緊急避妊が必要な状況といったら、あなたはどんな場面を思い浮かべるだろう。コンドームが破けたとき? 外に出してって頼んだのに中出しされたとき?
緊急避妊という避妊技術の開発に誰よりも貢献したのは、医師でもなく製薬会社でもなく、世界中のレイピストたちだ。
1920年代、卵巣から抽出したエストロゲン様物質を交尾した動物に用いると、妊娠しないということが発見された。以来、この技術は、犬や家畜の妊娠を防止するために利用されていた。
初めて人間に投与されたのは1960年代半ば、月経周期の半ばでレイプされたオランダの13歳の少女だったという。(「性と健康を考える女性専門家の会」会報より)
『経口避妊薬 ピル』(ロバート・キストナー 1972年)のによると、初めて<モーニングアフターピル>についての研究が発表されたのは、1966年のことだという。
その際、エール大学医学部の研究チームによって報告されたのは、
「強姦により妊娠したと思われる女性について行われた研究の結果だったのです」
「通常使われる量の50倍から100倍も多い量で、投与を受けた女性たちは、当然、ひどい吐き気や嘔吐を起こしました」
「子宮内膜の状態が変化して受精卵が着床できないようになったためと思われますが、妊娠した女性はまったくなかったのです」
これらの事例の詳細はわからないのだけれど、当時の緊急避妊薬とは、流産の誘発剤、もっと言えば中絶薬に近かったようだ。スウェーデンでは、妊娠4ヵ月の女性が使用することで、流産を誘発するのに成功したという。これが<モーニングアフター>の一例として紹介されているのも、面白いなあ。いつの間に緊急避妊薬と経口中絶薬は別モノになっちゃったんだろう?
さて、その後もレイプ犯罪は常に緊急避妊の開発・普及を後押ししてきた。内戦時のコソボでは、緊急避妊ピルが配布されたという。避妊に非協力的なオトコなんていうのも、貢献度大だろう。
緊急避妊ピルの解説において、枕詞のごとく、レイプ被害者からのニーズが添えられるようになったのも、こうした背景があったからだろう。
「また暴行などの不幸な事態に巻き込まれた婦人においては、妊娠成立の阻止は切実な問題である」(『ピル』廣井正彦他 1989年)
「緊急避妊法/セックス際に避妊を忘れたり、失敗したり、またレイプされてしまったような場合、セックスから72時間以内に、決められた用量のピルを飲んで妊娠を避ける方法」(『ピル』北村邦夫 2002年)
といった調子で。
彼らがみな、レイプ被害に胸を痛め、憤り、そして誰よりも共感的なケアを実践してきた奇特な人物だと信じるほど、わたしたちはお人よしではない。もちろん悪人だとは言わないけれどね。
ピル普及を推し進めるにあたり、「レイプ被害者救済」は強硬な反対派をも黙らせてしまう、問答無用の切り札だったんだろうと思う。
だとしても、緊急避妊のユーザーのなかに、いつもレイプ被害者が潜在していることは紛れもない事実だ。強姦罪が成立するような犯罪被害者が20%いるとしたら、「繰り返し中絶」を経て緊急避妊法にたどりついた女性も同じくらいいるかもしれない。「かなしいこと.com」の掲示板に「アフターピルを探しています。先月中絶したばかりなのでなんとか避けたいんです」なんて投稿するような、「カレが避妊してくれない」女性は、その何倍にのぼるんだろう。
緊急避妊の技術は、そうした女性たちの歴史の上に築かれてきたのだ。
次回は、性暴力被害者支援の現場と、「もしもあなたや大切な友だちが被害にあったら」というお話です。 |
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