夏休みに、久々に旧知に会いに行ったら、開口一番「で、フェミニズムと法律婚っていうのは、どう両立しうるのか聞かせて?」と笑顔で追求されました。みなさま、いかがお過ごしですか?
(蛇足ながら、もちろん法律婚がいかんとかいう話ではありません。ただ、フェミニズムを自らの思想と自認していながら、敢えて法律婚を選択するという行為の背景に、どんな考えがあるのか、純粋に知りたい、というのは非常に妥当な疑問だと、客観的には思うわけです。私の場合は、変節だと思っているし、男女の1対1の「普通の」カップルが届け出を出すことで法的保護を受けるという制度にのっかった(……ことで、自動的にその制度を支持している)ことに忸怩たる思いがないわけではないです。経済的に、一時的に制度を利用している(利用するところに追い込まれている)という状態であるといったところでございます。あう。ただ、事実婚との間に、私はあまり大きな差を見出せないでいるところもあるのですが、それはまた別のお話)
そんな私が今回取り上げようとしている本が、その名も『結婚しないでいいですか』。いいのかそれで。
書評を書くなどおこがましいほど本を読めていない昨今。たま〜に書店に行き、平積みの棚を眺め、オビ買いをしてしまいました。いいのかそれで。
オビの惹句は、「精神科医香山リカ氏 号泣!/まさか「ワーン」と鳴くとは思わなかった。あー。びっくりした。/『恋空』を読んでも『ホームレス中学生』を読んでも泣かなかった私が泣いてしまった。しかも、号泣。」
……何を大げさな、と思いつつ購入したものの、読んで納得。いや、号泣はしなかったですけれども、その気持ちはわかります。
先日、入院している友人のところにお見舞いに行って、「暇つぶしになれば……」とこの本を差し出したら、彼女は「え? その本、別の友人にお見舞いにもらった」と、シリーズ前作と合わせて2冊セットになったこの本をベッドサイドから取り出したのでした。しかもさらに、彼女自身も、第1作の『すーちゃん』を自分で買って持っているとか……。この驚くべきシンクロ率。この本は一体ナニモノなのでしょう。
主人公「すーちゃん」は、35歳独身。一人暮らし。貯金200万円。仕事もそれなりにやりがいがあってそれなりにがんばって、認められてそれなりに責任あるポジションに。『負け犬の遠吠え』を読んで、「負け負けっていいながら、この本、ちっとも勝ち犬にひれ伏してないじゃん」と溜飲を下げながらも、「美人でもなく低収入/歌舞伎も、落語も、着物も、お茶も、文楽もエステも/なんも知らない」と、「あたしは負け犬の中の負け犬だ」「結婚したら/納得されて楽だろうな/もうあれこれ言われない」と思ったりもする。実家の母からの電話は「彼氏はおらんの?」(言外に、いつ結婚するの?)から、「貯金はしとんのね?」(言外に、もう結婚はあきらめて、将来のためにお金をためなさい)に変わる。将来への不安も迷いもあるし、老後のことを考えたりもする。心無い人の言葉に傷つくこともあるし、友人の状況をうらやむこともある。ときに、心の中で毒づくこともある。自分の中の無自覚さ、鈍感さに気づいて反省する。恋をして破れたり、結婚して子どもが産まれる友人に、なんとなく距離を感じたり(余談ながら、結婚して妊娠して退職したその友人にも、いろんな思いがあるわけです)。嫌いなことばは「自分探し」。
自分に自信なんてないけど、それでも、「あたしはあたし」という思いが自然と自分の中に落ちてきて、迷いもありながらも、今の自分を受け止めて、淡々と生きていく。
私は号泣はしませんでしたが、じんわりと共感して、ときにくすりと笑って、なんとなく力をもらえる、そんな本です。
この本をオトコが読んだら、と思うと、なんだかいや〜な想像が沸き起こってきます。たとえば、5月のコラムで取り上げた、『30女という病』の著者とか。そもそも、乱暴な言い方ではありますが、30代女性を題材としたときに、オトコが書くとああなって、オンナが描くとこうなるのであります。書かれている対象は、あるいはそのディティールは、おそらくかなり近いものであると思うのに、そこに描き出されるものは、こうまで違う。そして私(たち)の受け止め方もまったく違う。
私がこの本から受け取ったものを、受け取れるオトコというのは、少ないだろうなと思う。
想像するに、「ひとりで家でご飯なんて淋しいじゃん」「オンナ同士って、やっぱりすごい緊張感あるんだね」「独身の女の人と結婚してる人って、やっぱり疎遠になるの?」「いろいろ考えすぎじゃない?」「将来が不安なら、そんながんばらないで結婚すればいいのに」といったところでしょうか。
そういう話じゃねえんだよと思いつつ、怒るより脱力して、説明する気も起こらないんだろうなあ。
そんな、通じないモヤモヤをいろいろ抱えながら、ときにへこたれながら、それでもその複雑なモヤモヤを捨てないままで、一日一日生きていきたいなあ、と思うわけです。
(さて、この原稿と、法律婚をしている自分とにどう整合性をつけるかというのは、これもまた別のお話……)
『結婚しなくていいですか―すーちゃんの明日―』『すーちゃん』益田ミリ・幻冬舎 各1,200円(税別)