いやー、間が空いちゃいました。
「爺と私」の続きを書こうと思うのだけれど、どうもどうも筆が進まなかった・・・。その間に私は、「砂時計」という韓国ドラマにはまり。フラガールの興奮をもう一度と「スパリゾートハワイアン」(昔の常磐ハワイアンセンターね)で常夏を満喫し。モッコちゃんとの「結婚関係」についてひともんちゃくを味わい。夏の靴を3足も買って放心し。爺のことはあまり思い出していませんでした。とは言っても。爺からは、時折こんなメールが来る。
”うつみ 宮土理には負けないように。”
タレントのうつみ 宮土理さんが、最近、韓国語を習い始めたのだとか。テレビでやっていたのだって。私は爺の生きている次元には、まだまだいけていない。韓国語の世界だけを生きる爺。自分がいくら稼ぎ、いくら使い、そしてどんなふとんに寝て、どんな靴を履いているのか。そんなことは頭を悩ますことではまるでない。韓国語の世界を泳いでいれば、それは生きている、ということなの。爺にとって。
そんな爺が、数週間前、うろたえた声で電話をかけてきた。
「困ってしまいました。あなたの助けが必要なのです。若い女性と性について」
私は爺に自分の職業を正確には伝えてない。バイブ屋であるとかフェミだとか、性やジェンダーのことなど、一言も話したことない。だから、というわけもあるけれど、あまりにも唐突だった。爺の口から発せられた「性」という言葉が。この人の人生で、その言葉を発するのはこれで何度目なのだろうと考えてしまうほどに、ぎこちなく、だけれどもそれとしか言い表せない誠実さを持った声で。性という「漢字」がそのまま口から明朝体で出てきたような、そんな不思議さで。ただごとじゃないね。
性? どうしました?
「それが韓国から来た若い、しかし24才の女性は、しかし24才と言っても韓国の旧暦でいうと日本では22才かもしれないが、しかし22才の女性というのは、いったいどんな風に、それにしても、私は韓国の女性が、日本の出版業界で」
爺の話はいつも以上に長く。説明が複雑で。様々に飛んでゆく。以下、聞いたことを簡単にまとめるとこんなことだった。
爺の長年の友人(韓国人)の娘が、日本にワーキングホリデーに来た。
日本に知り合いがいない彼女は、真っ先に爺を訪ねて来た。
来訪者の少ない爺にとって、彼女の訪問が大事件である。
爺は彼女のために、数日前から計画を練っていた。
数少ない知人に連絡を取り、出版業界にいる彼にアルバイトの口を頼み、どこのカフェで何時に落ち合うかを決めた。
当日、彼女は約束通りやってきた。編集者もやってきた。
三人は爺の決めたカフェに入り、編集者は仕事の話をした。内容は、マンガの校正だった。日本語がしゃべれなくても、読めれば大丈夫、とのことだった。これならできるでしょう? と彼女の顔を見たら、どことなくうつろではあった・・・。
それから数日、彼女から一切の連絡が途絶えた。約束をしていた日も、彼女は来なかった。それどころか、彼女の父親から韓国から電話があった。「娘になんていう仕事を紹介してくれたのだ?! 娘はショックで寝込んでいる」と。
爺は何度も何度も、頭の中で、幸せな光景を描いていたことだろう。
人気のある出版業界の仕事を世話をすることができる誇らしさ。
韓国人の若い女性の未来に力を貸すことができる嬉しさ。
当然、彼女がその仕事を断ることなど頭にない。
知人の編集者が用意した仕事が、エロマンガだったことは爺の予想外ではったけれど、それにしても爺の夢の中で彼女は喜んで仕事をしたはずなのだった。
爺は言う。
「成人が読む、多少、性表現のあるマンガなのです。日本ではそれほど特異なものではありませんが。韓国は儒教の影響か、それともあの年頃の女性にはショッキングなものなのでしょうか。女性としての意見を、北原さんに聞きたいのです。」
爺・・・私は電話口で涙ぐんだ。哀しいね。爺。おかしいね。爺。
爺がはしゃぎながら彼女のために尽力した様子を思いながら、哀しくて可笑しい、というのは本当にこういうことなのだなぁ、と涙が止まらない。
日本にやってきて二日目。父の友だちというから出会ったのが、ホームレス風のどうみても底辺の生活をしている爺。さらに爺が得意げに出会わせた男は、男女が裸で絡んでいるマンガを出し、このマンガのセリフをチェックしてくれ、と言う。中年の男と、年齢不詳の爺、二人のチンコに囲まれ逃げ出せない東京の狭いカフェ。・・・怖いよ。その韓国人女性のことを思うと気の毒でたまらない・・・が、おかしくて涙が止まらない。
分かりました。落ち着いてください。すぐに行きます。解決策を一緒に考えましょう!
私はそう言って、爺の元に向かったのだった。
続きは次回・・・