「働きマン」

3次元より2次元がリアル、2次元より3次元が薄っぺら

 え〜っと、見ましたか、ドラマ版『働きマン』。読んでますか、漫画版『働きマン』。(ネタバレありです。要注意)
 テレビドラマなんてめったに見ないんだけど、初回だけ見てしまいましたよ。

 まったくご存知ないかたのために説明いたしますと、『働きマン』とは、講談社『モーニング』掲載の安野モヨコ作の漫画です。

 週刊JIDAIという週刊誌の編集部に勤める松方弘子という28歳の編集者が主人公で、彼女とその周辺人間の、「仕事」を描いた漫画です。なぜ働きマンかというと、仕事に没頭しているときの彼女は、さながら「働きマン」に変身しているかのようだ、ということなわけです。

 「仕事モードオン!! 男スイッチ入ります。『働きマン』(ペンを片手に変身ポーズ) 解説しよう!! 働きマンになると血中の男性ホルモンが増加して/通常の三倍の速さで仕事をするのだ。/その間、寝食恋愛衣飾衛生の観念は/消失する」

 そりゃまあ、「男スイッチってなんやねん!」「男性ホルモンが、仕事に役立つわけあるかい、ボケが」というツッコミは入れたくなるものの、働く女にとって、共感する部分は大きいと思う。あ、いや、「私にとって」ですが。

 ボロボロになるまで働かされて、体調悪くて鍼を打ち、彼氏にドタキャンされて「これで眠れる……」と安堵して、同僚とぶつかり、上司に怒られ、後輩は生意気で、仕事でミスもやらかして、でも、仕事の手応え、集中して働いて何かをやりとげた、何かを得たと感じられたときの快感はやめられない。

 スカした(死語)男の後輩の「オレは『仕事しかない人生だった』/そんなふうに思って死ぬのはごめんですね」というモノローグが入った後に、地の文で「それもある それも多分あって 確かにそのとおり/でも」と入り、そして松方のモノローグが「あたしは仕事したなーって思って/死にたい」と入るわけですよ。

 グットきませんか? 私はきた。
 んで、『働きマン明日をつくる言葉』とかいう名言集まで出ているようです。

 既にアニメ化もされていて、このほど菅野美穂主演でドラマ化されたわけです。余談ですが、ほんとに最近のテレビドラマの漫画原作頼りはすさまじいものがありますね。それだけ、新しいものを作り出すパワーが現場にないってことなのかなあ。……なんていったら、テレビ業界の人に怒られるかもしれませんが。いやでも、原作の人気と話題性に頼り、原作のストーリー性に頼り、原作のキャラに頼り、原作の粗悪コピーを作って終わり、じゃあ、テレビの存在価値なくないですかねえ。

 そいでもって、菅野美穂ですよ。いや、菅野美穂かわいいと思うし、割と好きなほうなんだけど、松方弘子役は、ちょっとイメージ合わねえんじゃねえの? と思ってたわけです。じゃあ、誰ならいいかって言われると、思い浮かばないんですけどね。結局、テレビに出てるような女優さんには、こういうキャラはいないってことなのかなあ。

 んで、実際放映見てみたら、予想以上にすごかったです。
 いや、かなり原作を尊重していると思うんですよ。設定ほとんどママだし、編集部のスタッフの見た目とかもがんばって再現してるし、「読んだことある!」と思う台詞がバンバン出てくるし。
 だがしかし。全っ然違うの。
 原作のグッとくる台詞がちりばめられてるから、「あれ? 意外とまともなのか?」と思わされそうになって、私が最初っからハスにかまえて見てるから、だめドラマに見えるのかしら? なんて思いそうにもなるんだけど、やっぱり全然違う。

 ドラマを見てるときは、「かなり忠実に作ってるなあ」と思ったけど、あらためて原作を読み返したら、シチュエーションとかも、けっこう変えてますね。
 ヒトコトで言うと、「テレビドラマ仕様」にされちゃってるんですよね。それは、男視点な気もするし、恋愛至上主義な気もするし。
 たとえば、恋人とこれから会おうというときに、スクープのチャンスが目の前にぶらさがってて、松方は迷わず仕事をとる。そこで、「迷わず仕事をとる自分がかっこいいなんて思ってない(まったく)」というモノローグが入るのですが、原作だと、それは、仕事で得るもののためキャリアのため、自分の人生を優先するから、なんだけど、ドラマではなんか、「かっこいいなんて思ってない。彼も大事」と言ってるように見えるんですよね。

