●猫殺し

坂東眞砂子さんが書いたエッセーが話題になって丸一月。議論はまだまだ治まる気配はなく、今日などは、坂東さんが住むタヒチを管轄するポリネシア政府が、坂東さんを裁判で告発する、というニュースが配信された。

問題になったエッセーは、2006年8月18日日経新聞に掲載されたもの。
「こんなことを書いたら、どんなに糾弾されるかわかっている。世の動物愛護家には、鬼畜のように罵倒されるだろう。動物愛護管理法に反するといわれるかもしれない。そんなこと承知で打ち明けるが、私は子猫を殺している。」

坂東さんは雌猫を三匹飼っている。避妊手術も考えたが、雌猫にとって「生」とは「盛りのついた時にセックスして、子供を産むこと」と坂東さんは考える。「その本質的な生を、人間の都合で奪いとっていいものだろうか」と。だから彼女は避妊手術ではなく、生まれた猫をすぐ家の隣の崖から放り殺すのだそうだ。

エッセーが掲載された日経新聞には多数の抗議がおくられ、ネット上でも猫好きの間を中心に議論が盛り上がり続けているのだとか。

さて。みなさんはどう考えますか?

私は、一読して「うえ、気持ち悪い」と思った。冒頭の文章があまりにも衝撃的で、その後の「殺す理屈」が頭に入ってこないのだ。最初の一文で坂東さんがキリで子猫の首を突き刺すイメージを勝手に持ってしまった。快楽がそこに潜んでいるようなニュアンスで読み進んでしまったのかも。

二読して気持ち悪さが薄れた。殺し方の問題なのか、とも思うが、もし隣に崖がなかったら坂東さんはどのように殺すのだろう。そんなことが気になってしまう。エッセーによると、坂東さんの近所(@タヒチ)は「草ぼうぼうの空地や山林が広がり、そこでは野良猫、野良犬、野鼠などの死骸がころころしている」そうだ。生と死と土地が、雄大に一体化しているイメージを受ける。マンションだらけの都心に住んでいたら、どうするのだろう? 

ふと、昔、日本ではどのように嬰児を殺していたのかしら、と思う。できるだけ残酷さを薄めさせる手段として、嬰児殺しにはどのような手段が選ばれていたのだろう。中絶手術と、避妊手術と嬰児殺しの境界線。ほんの少し前まで、人間にとっても曖昧な境界線だった。できるだけ「残酷さ」を薄めるための方法が、中絶手術であり避妊だ。それは嬰児殺しの延長にあるもので、さてどこからが命か、なんてクッキリとした境界線を引けるようなものじゃない。(だから中絶絶対反対! という意見もあるだろうけれど、私の場合はだからこそ、産む人の意志絶対、と思う)

さらに三読して、坂東さんが「母猫性」に全く注意を払わない点が印象に残った。
坂東さんにとっては、交尾し、子供をウンチのように産み落とすことが雌猫の「生」なのだ。それは動物としての本能である、と。だから、産み落とし以降の、乳首に嬰猫を吸い付かせるなどの「母親」としての行動様式は、雌猫の「生」ではない。母猫になることと、子を産むことは別。母は本能ではなく、子産みは本能。これも、人間界がまだ片付けていない問題じゃないの。

そういえば昨日の杉田かおるも、子供を産みたいとは言ったけど、育てたいとは言ってなかったね。私などは、子供を産みたいとは思わないけれど、育てたら楽しいだろうなぁ、とても有意義な暇つぶしになるだろうなぁ、と思う。本能のことは本当によく分からない。

人間と猫世界を安易に交差させてはいけないと思いながら、生殖の問題は、動物としてのメス人である私たちの生殖の問題と、つながっていないわけがないと思う。だから多くの人が、たとえ猫好きでなくとも、坂東さんのこのエッセーに心揺り動かされるのではないだろうか。不安な思いを募らせるのではないか。

今回の坂東さんのエッセーに対し、何人かの友人・知人に意見を聞いた。ネットも少し読み散らした。驚いたのは、「こういうことを書くことが気持ち悪い」と言う意見が少なからずあったこと。猫を殺すことは当然気持ち悪いが、猫殺しを表現することはもっと「気持ち悪い」のだそうだ。んー、すっごくリアリティがある感想のように思う。「生」を見つめなおすことは、グロテスクとしか表現しようのない皮を一枚一枚恐れながら剥いでいくようなものかもしれないのだから。

坂東さんの行為の是非を私は問わない。是非を問いたい人がこれほど多いことに、少し驚いている。私はグロテスクな皮を剥き続けた先に何が残っているのか、知りたいように思う。知りたくないようにも、思う。

星空カフェの話はまたアシター(いつまで続くか、毎日更新)


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