●欽ちゃん球団

キャスターの三雲孝江さんが、番組中、こんなことを言っていた。欽ちゃんの野球チーム復活を告げた後で。
「一件落着です!」
画面には、欽ちゃんの泣き笑いの顔。ファンの喜びの声。夢列車がどうのこうの、ドリームがどうのこうの、希望がどうのこうの、感動がどうのこうの・・・の言葉言葉言葉。

はあああああああああああああああああい? なにがですかぁああああああああああああ? 一件落着って何がですかぁああああああああああああ? と、テレビの前で暴れてみた。みたくなった。

ことの経緯をみてみよう。

野球の試合で訪れた函館市で、芸人の山本何某他三人の男たちが未成年の少女4人と知り合う。未成年と知りつつ、男たちは宿泊先のビジネスホテルで酒を飲ませる。翌日、少女のうち一人が山本に暴行されたと被害届けを警察に出す。それを受け警察が山本に事情聴取をする。翌日に山本の所属する吉本興業が契約の打ち切りを決める。さらに翌日、山本が所属する社会人野球チーム「茨城ゴールデンゴールズ」の欽ちゃんが「ごめんなさい。やめます」と言い、野球チームの解散が決定した。そのニュースが流れたのが先週19日。すると「解散しないで」とのファンの声が高まった。一部で署名運動も起きたことなど、ファンの動きや声が次々と報道されはじめた。そして23日「オレやるよ」との欽ちゃん発言。野球チーム解散はなくなり・・・冒頭のニュースキャスターの言葉に戻る。「一件落着です」。

テレビではもう、「山本」という男の名前は流れなくなっている。男が少女に暴行をふるったことは、ニュースにならない。そもそも事件は、有名な芸人が少女に暴行をふるったことではなく、社会人野球チームが解散することだった、という方向にいつの間にかシフトしていたのだった。というか、私が気がついていなかっただけで、始めからこの「事件」のタイトルは「欽ちゃん球団解散!」ということだったのかと、さっき初めて理解したところである。

性暴力の被害者は、自分が体験したものとはまったく違う文脈で「事件」が大きくなっていったことに恐怖を感じていたのではないだろうか。女性が体験したことの重大性が問われることなく、別の事件に発展していったのは、巧妙なマジックをかけられたとしかいいようがない。

マジック? そうマジック。 「性暴力なんてたいしたことない」と思わせる「しかけ」に、キレイにはまっていったような、世にもふしぎなマジックよ。

このマジックにはまったとき、私はどうしても、「もし・・・なかったら? もし・・・だったら?」 と考はじめてしまい、とまらなくなってしまう。そんなこと考えてもしかたないけれど。どうしてもとまらない。

だって。
ことがもし、「性暴力」ではなかったら?
もし、被害者が18歳で、お酒を飲んだ女でなかったら?

ことがもし、「強盗」だったら。被害者が「老人」だったら。ことがもし「殺人」だったら。被害者が「子ども」だったら。ことがもし「誘拐」だったら。被害者が「有名人」だったら。ことがもし「暴行」だったら。被害者が「若い母娘連れ」だったら。ことがもし「性暴力」だったら。被害者は「お酒を飲んでいない子ども」だったら。たとえばその子が「男の子」だったら。

欽ちゃんファンは、それでも、「欽ちゃんの野球チームは関係ない! 野球を続けて!」って、署名運動を起こすのだろうか。ニュースは明るく、欽ちゃん欽ちゃん! と盛り上げるのだろうか。欽ちゃんを。

「一人のチームメイトが行った犯罪に、全員が責任を取ることないでしょう」という「感情の高ぶり」が起こさせた奇妙な「中立精神」は、人々の感情を揺さぶるような惨い事件の前には起こらない。とすれば、18歳でお酒を飲み、芸能人の部屋まで行った女性への暴行に、人々は、感情を揺り動かされなかったのではないか。この「事件」の流れは、そういう「事実」を表している。

だから。いま、、「これがもし・・・」と考えるのを私はやめられない。いいえ、世の中はそんなに惨くないはずよ、とどこかで信じたい思いで。だって、夢列車だもの。と意味の分からないことを口走りそうになりながら。それでも。それっておかしいよ! どう考えても、おかしいよ。と、「一件落着」と終わった事件の前で「お代官さまー」といつまでも、泣き叫んでいたいような気分なのだ。

ちなみに。よく、レイプという犯罪を語るとき、
「もし、自分の妻や自分の妹が被害者だったと思うと・・・許せない」
と言って憤る男を、私は何人も見てきた。
そうねぇ、自分に置き換えて考えるのは無理なのねぇ、と思いながら、そういう男たちが言うこの場合の「もし・・・」は想像力とは言わない(断定だ)。むしろ、お気の毒なほどの貧困な想像力から出たお粗末な男のナルシスの物語なのだ(強く、断定だ)。


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