わたしが通った大学では、中絶は言うまでもなく「殺人」だったけれど、避妊だって全面的に奨励されていたわけではない。ご存じの通り、バチカンは依然として夫婦の行為から生殖の可能性を排除することを許容してはいないからだ。夫婦の肉体的な状態などの理由から出産の間隔あけることだけが、かろうじて許されている。
となると気になるのは、カトリック者のカップルは、いったいどのような性生活を送っているのかということだ。余計なお世話だとは思うけれど、わたしたちには想像もつかないんだもの。
十数年も前の報告書だけれど、『カトリック者の中絶・避妊に関する調査報告』(1988年)は、それでもじゅうぶん、彼らの痛みが伝わってくる資料だった。
報告書によると、この調査の目的は、「教会に来ている人々の現状、『避妊』や『中絶』に対して、実際、どの様な態度を取っているかを調査することによって、今、教会として何ができるか、または、何をしなければならないかを探索すること」。
教会に来ている20歳以上の女性を対象に、札幌から那覇までの16教区、800教会に調査票を配布。回収率は10%。回答者の平均年齢は45歳。
回答者の年齢が高いこともあってか、わたしが驚いてしまったのは、その妊娠回数だ。この世代は、このくらい珍しくないのか? いやそれにしても・・・。
「2回中絶、3人の子を大切に育てようと決心実行中」
「3人の幼い子がいる。もうひとりの子を出産する勇気がなかった」
「XX歳になってX人目を妊娠・・・X人でも大変なのにと友人にアドバイスされたが・・・」この女性は、出産費用をやっと工面し、産着やおしめを友人たちから譲り受け、無事出産する。ホントに無事でよかった。
「オギノ式による避妊に3回失敗」したというこの女性は、どうやらそれ以外に1回流産、3子を出産しているらしい。
「オギノ式による避妊はなかなか難しく、自然に任せていれば何人生まれたか分からない・・・避妊の必要性を感じていた時は、教会の教えに反するのでずいぶん悩んだ。恥ずかしかったが、夫婦で神父様に相談もしたが、具体的な返事はいただかれなかった。個人の良心に任せるということだった。夫婦で信者だった兄達が避妊手術をしたので、自分達も決心した。今では仕方がなかったのだと思う」
神父を前に小さくなってうつむいている彼女の姿が目に浮かぶようで、たまらなく切ない。なのに「個人の良心に任せる」という神父さまのアドバイスは、まるで禅問答みたいだし。この夫婦が選択した「避妊手術」とは、パイプカットのことだと思うけれど、コンドームでもなく、ピルでもなく、IUDでもなく、パイプカットならOKという判断基準はどこにあるのだろう?
「(避妊は)中絶よりもまだいいと思う。避妊をためノイローゼ様な夫婦は多く、子だくさんは皆失敗の子供という話も多く、もっと考えるべきと思う」
教会経由の調査にもかかわらず、こうした勇気ある発言も寄せられている。にもかかわらず、報告書の著書でもある松本信孝氏のコメントは、こんな調子だ。
「より確実に『排卵日』を知るために、いわゆる『排卵法』とか『粘液法』をマスターすることによって、禁欲期間を短縮しながら避妊の確立を高める方法を学ぶべきである」
「排卵法」とか「粘液法」、わたしは初めて知ったのだけれど、どちらも排卵期には禁欲しましょうという避妊法だそうです。「粘液法」っていうのは、排卵日前には膣の粘液が変化するから、それでチェックするんだろうな。それでも多くの女性が避妊に失敗し、望まない妊娠をしていると訴えているっていうのに!
しかしこの資料を読んであらためて納得したのは、カトリック系の病院でピルを処方しないのは当然だよなー、ということ。だってピルという選択肢はそもそも存在しないのだから。
さて、この調査によると、中絶経験ありと答えた人が124人で19.5%、なしと答えた人が509人で80.0%、無記入は3人で0.5%。
中絶の理由としては、以下のとおり。
母体の健康 32.6%
避妊の失敗 23.9%
障害児が生まれる可能性により17.4%
経済的理由 17.4%
その他 8.7%
「避妊の失敗」という項があるということは、それ以外の人はみな「あるがままの妊娠・出産を望んでいたのだけれど、どうしても叶わなくって・・・」ということだろう(表向きはね)。で、気になるのは、「障害児が生まれる可能性」という項なんだけど。
報告書の執筆者である前述の松本氏は、避妊の失敗や経済的な理由による中絶には手厳しいコメントをつけているにもかかわらず、なぜか「障害児」についてはおとがめなし、言及なし。「障害児が生まれるかもしれないから中絶します」っていう理由は、カトリック的にはやむを得ないこととして大目に見てもらえるということなの?
うーむ、カトリックの世界って不思議。ますますナゾが深まっていく。この連載も、ますます緊急避妊から離れていくような・・・。
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