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スクールフェミ
家庭の中に介入する国家
17.02.09 by 深井恵



NHKクローズアップ現代の元キャスター、国谷裕子さんが書かれた『キャスターという仕事』(岩波新書)を読んだ。いまからちょうど一年ほど前、相次ぐキャスターの降板で、もう見るべき報道番組はほとんどなくなったと悲嘆に暮れていたことを思い出す。クローズアップ現代の国谷裕子さん、ニュース23の岸井成格さん、報道ステーションの古舘伊知郎さんの3人が、昨年度末で降板したのだった。

国谷さんのその後の動向は気になっていて、講演会があれば聴きに行きたいものだと常々思っていたが、その機会は見つけられなかった。その国谷さんの書籍だ。一気に読んだ。キャスターとして奮闘してきた経緯、帰国子女としての日本語のコンプレックスなど、クローズアップ現代の、あの堂々とした真実に迫る鋭い語り口からは想像できない苦悩の数々が語られていた。降板の顛末について、多くは語られていなかった。いわゆる「公平公正」な報道を望む人たちの思惑と、国谷さんの攻めのインタビュー姿勢が合わなかったのだろう。

局全体としてのバランスではなく、一つひとつの番組の中での「バランス」に重きを置いた結果・・・(何かの力が介入しているのか)いまほとんどの報道番組は、「自主規制」をかけ、報道の自由を自ら捨て去ってしまっている。昨年の日本の報道の自由度ランキングは世界180か国中72位(前年は61位)となり、大幅に順位を下げ続けている。数年前の2010年は11位だったのに、もはや見る影もない。

報道だけではない。家庭の中にも、国が介入しようとする動きが進んでいる。今国会で成立することをめざしているという「家庭教育支援法案」がその最たるものだ。その字面から、生活に困窮している家庭を国が支援するのかと、「いい印象」を受ける人がいるかもしれないが、これがとんでもない法案だ。

まずはその法案の目的。「この法律は、同一の世帯に属する家族の構成員の数が減少したこと、家族が共に過ごす時間が短くなったこと、家庭と地域社会との関係が希薄になったこと等の家庭をめぐる環境の変化に伴い、家庭教育を支援することが緊要な課題となっていることに鑑み、教育基本法の精神にのっとり、家庭教育支援に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにする・・・」(未定稿)という。

「愛国心の導入」を入れ込むために2006年に「改正」された教育基本法。その時に家庭教育の項目も新設された。その背後には、「親学」を推進しようとする動きも。「親学」は「子守歌を聞かせ、母乳で育児」「早寝早起き朝ご飯の励行」「子どもが発達障害にならないためには、3歳になるまで母親がそばにいて子育てを・・・」といった、とんでもない提言を主張している。

一人世帯が一番多くなっているのが現状だし、家族が共に過ごす時間が短くなっているのは、長時間労働が是正されていないからではないのか。非正規労働を増やし、良くも悪くも共働きが増え、長時間労働もやむなしで、日々の生活に精一杯の家庭を社会構造の中で作り出しておきながら、「だから家庭教育をもっとしっかりやれ」と国が各家庭に口を挟むとは、開いた口がふさがらない。

加えて、地域住民にまで「家庭教育支援を責務」と位置づけ、国や地方公共団体の施策に協力するよう努めさせるわ、文部科学大臣が支援の意義や内容について「基本方針」を定めると規定しているわ、国による圧力が家庭教育にのしかかってくる内容が盛り込まれている。

先行して「家庭教育推進条例」を成立させた地方自治体も出てきている。2013年に熊本県で初めて条例が施行されたのを皮切りに、すでに複数の自治体で条例が制定されているようだ。

岐阜県の家庭教育支援条例では家庭教育の中身にまで言及し、「基本的な生活習慣、自立心、自制心、善悪の判断、挨拶及び礼儀、思いやり、命の大切さ、家族の大切さ、社会のルール」を子どもに教え、育むよう規定し、更には「子どもの祖父母は、家庭の教育力の低下を補うため、保護者と協力しながら、家庭教育に積極的に協力するよう努めるものとする」と、「祖父母の役割」まで、規定している。

今国会で家庭教育推進法案が成立すれば、更に全国各地で条例制定の動きが加速されていく虞が出てくる。いまこうしている間にも、「草の根」で制定の動きが進んでいるのかもしれない。

「親子断絶防止法案」にも注意が必要だ。以前、DV被害者支援をしていた頃から時々話題になっていたが、「DV防止法被害者の会」という団体があるという。「DV防止法の被害者」とは、つまり、DV当事者(DV加害者)のこと。「両親の愛情が子どもの健全な発達には不可欠である」との立場をとっている。「DV防止法のせいで、家族が引き裂かれた」「妻や子どもと会えなくなった」と訴えている人たちがいて、「親子の断絶を防止する」と、これまた、ぱっと見「よさそうな字面」で語られる法案を、成立させたがっているのだ。

暴力を振るう姿を日常生活で子どもの目に触れさせるのは児童虐待であるという認識が、そもそも欠如している。暴力から逃れて生活できるようになった子どもたちを、再び暴力にさらす危険性はないのか。子どもを通じて居場所が知られてしまい、再び暴力を受けることになるケースはないのか。私自身、父が母へ暴力を振るうDV家庭に育った過去をもっており、この法案は、当事者の子どもの立場からみても、全くもって見当違いな、子どもを不幸にするとんでもない法案だと言わざるを得ない。

それにしても、法律で規定して、壊れないように縛らなければ成立しない親子や家庭とは何なのか。会いたくなるような親なら、子ども自らが会いに行こうとするのではないか。法律で規定しなければ壊れてしまう親子や家庭は、既にもう終わっているのではないか。そこにすがらなければならない関係、そこに集約させようとする国の思惑は何なのか。

「女性の活躍」を高らかに謳い、女性に職場でも家庭でも「活躍」させようとし、一方で男性の家庭での活躍は進まず、愛想をつかされて破綻した結果を、法律で繕おうとしているように見えて仕方がない。しかし、いくら法律で縛ろうとしても、現実との乖離が進むばかりで、何の解決にもならないだろう。「企業子宝率」を算出したり、「官製婚活」に予算をつけたり、「卵子老化説」まで唱え始めたり、なりふり構わずあの手この手で、結婚させよう産ませようとしているが、安定した生活が保障されない社会で、安心して子育てできようはずがない。いい加減、そこに気いてもいい頃なのに・・・。

著者| 具ゆり深井恵打越さく良阿部悠牧野雅子
プロフィール
深井恵
深井恵(ふかい・めぐみ)
九州某県の高校日本語教員。
日教組の「教え子を再び戦場に送らない」に賛同して組合加入。北原みのりさんとは、10年以上前(ジェンダー・フリー・バッシングがひどかった頃)に組合女性部の学習会講師をお願いして以来の仲。