 原作では、もちろん恋人は大事な存在だけど、仕事に対するプライドとか責任感とか充実感は、けして手放せないものだというのが伝わってくる。(仕事の邪魔はしないで、都合のいいときだけ、会ってセックスして癒してくれればベストなのに、って感じだよね、正直) それに対してドラマは、「仕事は大事だしやりがいがあるけど、でも、彼も大事。どっちをとるか迷っちゃう〜」という女として描かれているように見える。

 たとえば、署名原稿のせいで夜道で誰かにつけられて、オートロックのマンションに駆け込み、廊下をダッシュして自分の部屋に入って鍵を締めて、まだ呼吸も整わず震えも止まらないうちに、恋人から電話が入る。思わず「お願いだから今からきて。怖いの」という台詞が口をつく。

 なぜか、原作では恋人は明日から仙台出張、ドラマでは今出張で甲府にいる、と微妙に設定が違うんだけど、「ここで泣かれたら荷物作って寝不足覚悟で女の家へ行くよな/だから泣けない『出張じゃしょうがないねごめん……いいよ』『いいほんとうに大丈夫だから』」というのが、原作。
 ドラマだと、台詞はうろ覚えなんだけど、「ここで泣かれたら、甲府から車飛ばして来るよね。だから泣けない」というモノローグが入ったあと、菅野美穂は、思いっきり「私、無理してます〜!!!」というニュアンスいっぱいに「だいじょうぶ」って言うんです。「ここで泣かれたら……」云々の台詞が生きないじゃんよ、それじゃあ!

 彼女が演じた途端、同じ台詞でも、「無理して突っ張ってるけど、ほんとうは弱くてかわいい女の子」にされちゃうんだよなあ。低い声出したり、乱暴な言葉使ったりすればするほど、そっちに向かう。

 しかも、原作に全然ない、「今日はつきあい始めた記念日♪」だの、「初デートで一緒に買ったお土産が、ださいけどお守り」だのいう小道具が登場し、あげく、そんな女心がわかるからネタ元の女性が身を隠している場所を発見できたというおまけつき。何やそれ〜。

 バリバリ働く女は、男なんてどうでもいいわけじゃない(ヘテロの場合だけど)。大事にしているし、失いたくない。
 でも、もし二者択一を迫られたら、どんだけつらくても、身を切られる思いでも、迷っても、それでも自分自身の人生にはかえられない。どっちかひとつしか取れないんだったら、恋人を捨てる以外の選択はとれない。

 それが働きマンなんだと思うんですけどね。できる限り、両立する道を探りたい。でも、選択を迫られやすいのが、女という生き物だと思う(少なくとも今の社会では)。しかも、暗に男を取ることを期待されているのだと思う。その女像にノーを突きつけるのが、『働きマン』という作品なのではないでしょうか。
 (「男スイッチ」には、とりあえず目をつぶってでも、その姿勢は尊重したいのです)

『働きマン』1〜4巻(続刊中)安野モヨコ 講談社 各514円+税


INDEX
[2008/09/01]
オトコには読めない漫画
[2008/08/01]
「男の性欲」って奴はそんなに偉いんか?
[2008/07/03]
女子の国の内戦は終わらないという洗脳
[2008/05/01]
「三十路」だから「ミソジニー」なんですか?
[2008/04/07]
「男の幻想」にはつきあいきれません
[2008/02/29]
「『過激な性教育』妄想の暴走」
[2008/01/11]
長田真紀子から深井恵美さんへ
[2007/11/10]
「働きマン」
[2007/10/12]
ジュブナイルにフェミの萌芽を見る
[2007/08/27]
フェミの品格
これより前のコラムを見る
▼コラム一覧へ戻る  ▲topへ