●オトコヅカレ

 家に帰ったらモッコちゃんがげっそりとした顔で、部屋にうずくまってた。
「どうしたの?」と聞いたら一言、「オトコヅカレデス・・・」と答えて、またうずくまってしまった。暖かいココアを飲んで、甘いさつまいもを食べて、友だちからもらった「ガイコクのチョコレート」をつまんだあたりで、ようやく糖が心に届いたみたいで、モッコチャンの顔色が少しよくなった。

 それから二人で「オトコヅカレ」について話した。オトコヅカレ。それは、その日の気分や体調によっても感じる重さが違う。同じ体験をしても人によって感じないこともあるので、なかなか理解されない。「学会」で名付けられていないたいていの病が、「気のせい」と言われるものであるが、この病も同様に「気のせい」とか、「フェミがこじれただけ」、とほっておかれることも多い・・・。でも確実にその「病」は存在する。朝、キラキラとした笑顔で出かけたモッコちゃんがゲッソリとしている夜はたいていオトコヅカレの病にかかっている。主に、オトコと関わりながら仕事をする女に多くみられる病である。
 たまたまその日、私もめずらしく相当な「オトコヅカレ」をしていたものだから、分かるわー、と言いながらお茶をガブガブ飲んで、モッコちゃんと二人、オトコヅカレについて語り合った。かかった者にしか分からない辛さなもので、分かる者どうし狂喜乱舞して語りあった。

 オトコヅカレ、その一。
 あまりにも意味不明で会話が成立できないこと。

 今日の私のオトコヅカレは、厚●労●省の男役人との電話での会話。輸入したコンドームケースに入っていたコンドームが、税関で止められてしまった。税関の職員に「コンドーム輸入について厚●労●省に問い合わせてくれ、と言われるままに厚●労●省に電話をした。以下、厚●労●省のオトコ役人との会話。

私「海外からコンドームが送られてきました」
厚「ご商売ですか? 売るんですか?」
私「コンドームは売りません」
厚「個人輸入? でも、あなは輸入できないね」
私「・・・?」
厚「あなた、女でしょう? 女性はコンドームを使わないよね」
私「・・・」
厚「分からない? じゃぁ、ピルを考えて。ピルを男性が輸入したら、譲渡や商売が目的と考えるのが自然でしょ? コンドームも同じ。女性が輸入するのは不自然。譲渡や商売を目的に輸入していると考えるんです」

結局、コンドームは税関で廃棄されることになった。
「俺が女に使うコンドーム」という風に男は思っていて、それがそのまま法律になっているんだな、と思った。たいていの法律は「オトコ」が主語でできているんじゃないか、とも思った。女がこう考えていることなど、男たちは想像もできないの? 「私が男に使うコンドーム」「私がバイブに使うコンドーム」・・・と。ぐっとオトコヅカレが深まった。

 オトコヅカレその2
 大きな声を出すオトコ。女に威張るオトコ。

 ラブピースクラブのカタログを、希望者の方に郵送している。ごく希にクレームの電話がかかってくる。もちろん本人からではなく、同居人や家族から。勝手に郵便物をみて、「なぜ、大人のオモチャのカタログなんか、届けるんだ!!」とラブピースクラブに怒鳴り込みをかけるのである。

 今日、そんな電話があった。男からだった。
「カタログ送られてきたんだけど、どこで住所知った?」
「ご希望の方にお送りしてますが・・・」
 すると男はこう言った。同居している女性の名前でカタログが届いたが、彼女は何を買ったのか教えろ、と。
「教えられません」と言うと男は、「じゃぁ」と女性を電話口に出させた。女性が怯えているのが受話器から伝わってきた。彼女は「覚えがない。私は買っていない」と背後にいる彼に言うようにしゃべり始めた。私は思わず黙ってしまった。電話口の女性と私は、数秒間、沈黙をした。・・・すると彼女の背後から男が、「勝手に電話切るんじゃねーぞ!」と大きな声でわめくのが聞こえた。そして電話を彼女からもぎ取った。「おい、彼女も、お前のお店で買った覚えなんてないと言っているんだよ! 買ったっていうんだったら、何を買ったのか、教えろ!」「もう、やめてよ!!」女の人が背後でこう叫んでる。「俺と彼女は、とても仲良く暮らしてるんだよ。同居して、二人のサイフを一つにして、これからは何を買うのも、相談して決めていこうね、って二人で決めたんだ。だから彼女が何を買ったのか、知る必要があるんだ!!」

 大きな声を出して脅せば自分の意見が通る経験を積み重ねてきたんだろう、下品なオトコの声。そのオトコの声にかきけされる女の泣き声。受話器の向こうの修羅場。ラブピースクラブの事務所はとても静かで、平和なのに・・・電話の向こうでは私たちのカタログが元に、こんなことになってしまっている・・・。郵便物を勝手に見たことは棚にあげて、オトコはさも当然であるかのように喚き続ける。彼女がバイブを買ったかもしれない、という想像がオトコを狂わせている。どうしよう、どうしよう、と思っていると、男が、お前みたいな大人のオモチャ屋なんか警察に訴えるぞ! と私を脅しはじめ、私が「DVで通報するぞ」と言い始めたら、電話が切れた。

 大きな声を出す男。力で場を動かそうとする男。決して、自分より強く、自分より大きく、自分より地位の高い男には出さないんだろう、脅しの声。女にだけ向けるんだろう、その声。
悔しい。苦しい。気持悪い。・・・オトコヅカレが一気に深まった。

 バカバカしさ、悔しさ、理不尽さ。
 様々な苦しい感情に満たされた瞬間、オトコヅカレを感じる。オトコヅカレをこじらせると、大変なことになるから・・・と私とモッコちゃんは甘いものを食べながら、お茶をのみながら、猫と一緒に丸くなりながらお互いに慰める。そしてどうしたらこんなツカレを感じずに生きていけるのかを考える。考えながら、ずっとずっと電話の向こうの女性への申し訳ない気持ちが消えない。私はあの電話で、どうすればよかったのか、よく分からない。DVだなんて言葉を言ってオトコを挑発した自分は愚かだと思った。でも、じゃぁ、どうすればよかったのか。

 オトコヅカレ専門の医者はいないでしょうか。
 どのように、このツカレはなくなるでしょうか。
 感じなくなる薬が欲しいわけじゃなくて。
 ツカレを感じたとしても、きちんとした処方箋があればよいのに、と思うのです。


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[2008/09/24]
男女平等というルール
[2008/09/17]
ワガママなわたし
[2008/09/09]
女の候補者
[2008/09/02]
セックス・アンド・ザ・シティな夜。
[2008/08/26]
ハウスキーパー
[2008/08/20]
オトコジャパン
[2008/08/10]
お久しぶりのご挨拶。
[2008/05/30]
女の罪、男の罪
[2008/05/19]
母としてのわたし
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