浜松市  

第14回 家族計画と緊急避妊

アフリカの家族計画関係の資料を探していたら、おお、<Emergency Contraception>の項があるじゃないの。資料の発行年を確認してみると、国際家族計画連盟によるAfrica Linkという資料が1995年4月発行、Program for Appropriate Technology in Healthと国際家族計画連盟の共同で制作されたハンドブックが1996年2月発行、ともに緊急避妊法がしっかり紹介されている。

95年? 96年? こんな早い時期から? 日本においては、例の家族計画協会クリニックの北村氏が熱心に布教し始めたのが98年ごろだと思う。日本母性保護産婦人科医会(現在の日本産婦人科医会)の医報を通じてその重要性を訴えたのだという。第11回でご紹介した、性暴力被害者支援に取り組むまつしま産婦人科医院でも、緊急避妊薬の投与は98年ごろからだと言っていた。

ハンドブックで掲載されていたとしても、その情報が普及するまでには、数十年のタイムラグがあるだろう。識字率の低い国ではなおさらだ。アフリカ各国の女性たちの間では緊急避妊法が広く認知されているなどと言うつもりはないのだけれど、しかし、専門家向けの情報提供が行われた時期を比較しても、日本はあまりに遅い。そしてアフリカの資料はやはり「行き届きすぎている」ような印象。

低用量ピルだって認可されたばかりの日本だもの、世界水準からは相当遅れてんのよという見方もあるだろうし、途上国の産児調節って過酷なのかしらという感想もあるだろう。たぶんどちらも正しいのだと思う。

Africa Linkの避妊法のページをめくってみよう。まずは経口避妊ピル、次に注射、その次がインプラント、そしてIUD、コンドーム、殺精子剤と続く。馴染みのうすい注射やインプラントという避妊法からわたしが連想するのは、一本のドキュメンタリー作品だ。

ほんのわずかな食糧とひきかえの不妊手術。処置室に文字通り列をなす女性たち。部分麻酔による強引な手術に悲鳴を上げる患者、その手足や口を押さえる医療スタッフ。1件45秒で手術できるようになったんですよ、と誇らしげに語る白人医師。インドの人口政策に関するドキュメンタリー『もうひとつの戦争』(1991年)は、見ているこちらの子宮までズキズキと痛くなる作品だ。

インドは1950年代から人口政策を開始、70年代までは男性のパイプカット手術が推奨されていたが(実際のところは推奨というより強要といったほうがいいらしい)、ときの首相が選挙で大敗したことをきっかけに、人口政策のターゲットは女性に移行した。外性器の精管をカットするよりも、内性器の卵管をカットする手術のほうが身体への負担が大きいだろうに。当然のことながら死亡事故も起きているという。ちなみに、いわゆる先進国での不妊手術では管をとめるだけだけど、ここではぶっつり切断している。

女性たちは、何重にも搾取されている。前述の注射やインプラントは、安全性が確認される以前から(今だってけっこう怪しいと言われている)、途上国の女性たちに利用されていた。おまけに注射は1ショットで3ヶ月間、インプラントは1度埋め込んでしまえば年単位の避妊効果がある。経口薬のような飲み忘れ事故は防げるが、裏を返せば「なんだか体調悪い」と感じたところで、自分でやめることができない。発売元である欧米の製薬会社にとって、これほどおいしい市場はない。
いや、経口避妊ピルだって、アメリカの研究者によって開発され、プエルトリコでの大規模な臨床試験を経て実用化に至ったのだから、驚くほどのことではないんだろうなあ。このとき、当初は日本で臨床実験を行う予定だったが、許可が下りなかったと聞く。

わたしが昨年、マリとコート・ジヴォワールに行ったときも、現地在住のフランス人からこうアドバイスされた。「こっちで薬は買わないほうがいいわよ。同じメーカー、同じ商品でも、中身は違ったりするからね」つまり、同じ商品名のアスピリンでも、錠剤の成分は本国で販売されているものと異なっていることもあるのだという。本国ではすでに販売できなくなった数世代前の薬剤を、アフリカの国々に売りつけるようなことも平気でできてしまう。それが旧植民者であり、現在も植民者である者たちの姿だ。

地球の北側の国に生まれて育ったわたしたちは、日々搾取されているのと同じくらい、誰かを搾取して生きている。ピルの錠剤を前にすると、この小さな粒のために一体どれほどの女性たちが命を落としたのだろうと想像せずにはいらない。こういうのって、いたたまれない気持ちになってしまう。

INDEX
調査内容詳細はこちら
第29回 [2003/07/30]
緊急避妊のお値段

●調査地域 [大学病院付属病院(私立)]
第28回 [2003/07/23]
目指せ、ヤミ堕胎

●調査地域 [大学病院付属病院(国公立)]
第27回 [2003/07/15]
中絶をめぐるわたしの空想

●調査地域 [大阪市]
第26回 [2003/07/08]
イイオサン

●調査地域 [京都市]
第25回 [2003/07/01]
村上節子さん

●調査地域 [長崎市]
第24回 [2003/06/03]
ピルは飲むのか入れるのか

●調査地域 [鹿児島市]
第23回 [2003/06/03]
パイプカットのお値段2

●調査地域 [宮崎市]
第22回 [2003/06/03]
パイプカットのお値段1

●調査地域 [大分市]
第21回 [2003/05/27]
男性用ピルかパイプカットか

●調査地域 [広島市]
第20回 [2003/05/20]
「排卵法」と「粘液法」

●調査地域 [岡山市]
第19回 [2003/05/13]
合掌

●調査地域 [和歌山市]
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