●ポイント制度

一緒に暮らしているその人のことを、私は同居人とか、相方とか書いてきたけれど、実はどれもしっくりしていない。パートナーとか、妻とか配偶者とか、恋人とかカノジョとか、すでにイメージが流通している言葉を敢えて使わずに私たちの関係を表現するために選んでみた、というようなつもりで「相方」「同居人」と「ソレ」を表現する人は少なくないが、私もそのウチの1人だが、実はどこか潔悪い不潔な言葉のようにも感じ続けている。居心地が悪い。

なので、今日は名前で呼んでみよう。いつもの呼び方で。モッコちゃん。本名に少し近いこの呼び名で、私はその人を呼んでいる。といっても今日はソレの呼び方を考えたいわけではなく、世の中に流通している「ポイント」のことを書いてみようかと思う。そのために、モッコちゃんの登場が必要なのだ。

ところで「ポイント」。
あなたは、ポイントを貯めているだろうか?

長い間この国では、ポイントを貯める、というのは「オバサン」のすることだった。商店街のお店がくれるシールをチマチマ集めるお母さんを笑う、というのは、私が小学生の頃にすでに既視感があったネタである。唾液をつけてシートに貼るものが、ソレ、であった。少しでもオトクにになるのなら、牛乳が5円でも安くなるのならば、10円でも安くなるのならば・・・。その「生活感」は80年代に「オバタリアン」と言われたものであり、私はまさに80年代で思春期を過ごしてきたので、ポイントとかオトクとか何かをチマチマ貯めるなんて、そんな「だっさーい」ことはできなーい、と心の随で信じて生きてきた類のマンコ持ちだった。

ところが。10年ほど前、ビックカメラの会員カードを作った日から(でかい買い物をした日。会員になると5%引きとかだったのだ。)私はポイントを信じるようになった。
それまではポイントをバカにしきっていた。ポイントなどきっと商業的な落とし穴があるはず、個人情報とか利用されて、きっとサラ金とかからも連絡が来たりして、買い物依存症になって、そして末は借金地獄。しかもトータルで考えたら、たいした得でもないのよ。ポイントのことチマチマ考えるくらいだったら、フツーに買い物していた方が精神的にも安定。・・・と。

しかし。ポイントは本当に正直だった。私はまもなく、長年のお友達だったかのように、ポイントを信じ始めた。4000円くらいするマウスも、ポイントを使えば長年努力して買い物してきたおかげで、タダで買える。これって凄いことじゃないか。いや、もちろん、原価というものがあり、本当は全くビックカメラは損はしないようになっているのだということくらい、きっと私も分かっている。しかし、タダで4000円のマウスを買える、という「レジの前でちょっと照れちゃうぅようなワクワク感」はポイント制度が生み出した新しい感情のようにすら、私は思う。

ということで、私は次第にポイント漬けになっていった。クレジットカードのポイントも、今まで無視していたものを、きちんと商品に変えるようにした。貯めて貯めて、ある日、マウンテンバイクを手にした時は本当に嬉しかった。爪切りセット、体重計や体温計やピクニックセットももらった。お買い物してポイントが貯まるなんて、ポイントってなんて不思議なのでしょう? と目をキラキラさせていた。

しかし・・・それにしても・・・ポイント・・・あんまりにもありすぎじゃない?
と思い始めたのはいつ頃だったか。一つのお店の単なるサービスだったはずのポイントが、今や、国家経済を支える一つの制度のようになっている。ような気がする。
どのお店でもポイント。どのお店でもスタンプカード。もちろんラブピースクラブもポイント制度。ショールームではスタンプカード。・・・・とにかく、一介のバイブ屋から大手のデパートまで、ポイントが導入されていない店を探す方が、今や大変だっという状況になっているのである。

「オバチャン」たちのささやかな「活力」に過ぎなかったポイントが、次第に大きな国家へと成長していく様子を、私は子供の頃から見てきたように思う。それは防衛庁が防衛省になるかのように、大それた、実は大変な間違いな、気がついたら取り返しのつかないような、そんな課程だったのではないかとすら、大げさに思う。ふと気がついたら、ビックカメラとJRがポイントが交換できたり、クレジットカードのポイントが飛行機会社に移項できたり、ケータイ電話にもポイントがついていてそれを貯めたらそれも飛行機会社に移して飛行機に乗れたりもして・・・・。
私はポイントへ制度に対して疑念を持ち始めている。

だって!  「ポイント還元」に支配されている状況が、社会状況や人の感情とつながっていないはずがないよ! それは、「損」か「得」かという軸での感情の短い揺れ。以前はオバチャンの切実な生活臭を背景にしていた「損か得か」は、今や、一銭たりとも自分が損をするのはイヤダー!! という世の中のセチガラサの空気をにじみ出すような感情になっているんじゃないの!!!

と心の中で叫んでいたら(今日は、カード会社から請求書が二枚来たのだ。請求書に記されたポイント数をきっちり数えて今月は平野レミのフライパンが手に入りそう・・・なんて思いながら、そんなことを思う自分を情けないって思いながら・・・・)、隣の部屋からモッコちゃんの奇声が聞こえた。モッコちゃんにも請求書が来ていたな・・・と思っていたら、その奇声は意味の分からない次のような言葉に続いた。

「キャー! ちょっと!!! すっごーい! おっかねもちー! クレジットカードの40000ポイント、すべてANAに移項したわ。これで、年末の旅行ができる。さらに残りの3万ポイントは今年はこれ以上使えないから来年そのまま持ち越しで。今12月。1月にはすぐに持ち越しだから、今変えとけるのはすっごくラッキーよ! 一万マイルはフツウは一万マイルにしかならないんだけど、ANAのご利用券を使うと二万マイルが三万円分になるのよ。しかもね、そのご利用券を使うと、またマイルが貯まっちゃうのよ。いーひひひ、うふうふうふうふ。ああ、ちょっと手がふるえる。私、本当にポイントが好き!」

おそるおそる隣の部屋をのぞくと、モッコちゃんがANAとクレジットカード会社のホームページを交互にみつめながらいろいろと策略を練っていた。背後からみれば、それらは全て私のカードである。モッコちゃんは私になりすまし、私のカードのポイントをいろいろ移項しながら様々なシュミレーションをして楽しんでいたのだった。私の気配に気がついたヨッコちゃんは、本当に幸せそうな顔でこう言った。

「こうやって人の幸せを間近で観られる仕事、私してみたい。ポイントをいじる仕事って、専門であるんじゃないかしら?」

これはポイント制度がもたらした、新たな心の病なんじゃないかと私は思う。
モッコちゃんとは「ポイント制度」と「人生」について、これから話し合っていかなくちゃいけないんじゃないかと思う。ここはもしかしたら、共に暮らしていく者として、押さえておかなくちゃいけない肝なのではないか、と。

みなさんは、ポイント、どーしてますか?
ちなみに、韓国語を習ってもポイントはつかない。
安心する。

 


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[2008/10/01]
愛せない、という罪悪感
[2008/09/24]
男女平等というルール
[2008/09/17]
ワガママなわたし
[2008/09/09]
女の候補者
[2008/09/02]
セックス・アンド・ザ・シティな夜。
[2008/08/26]
ハウスキーパー
[2008/08/20]
オトコジャパン
[2008/08/10]
お久しぶりのご挨拶。
[2008/05/30]
女の罪、男の罪
[2008/05/19]
母としてのわたし
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