坂戸恵美から江川綾子さんへ

いつも茶屋さんのお話、楽しく読ませていただいております。東京には10年弱住んでいましたが、会社と自宅を往復するだけで、巨大ターミナル駅新宿周辺でさえも、なかなか散策することもできずにいました。そして今、茶屋さんのコラムを読んで、東京についてぼんやりと考えています。もっと東京を知りたかったな……。

さて、私が文章を書く上で影響を受けた人というご質問ですが……。まず、小学生のころに本の楽しさや大切さを教えてくれた方がいらっしゃいました。この方は、近所に住むおじさんで、某大手出版社の会長まで務めた方のお兄様でした。このおじさんの家では、市の図書館から委託され、地域の人たちに本を貸し出していました。雰囲気的には、図書館の分室よりも、もっともっと小さい規模で、大体、50冊程度の本が玄関に置かれていました。そのおじさんは私が学校から帰宅するところを見つけては、「本を読んでいるかい? 新しい本が入ったので見にきなさいね。」とよく声をかけてきました。そして、本を借りにお邪魔すると、おじさんはニコニコしながら、「本は読んで損はない! 必ず自分に返ってくる何かがある! 本を読み続けなさい!」と必ずといっていいほど言うのでした。

図書館も書店もないこの地区は、本当に情報や流行といったものに縁遠いようでした。そんな場所で育ち、進学し、出版社でお仕事されていたおじさんの弟である元会長もまた、間接的にですが、影響された人物と言ってもよいかもしれません。

もともと僻地であるこの地区の小学校には、満足な図書室が設けられていませんでした。スチールの本棚が2、3あるだけの図書室には、古ぼけた本しかなく、そのためか、借りる人も少なかったようです。そんな状況をわかってくださっていたのか、元会長は、社長や会長になる前から、この小学校に新しい児童向けの本を贈ってくださいました。この量は本当に凄くて、文学全集あり、歴史漫画あり、単行本あり、百科事典も最新のものを贈ってくださいました。とりあえず、当時の市内に存在する書店(いずれも小さい規模ですが)より、品揃えは数段良かったような気がします(ただし、元会長の出版社から出された物だけでしたが)。

このような環境にいたおかげで、勉強の成績はともかく、本は好きな大人になりました。現在、小学校は廃校の危機をむかえ、ご近所のおじさんもお亡くなりになったために図書館の分室は閉鎖され、元会長も会長職を退いてからは小学校への寄贈もされなくなったようです。せっかくこのお二人のがんばりで、当時のこの地区の子どもたちは本に不自由しない生活を送れたわけですが、最近の動向からすると少し後退してしまったようにも感じます。

最後に、最近影響を受けた“本”という点で言えば、写真家であり文筆家でもあった星野道夫氏の本です。アラスカで生活しながら、沢山の写真と、沢山のエッセイを残された方です。星野氏といえばアラスカなどに生息する動物の写真で有名ですが、私は彼の文章がすごく好きです。読んでいるだけで、なんだか本物のアラスカを見たような気にさせてくれる……と思うのですが、自分が山育ちであるがゆえ、想像の中に浮かぶ風景は実家の山にアラスカの動物たち(場合によってはアラスカの人々)だという危険性はあるようです。それでもアラスカの自然や動物、人々の暮らしや文化(ここにおいては、民族の習慣、風習とか言ったほうがいいのかな)が存在する反面、それらを場合によっては維持できなくなるような時代の流れが存在するようで、そういった文章のひとつひとつがある意味現在の自分の立場を考えさせるきっかけとなっています。自然の中に暮らすとは何か。受け継いだ文化を守ることとは何か。その土地の人間なのだと言い切る人たちと、それを捨ててしまう人たち(自分)とは、一体何か。答えはまだ分からないままなのですが。

さて、江川綾子さんに質問です。よく読まれるエッセイストは誰ですか? 江川さんの選ぶ「このエッセイがすごい!」(略して“このエッセイ”)、是非お願いします!


INDEX
[2008/09/26]
内緒の理由
[2008/09/18]
ため息
[2008/05/01]
関わり方
[2008/04/17]
めざせよき母
[2008/03/27]
サービスと再就職
[2008/03/06]
とあるニュースが差別に思えて……
[2008/01/25]
女の腹
[2008/01/05]
坂戸恵美から江川綾子さんへ
[2007/12/20]
男子学生のご意見ですYO!
[2007/11/15]
住宅建設ラッシュの裏側で
これより前のコラムを見る
▼コラム一覧へ戻る  ▲topへ