氏に分からせようと努力する方が疲れると、コミュニケーションを諦めたのではないだろうか。


そんなこんなの疲れもあったのだろう、妻も病気にかかって入院・手術が必要になってしまった。このシチュエーション、出ていった夫は家に帰るところでしょう。今度こそ、簡単でもいいからご飯を作って、雑でもいいから掃除もやって、毎日は無理でも病院に見舞いに行って、妻の療養生活を支えるところでしょう。ところが、である。C氏は家に帰らなかったどころか、飲み屋で知り合った女性と仲良くなり、自分の部屋に招き入れ、半同棲のような生活を送り始めたのだ。なに、それーっ!! 
その時のわたしは、かなり、キツイことを言ったのだと思う。C氏はシュンとして、その通りですね、と言い、でも、と続けた。


悪気はなかった。自分もつらかった。妻が苦しんでいる姿を見るのがつらかった。悲しんでいるのを見るのがつらかった。いつも笑っていて欲しかった。自分のことだけ見ていて欲しかった。親のことで泣いている姿を見るのが本当に嫌だった。
仕事で疲れて帰ってきたら泣いてるんですよ。「ただいま」ってドアを開けたら、泣いてるんですよ。帰るのが嫌になるの、分かって下さいよ。つらいんですよ。そんなの、見たくないんですよ。癒やしの場であるはずの家庭が暗いんですよ。ヨメさんまで病気になって、オレ、もう最悪。


親の病気で悩んでいる、連日の病院通いで疲れている、自身も病気にかかってつらい思いをしている妻を、自分に何もしてくれない、自分の気分を害する存在であるかのように語れる、その感覚に驚いた。妻を助けたいとか思わないのか。妻の辛さの原因を作っているのは自分っていう自覚も全然ないし。そもそも、C氏にとって夫婦って何なのだろう。


離婚を切り出したのは、C氏の方だったらしい。妻から切り出されていたら、プライドがズタズタになったに違いないとC氏は言った。最後にC氏が妻に言った言葉は「守ってあげられなくてゴメン」だったという。「守る」だって? プライド云々もすごいが、ここで「守る」を使えるのもすごい。何を守ろうとした? どう考えても、壊しているのはアンタだよね? これ程ワケの分からない「守る」の使用例もなかなかないと思う。

プロフィール
牧野雅子
牧野雅子(まきの・まさこ)
大阪府立大学客員研究員
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。

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