●汝の馬車を星につなげ

浜野佐知監督が新しい映画を撮り始めた。尾崎翠の短編三作が原作だ。ロケは尾崎翠の故郷、鳥取県。おじゃまとは思いながら、金魚のフンのようについていった。

映画制作の現場は・・・・大変な緊張感に満ちていた。
美術部、撮影部、照明部・・・自主制作映画だからそれほど大所帯というわけではない。それでも十数人が、黙々とそれぞれのいるべき場所に立ち、それぞれがやるべきことを持ち、やらなければいけないことに真剣な顔で向きあう様子は、端から見ていて美しかった・・・・とボーとしていたら、「北原さん、邪魔」と何度も、制作部の人に怒られた。

邪魔! と怒れられつつ、出演者やスタッフの方にもお話を聞いた。これがまた感動的なのだ。だって。誰一人、友だちじゃない。表面的な甘い言葉はない。互いを気遣う必要はない。無駄口をたたく者もいない。弁当の数足りねぇんだよ! と文句を言いながら、オラ間抜けな質問するな! と怒りながら、現場は高い緊張感に包まれていた。鋭角にとぎすまされた時間が、キレイな一本の線をひくように。

浜野監督は「やりたい」ことに直進する人。スタッフの浜野さん評は一致していた。出演者の一人の方は「あれほど純粋な人はいない」と話してくれた。自分のやりたいことに向かって一直線に走る純粋さだ。

監督が怒鳴るところを何度も観た。監督に怒鳴られて沈む若いスタッフの息づかいを真横で聞いた。ハラハラした。それでも、現場は進行していった。高い集中力が持続されたまま。どんな小さな組織だって、人が集まれば「人間関係」ってものができる。だいたいそれでもめて解散ってのがオチだったりする。でも、この場において。この映画を創るこの場においては、あれだけの人がいながら「人間関係」というものに左右されないような崇高な使命のようなものが、現場を支配していた。

今、私がやりたいことはやらなくちゃいけないこと、私がやらなくちゃいけないことは私がやりたいこと。

大げさなようだけれど、生きていくっちゅーのは、そういうことの積み重ねでありたいものだ、というような気分にすらなったのだった。浜野さんの生き方を心から格好良く思った。

と、そんな現場に胸打たれた週末あけて、永井愛さんの新作「やわらかい服を着て」を観た。「やわらかい」とは、例えば「軍服」のような堅さとは真逆のもの。「国家」というような堅さとは違うようなもの。そんな意味が含まれている。

NGOをテーマにした芝居。「志」を共有した仲間たち。けれど、やはり「人間関係」が、高い志でつながっていたはずの仲間たちの絆を危うくする。ああコレって永遠のテーマなのか!

永井愛さんは当初、芝居のタイトル案の一つにエマ-ソンの言葉「汝の馬車を星につなげ」をあげていたという(パンフに書いてあった)。帰宅途中、なんどか声に出してみる。初めて聞いた言葉だったけど、今ほしいのはこの言葉だったんじゃないかと思うくらいに、胸に入ってくる。

汝の馬車を星につなげ。
汝の馬車を星につなげ。
帰ってきて同居人にも言った。
「汝の馬車を星につなげ」
「え? 何時のバス? 星をつかめ?」
人は聞きたいことしか聞かない。

やりたいこと は やらなくちゃいけないこと。
改めてそんなことを思う。
浜野さんがとりつかれたように映画に向かっていくように。
舞台の上の人たち(実在するNGOがモデル)が迷いながらも、今やらなくちゃいけないこと、を模索していくように。
最高の芝居を通し、きちんと闘い続ける永井愛さんのように。

幕が下り、ロビーに出たら永井さんがいた。吸い寄せられるようにフラフラと近寄っていったら、握手してくれた。「ホームページ、時々、読んでるのよ」とおっしゃって下さり、ううううと興奮して涙が出そうになった、出た。手がまだあったかい。

私は今、やりたいこと、いくつあるだろう。
やっていけるだろうか。やっているだろうか。
やらなくちゃいけないことに向かってまっすぐ歩める女の人に 私は近づきたい。私の馬車を星につなごう。

おまけ。
ほんじつの豆知識。
芝居のチラシを観ていて気が付いたこと。
『奇跡の人』の原題って、『The Miracle Worker』なんだってね。
それって・・・奇跡の働き者? 
嗚呼! 
何かが一本の線でつながりそう。


INDEX
[2008/10/01]
愛せない、という罪悪感
[2008/09/24]
男女平等というルール
[2008/09/17]
ワガママなわたし
[2008/09/09]
女の候補者
[2008/09/02]
セックス・アンド・ザ・シティな夜。
[2008/08/26]
ハウスキーパー
[2008/08/20]
オトコジャパン
[2008/08/10]
お久しぶりのご挨拶。
[2008/05/30]
女の罪、男の罪
[2008/05/19]
母としてのわたし
北原みのりの書籍はコチラ
これより前のコラムを見る
▼コラム一覧へ戻る  ▲topへ