●ロート製薬のCM

ひどい、ひどい、という声をとてもよく聞いたので、ロート製薬のHPから「和漢箋」という薬のCMをダウンロードしてみてみた。たいてい「ひどいCM」というのは、「バカバカしくて笑っちゃうよー」な要素があるもんなのだけれど、このロート製薬のCM、バカバカしさの欠片もなく、ただただ暗く・・・哀しい気分になりました。

食後の雰囲気漂うリビング。ソファで洗濯をたたんでいる女性。最後の一枚をたたみ終わる。
「よし、終わった!」
と、ため息をもらしたその瞬間!!!  
リビングに入ってきた息子(中学生)が、
「お母さん、これも洗っといて」
と、ジャージを彼女の顔に投げつける。
彼女の頭にからまるジャージ。「え!?」と声をあげる母に、テレビの前で寝ころぶ夫が振り返り
「静かにしてくれよ」
その声はただただ冷たい。ただただ無関心。
そして彼女の内なる声・・・
「なぜかちょっとしたことでイライラ。そして落ち込む。これって、更年期? なかなか人には分かってもらえない。漢方の力で内側から改善。」
背景には、夫と息子がテレビを観ながらはしゃぐ笑い声・・・

はい。私はロート製薬の目薬を今捨てました。

一昔前、イライラしている女に対して、「今日、アレ?」 と言いたがる男がいた。一昔前、というよりは未だにカレや夫にそう言われたことがある女子もいる。女の怒りを、理不尽で感情的な、体の不調が引き起こす、つまりは全く正当性のない怒りとして流すための、手口。同じことが、更年期でも言われ続けてきた。イライラする中年女性に、「あがっちゃったの?」とからかうことで、彼女たちの怒りを無視するやり方。とかく、女はホルモンに”しか”影響されていない、と思いたがる人はこの世に多い。

じゃなければ、こんなCM生まれてこないでしょう。
この女性が本当に更年期で苦しんでいるのなら、ふだんの生活でも兆候はあるはずだよ。その変化に気がつかない夫や息子。女の体のことだから、男には分からない、だから誰にも言えない、というのが、このCMの一つのメッセージではあると思うけれど。本当にそうなんでしょうか。
妻の調子がいつもと違うのに無関心にテレビを見続ける夫は不気味に見えるし。
洗濯物を母親の顔に投げつける息子は私には異様に見える。(5歳児じゃないんだよ! 中学生くらいの男なんだよ!)
さらに妻がどんよりと落ち込んでいるのに、テレビの前で男二人がはしゃぐ姿はおぞましいものとしてみえる。

怒るべきことと、怒るほどでもないことの区別がつかないのは、テレビの中の女性ではなく、このCMを作ったロート製薬の人間たち。女には怒るべきことなどない、女の怒りなど、ホルモン一つで変わるものなのだ、とでも言いたいのか。”おかしい”ことを”おかしい”と思うそのまともさがロート製薬の薬で消えちゃうんだったら、こんなもの、飲まない方がずっといい。

それでも、私がこのCMに感じるのは強い怒りというよりは、冷たい感情、とても冷たくて冷たくてゾッとするような哀しさ。

辛い環境にいる人は、そしてその環境をすぐには変えられない現状にいる人がするのは何か。
自分を変えること。そして、感じないようにすること。
怒りを感じたり、疑問を感じたり、相手を責めることは、時に自分を疲れさせる。時に自分を傷付ける。だからこそ、「その場以外に行く場のない人」の多くは怒りを閉じこめ、疑問を見えなくさせ、相手ではなく自分を責める。そして、絶望しないで生きていく方法、「諦め」を学ぶ。私はそういう女の人を、何人か知っている。家庭の中で、会社の中で、様々な関係の中で。

だからこそ、このCMは、不気味なリアリティも含めて、哀しい。

CMの最後はこういうシーンで終わる。
薬を飲んで前向きになった彼女は、ジャージを投げつける息子に対しにこやかに微笑む。そしてこう言う。「もうぅ、まったくぅ」
どんなひどいことをされても、もうぅまったくー、と自ら笑って冗談にすれば、「たいしたことがない」と思える。暴力を振るわれながら、恐怖を感じながら、それでもニコニコしてしまう人だっている。だって、恐怖を感じている時に恐怖を露わにしたら、事がもっと深刻になってしまうかもしれないから。それよりも、笑って、やりすごしたい。たいしたことがないと思いたい。そうやって、現実を逃げるやり方だってある。それが、家庭の中や、身近な関係の中で起きる、暴力の本質だ。自分さえ、笑っていれば、何もおこらない・・・。

だからこそ、このCMは、限りなく哀しい。恐怖に近い哀しさを持って、暴力的だ。


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[2008/09/17]
ワガママなわたし
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女の候補者
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セックス・アンド・ザ・シティな夜。
[2008/08/26]
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[2008/08/20]
オトコジャパン
[2008/08/10]
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[2008/05/30]
女の罪、男の罪
[2008/05/19]
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