女の腹

 腹の調子がおかしいといえば、家族や親戚、はたまた一部の医者からも批判めいた言葉を投げつけられることがあります。それが、腹の下のほうであればなおさらのこと。

 23歳で卵巣のう腫が見つかりました。会社の健康診断で見つかったので、再検査で指定された検査機関に出向くことが同僚にもばれ、経過観察のために定期的に通い詰める私に周囲から「もう女としてはやってけない人!」というレッテルを貼られてしまいました。この病気の原因などお構いなし。場所だけが周囲にとっては絶好の批判対象であったらしい。しかし、この病気の存在を知っている身内でさえ、「男にだらしないからそうなったんじゃないの?」とか、「因果応報」などと言ったりしました。それに、当時はまだ開腹手術だったため、体に傷を残すことになります。だから、そんな娘が将来結婚や出産できるかどうかということを心配しだして、医者から手術をすすめても、親は首を縦に振らなかったのでした。そのとき手術をするにあたっては、腸に炎症や癒着があるので一緒に診ましょうということだったけれど、手術の際の同意書にサインをするであろう親たちが反対ではこの話を断る以外になかったのでした。数年後、叔母が卵巣のう腫で手術した後に私に言ったことは、「あのときはごめん。お母さんに手術はやめさせるように言ったこと……」でした。

 その後も私の腹にはトラブルが起こりました。生理と同じ時に襲ってくる酷い便秘と息もできないくらいの腹痛。これによって私は数回病院に駆け込みました。あるとき仕事中に痛みに襲われ近くの病院に連れて行かれました。医者は単なる生理痛で来た患者に対して、容赦ない言葉を浴びせます。「どうして生理痛くらいで時間外(外来)にくるわけ? 痛み止めなんて市販でも沢山あるでしょう? どうして飲まないわけ? これしきのことを自己管理できないわけ?! こっちも忙しいの!」そして、大量の痛み止めを処方され、泣きそうになりながら家に帰ったことがありました。会社の女性の上司から「そっちが弱い人」と言われ、ショックを受けたこともあります。「生理」が仕事場では口に出すべきではないもの(ばれてはならぬもの)であり、「便秘」という隠すべきものまでがばれてしまい、それに対する周囲の偏見や好奇の目もありました。それからは、同じ状態になりそうなときは、あらかじめ下剤と鎮痛剤を飲みました。どんなに痛くなっても、それが一種の生理痛だと思い込んで、痛みが治まるのを待っていました。

 しかし最近、同じ痛みが普段も起こるようになってきました。これも激しい痛みで、息ができないほどなのです。そこで救急車を頼んで病院に運ばれるのですが、心当たりのある症状としては便秘くらいのことだったので、本当の原因はいつも分からずじまいでした。そこで医者に言われることといったら、「もう大人なんだから……。あなたは子どももいるでしょうに。」でした。結局、自分の腹を管理できない女……。「精神的な疾患によるものかもしれないから、紹介しましょうか?」と、脳神経外科の医師がおっしゃいましたよ。

 もう、便秘とうまく付き合っていくしかない。それからは胃腸科の病院に定期的に薬をもらいにいく生活が始まりました。

 年明け、転機はやってきました。その日は通っていた病院が休診日でしたので、別の病院で薬を頼むことにしようと。そして近所にあるできたばかりのクリニックに駆け込みました。すると、ベルトの下の腹のふくらみを見て、医者が言いました。
「そのふくらみはいつからできたか覚えていますか?」
このおなかのふくらみは以前からあったもので、痛いといっても全ての医者が「便秘」と判断した場所でした。しかし、その先生は、そのふくらみは腹壁瘢痕ヘルニアであると言ったのです。症状としては、お腹の手術でできた腸壁にある傷が裂けるなどして、そこから内臓や脂肪が皮膚の下まで飛び出すもので、便秘や腸閉塞を引き起こし、酷い場合は小腸が壊死してしまい命に関わるのだとか。

私はまったく聞き覚えのないその名前に、正直嬉しいと思いました。原因があったのですから。それが治ればこれまでのお腹の不調も治るか、少なくとも軽減はするでしょうという嬉しいお言葉をいただき、手術のできる病院に移り、近々手術をする予定です。

 年齢もあってか、周囲には手術を止めろという人もいないし、自己管理ができていないからだと責めたてる人もいないし、体に残る傷を将来がなくなるからと心配する人もいない。嬉しさ100パーセントだといいたいけれど、過去のお腹の手術や不調に対する周囲の批判や周囲の反応を考えると腹立たしさがよみがえります。結局、用が済んだからどうぞご自由にとでも思われているんじゃないか、ということもちらりと考えるのです……。女は腹の具合で評価され、時に批判され、動向を監視されもするものだと思いしらされる出来事でした。


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