投票日は迫ってきたが わたしは悩んでいる。誰に投票するのか、決めかねている。自分の選挙区にこれはと思う人がいないからだ。無効票となるのをわかっていて本当に投票したい人の名を書くか、消去法で無理やり選出する人を特定して、不本意ながらその名を書くか、まじめに悩んでいる。比例区で指示する政党名を書けばいいのだが、それだけでは済まない気がする。一票に自分の気持ち(念と言ってもいい)をこめるには、それだけではどうしても間接的な気がしてしまう。
世の中には様々な格差があるが、わたしの最も気になる格差の一つが、「一票の重さ」である。昨年の参議院選挙では、東京都と鳥取県の間には最大5倍以上の格差があった。司法の判断では、6倍以下なら合憲という判断だったそうだが、6倍という設定に何の根拠があるのだろうか。疑問疑問疑問、疑問百倍である。そして今回の衆議院選挙、一票の格差は最大で2倍以上。選挙区制度をああだこうだといじったのは、定数是正が目的だったはず、にも関わらず2倍以上。わたしはこの国の政府のこんないい加減さが心底いやである。選挙とは民意を汲むために行うわけだ。その汲み上げるシステム自体がもともとおかしいのなら、どうしてその結果がおかしくないわけがあろうか。
前述の2004年参議院選挙において、比例区を除いた、選挙区での当選者のうち、最低得票数は自民党の田村耕太郎氏15万1,737票。落選者のうち最高得票数は無所属(今回衆議院選挙では社民党)の辻元清美氏71万8,125票。「一票の重さ」たるや実に4.7倍以上もの格差である。選挙区での当選者数73名。仮に得票数順に並べるとすると、辻元清美氏は21番目。辻元さんより低い得票数で当選している候補者は53人もいるのである。理不尽理不尽、理不尽百倍である。
それからもう一つ、国政選挙には最高裁判所裁判官国民審査というものが、おまけのようについてくる。しかしこれ、本当に機能していると言えるのか。多くの国民は誰が裁判官でどんな人で何をどう判断したのかを知る機会が少ない。司法機関がもっとちゃんと広報するべきなんじゃないか。インターネットで多少調べることもできるが、情報量は極めて少ない。例えば、旧日本軍の韓国軍人・慰安婦訴訟で原告の上告を棄却したのはこの裁判官とか、日本鉄鋼連盟事件で男女賃金格差を公序良俗違反としたのはこの裁判官とか、そのくらいのことを知ることはできるけれども。
(参考web site http://www.jdla.jp/state/2005shinsa.html#sai)
わたしは投票行為にまつわる上記のような憤懣を多少なりとも軽減するべく、支持する政治家を直接応援しに行くことにした。いざ、大阪10区。
高槻は雨だった。夕刻の商店街、郵便局の前で、辻元清美氏はピンクに塗装したビールケースを舗道に据える。濃いピンクのレインコートにレインハット。白いたすきを肩に掛け、マイクを握る。選挙活動のスタッフやボランティア、支持者が三々五々と佇んで辻元さんの一声を待つ。道行く買い物客もぽちぽちと立ち止まりだす。選挙応援演説は初めてという北原みのり氏、心持ち緊張している様子。わたしはやや後方で記録を撮ろうとビデオを構えた。まずは北原さんの応援メッセージ。それは演説ではなく、路傍からの友人からの自然体の、しかし熱いメッセージだった。「もう一度辻元さんに国会に立ってもらいたい。」そうそう、その通り。記録に呟く声を入れないように、わたしは心の中で、北原さんに賛同、と念じた。
ビールケースから北原さんが降りて、今度は辻元さんがその上に立つ。あのビールケースという舞台装置、なんだかとってもこの場に似つかわしい。わたしは選挙の候補者というものは車の荷台上からマイクを何本も握って演説するものだと思っていたが、今ここでは、候補者は通り過ぎていく一人一人に、立ち止まって聞いている一人一人に、同じ高さから語りかける。周りの人々との距離が近いので、自然に噛み締めるような静かな口調になるのだろう、一言一言手渡すように言葉を投げかけてくる。いつの間にかわたしは記録を撮ることも忘れて、辻本さんの語りに引き込まれていた。漠然としてバラバラだった、わたしにとっての「この国のかたち」が、辻元さんの理念に導かれて、はっきりとしたものにまとまっていくように感じていた。爽快だった。
その夜は幼稚園や小学校で講演会の梯子、次の日は朝の7時から高槻駅前で挨拶とチラシ撒き、その後午前中の1時間ほど、街宣カーで住宅地周り。辻元さんが助手席から手を振り、北原さんとわたしは後部座席で、あの「お騒がせいたしております!一票をお願いします!」と声を挙げ続ける役割を仰せつかった。渡された衣装は、白いポロシャツ、ピンクのキャップ、首にピンクのタオルを巻いて、ピンクの布手袋をはめ、その上から雨よけの透明ビニール・レインコート。ガーデニングか子供ハイキング引率のボランティアといった格好。わたしは大急ぎで、辻本さんの著書やチラシや社民党マニフェストの内容を見渡して、自分なりに決めの文句をまとめようと焦ったりした。「へこたれへん!の辻元です。せっかくだから、この辻元、使い倒して下さい!国会へ送り出してください!」しかし、これは幸い徒労に終った。当たり前だが、ちゃんとしたマニュアルが用意されていたのだった。
辻元さんの声が響く、団地のベランダに次々と人が出てきて手を振り返している。さすがに高い人気を目の当たりにして、飛び入りスタッフとしても胸の弾む思いだ。さあ、わたしにマイクが回ってきた。辻元さんから「迫力あるなあ」と誉められてつい調子に乗ってコブシを効かせ過ぎ、「朝からちょっとやり過ぎや」とたしなめられた。しかしたった10分声を挙げただけでもう、喉が枯れそうになってしまったのには驚いた。政治家たるには、声帯の丈夫であること、欠かせない条件である。
あの日を思い出すにつけ、わたしはますます無効票を投じたくなってしまう。「ピースでエコでフェアでフェミ」な社民党さん、この次は東京1区にも候補者よろしく。
*辻元清美のツジトモWEB http://www.kiyomi.gr.jp/index.html