サービスと再就職

 レジに並んでいる……世の中には二通りの人間がいるのではないかと思う。それは、レジの間違いを「間違っています」と言える人と、言えない人である。そして、私はどちらかというと後者。

 せんべい売り場で時々買うお気に入りのせんべいがあった。休みの前ということもあり、これを買ったらみんなでニコニコしながら食べるんだと思い、普段は定価では手に取らないこのせんべいが賞味期限間近とあって50円引きだ。迷わずかごに入れる。

 それをこの男性は、50円引きしないでスキャンした。そして、表示画面を見て言う。
「おせんべい、298円。」
そして、かごに入れる……しかも、商品を裏返したままで! だからJANコードは見えても、値引きシールは裏に隠れてしまった。
 心の中で「えっ!」と驚いたと同時に、今言うべきか、それとも、サービスカウンターに駆け込むべきか迷った。でも、レジ歴の持ち主である私の経験上、間違いは同じレジで精算するのが常だったはず。サービスカウンターに行っても、このレジに案内されるだけだろう。50円、涙をのんで忘れるべきなのだろう……そう思った。

 最近のレジは、商品をスキャンするときの読み取り部分が上を向いているのが少なく、たいていはレジのキャッシャーの正面に付いている。だから、以前は商品の下にJANコード、商品の上に値引きシールなら、必ず値引きシールが目に付くはずだったが、今は違う。他のスーパーなら、値引き後のJANコードを貼り付けているところもあるが、ここは違った。
 しかし、そんな私に神が舞い降りた。レジの彼はシャケ入りのビニール袋を手にとって、
「シャケ、4点、392円」
と言った。実際は3切れだったので、ここで初めて私は声を出すことができた。
「え?」
たったこれだけだったけれど、それは効果があった。彼は謝って、「あ、3切れでした。」と言って打ち直してくれた、とそのときは思った。しかし、精算後レシートを見て気付いたのだが、シャケは取り消されただけで、3切れのシャケは登録されていなかった。彼は「直前訂正」キーを押しただけなのだ。一般的に、「直前訂正」キーとは文字通り直前の登録を取り消すものだ。
 50円の値引き忘れと、シャケ3切れの未登録。結果的にお金を払わずに帰宅してしまった私……。シャケは冷凍庫でしばらく寝かせることにした。

 とにかく、最近のレジ事情とは、かつてレジとしてアルバイトしていたころとは比較にならないくらいに進化している。客から受け取ったお金も、一応レジ担当者が確認するが、機械に入れて正しい預かり金額を確認できるようになっている(そして、お釣りも機械が出してくる)。また、同じ商品を続けてスキャンすれば、違う音が出るようになっている。たとえば、通常「ピ!」であるが、商品が連続すると「ブ!」などだ。なんだか、レジ担当者が機械に信頼されていないように見える。その一方で、お客も信頼されていない。

 あるお店で、5000円札を渡し、レジ担当者も5000円と確かに言って、お金を機械に入れたのに、レジがありえない音を出して止まった。担当者はなんと、その札が正しいものなのか分からないので、こちらでお待ちくださいと言うのだ。あたしの渡したお札が偽者だったのか?と不安になった。機械を開けてみれば、一万円札のところに間違えて入れていて、しかも、機械の中でぐしゃぐしゃに折れ曲がっていたことが分かった。

 一方で最近のレジは、一時的な流行なのか、それともそういうやり方に変わったのか、商品と価格を正しく読み上げるということが一般的に行われているようだ。それなら全ての商品の価格を覚えて、読み上げた後にスキャンしてくださいと言いたくなるけれど、たいていは表示画面に出てきた文字と数字を読み上げている。正しいか聞いていてくださいということなのだろう。これがお客様へのサービスなのだろうか? そのためにレジを通り抜けるまでの時間が長くなったことに、誰も意見をしないのだろうか。

 あるテレビ番組で、レジのコンテストが紹介されていた。サービス向上のためにレジの技術を競うということらしいが、入賞者のレジでのやり取りはこうだ。ある客から店に置いていない商品を欲しいと言われ、担当者がうまく断るという設定で、出場者が言う。
「あいにくその商品は取り扱っておりませんが、お客様へのご奉仕というサービスはふんだんにございます。」
というような事を言ったと思う。それが模範的な回答というのだろうか。なんだか恥ずかしい気分にさせられる。レジの間違いに、ただ「え?」と言うことでとりあえずは汲み取ってもらえると同様、「あいにく取り扱ってございません」でこちらも納得できるのではないか? そんな過剰なサービスって必要なの?

 そんなある日のことだった。公園に集まる母親たちの一部は、強く再就職したいと思っているらしく、スーパーのレジなら時間の融通もきくのでいいのではないか? と言った。でも、スーパーやショッピングセンターは、主に土日が混むのであり、土日を最優先に来て欲しいと思うだろうから、「土日が仕事になると、ダンナに子供を頼めればよいけれど、結構つらいのでは?」と思わず言ってしまった。しまった……と思いつつも、“空いた時間を活用しませんか?”というような求人広告を見せられると、期待をしてしまうのも無理はないか。

 ただ、この中に若いころレジをした経験がある人がいて、「今のレジは昔ほど責任が無いのではないか?」というようなことを言っていた。それは、お金を自動的に読み込み、釣りをこれまた自動的に返してくれるからだ。では、今のレジの一番重要な仕事ってナンだろう? とみんなで頭を抱えてしまった。過去を考えれば、レジはお金を扱う仕事としてお金のやり取りにみな気を使っていた。そして、間違いなくスキャンする!とにかく、そういうことだった。当時がバブルの最中か、少し後だったからかもしれないけれど、時給も850円以上はもらえた。しかし今は、安いように思う。機械がかつてのレジの仕事を奪ってしまったからだろうか?

 しかし、あくまでもその渦中にいない立場としては、お金のやり取りの自動化は、もしかしたらそれに再就職できるかもしれないという期待を持たせてくれるようだが、お金の管理第一主義だった私たちを不安にさせるのは、お客様への対応という現代流サービス精神を発揮できるかどうか……だったりする。


INDEX
[2008/09/26]
内緒の理由
[2008/09/18]
ため息
[2008/05/01]
関わり方
[2008/04/17]
めざせよき母
[2008/03/27]
サービスと再就職
[2008/03/06]
とあるニュースが差別に思えて……
[2008/01/25]
女の腹
[2008/01/05]
坂戸恵美から江川綾子さんへ
[2007/12/20]
男子学生のご意見ですYO!
[2007/11/15]
住宅建設ラッシュの裏側で
これより前のコラムを見る
▼コラム一覧へ戻る  ▲topへ