アンアンのセックス特集
2009年7月30日20代のスタッフに言っても誰も信じてくれないのだが、アンアンのセックス特集は昔、衝撃だったのだ。
一番最初の男性ヌードモデルはモックン。アンダーヘアすら美しい完璧な肉体。学校に持っていって学食の一角で大騒ぎしながら友だちと読んだ。女友だちとモックンのヌードをみてギャーギャー言ってると、今まで感じたことのない自由な空気のど真ん中に自分がいるような、不思議な解放感があった。
男を鑑賞しちゃっていいんだよね! セックスのこと話しちゃっていいんだよね! 欲望に正直でいていいんだよね! そんな禁止事項、別に意識してはいなかったが、「形」になって出てくるものがあると、その形の反対側にあった”抑圧”の正体が見えてくるような気がした。
だからこそ、なんだけれど。今年のアンアンのセックス特集には、私、時間の流れを感じた。こんなに遠くに来ましたか。あたしたち。
特集自体はおもしろかったのだ。内容もやはり充実。フェラチオをイラストつきで掲載していても、なにか革新的! というよりは安定感すらあって、さすが老舗のセックス特集だな、と思ったものだ。だからこそ、唐突とも思えるオマケのDVDがどうしてもどうしても・・・気になってしまう。
「女性がリードするセックス」がテーマで、草食系男子をいかにその気にさせるか、というテクを披露する内容で女性スタッフだけで作った、というのだが。
太陽の光がいっぱいに差し込む休日の昼下がり。つきあって一年目のカップルがソファーでそれぞれ本を読んでいる。「女性目線で語られている」という解説を聞きながら観た。
そして始まって数分。息苦しい。だって、この解説ときたらセックスを楽しむための解説というよりは、「芝生に入らないで下さい」とか「頭上に注意して下さい」とか「ここでペットにオシッコさせないで下さい」とかいう街のうるさい注意書きみたいなことばっかり言っているのだもの。
「女性が、積極的になりすぎてはいけません」
たとえば具体的に言うとこんな感じだ。
「彼の読書を邪魔しないで。彼が読書に飽きた頃、誘うのがポイント」(セックスのタイミング)
「彼のテンションにあわせて、足並みを揃えるのが大切」(あくまでも、彼にあわせて!)
「はじらいを持ちつつ彼の気持ちをもりあげましょう」(ああ!)
「自分から積極的に脱ぐのは、男性からはひいてしまう、という意見があります」(服は決して自分から脱いではいけないと説教)
「男性は女性に甘えて、頼りにしてほしい、と思っているので、脱がせてっておねだりすると、好感を持たれます」(上に同じ)
「女性が積極的になりすぎると、男性のプライドを傷つけるので注意しましょう」(女が服を自分で脱ぐくらいで、傷つけられる男のプライドの意味がわかりません)
「はじらいを大切にして」(てへっ! いやん! とかそういう仕草やセリフのことらしい)
始まってまだ数分。私、デリヘルの新人研修をしているような気分になってきた。これ、仕事だよ。
男のプライドを傷つけない配慮→2000円(新人価格:底値です)
男の「女ってこういうもの」という幻想を無駄に壊さずチンコの勃起を維持させる努力→4500円(新人価格:底値です)
そして、やっとのことで、彼をその気にさせ風呂に入れたら入れたで大変なことが待っている。
風呂に入ったら彼のペニスは触らずに、フェザータッチで首や胸をさわり、じらし、彼が入れたがったら、イヤ、と可愛く断り、彼の体をタオルで拭いてあげ、さりげなく先にベッドに入るように促し、その間に自分は鏡の前でボディチェックをして、新しい下着を身につけなくてはいけない・・・細かな指導が入る。そしてここで私をのけぞらすナレーターの一言が!!!
「ボディチェックが終わったら速やかに彼のもとへ向かい、彼に身を委ねましょう」(なぜなら、彼を待たせてはいけないから!)
私、避難訓練の時にしか「速やかに!」なんて言われたことないような気がする。さっきはスルーしちゃったけど、始めるときの「足並み揃えて」という指示も、昭和の暴力教師全盛期の運動会の練習風景並み。足並みそろえて! 彼のもとに、す・み・や・か・に! そして身を委ねる!!!!
このDVDの解説、一つ一つの「言い回し」が昭和以前の窮屈さです。本当に、女性だけでつくったDVDなの? 本当に、これ、女性のためのDVDなの?
たとえば、フェラチオについてはこんな解説がはいる。
「彼に直接、指導してもらうといいでしょう」
「可愛く、どうしたらいい? と聞くと彼好みをマスターできると思います」
「指導してもらう」って、もう、これ本当にお仕事ですから。体験入店で店長に指導してもらう、とかそういう時に使う言葉ですから。さらに喘ぎ声については。
「あまりにも大きな声を出すと、演技に思われたり遊んでいる女性と思われます」
思われたっていいーじゃねーか。気持ちよけりゃ、声出るんだよっ! 出たい出たいように声くらい、出させてくれよ!!!! と思っても、彼の「本音」が聞こえてきたら、もう、声なんか出せなくなっちゃうね。「遊んでいると思われないための演技」なんてしていたら、ちっともセックスが楽しくなくなってしまいそうだけれど。
とはいえ。こんなことで驚いたり怒ったりするのは序の口でした。
私が一番驚いたのは、なんといっても、これだけ男性に気をつかい、服を脱ぐのも、服を脱がせるのも、かわいく、おねだりし、指導をうけ、足並みをそろえ、彼のテンションに合わせたセックスであるのに、二人がようやくベッドに入った時にすることが何かと言えば・・・・フェラチ〜オ、であることでした。
まず最初にフェラチオよ!!!!! いいけど、フェラチオ、いや、いやだけど、フェラチオ。もう、ダンスしそう、この段階で、脳内細胞破壊されつつあるのを実感。それにしても、男にとってはいたれりつくせりのセックスじゃない? 本に飽きた頃、彼女がマッサージしてくれて、なんだかおねだりされて、お風呂で体洗ってくれて、タオルで拭いてくれて、ベッドで待ってたら(約30秒)、彼女が飛んできて、自然な感じで押し倒してくれて、フェラチオしてくれて。
はい。ここまでの料金! 計算機だしちゃうよ!
プライドを傷つけない配慮 → 100000円(2000円×おおまかな回数で計算です)
気分をもりあげてあげる配慮 → 12000円 (大変な重労働です)
チンコを勃起させ続ける配慮 → 7000円 (相場がわかりません)
あくまでも自然な流れで行うフェラチオ代 → 35000円 (どんなもんでしょう)
計154000円也です。
恋人間のセックスは女の無償労働である。
私、初めて、そんなこと思いました。やりたいからやる、楽しみたいからやる、好きだからしたい、だけじゃだめなの? そこまで男の気持ちを配慮しながら、仕事しなくてはいけないのかと思うと、涙が出ます。涙、プライスレスです。
時代は確実に変わりました。
女もセックスDVDをつくるのです。
それはきっと問答無用に素晴らしいことだと、私は思うんです。
女がAVを楽しむことは、ただただ当たり前のことじゃん、と私は感じるんです。
それでも、でも、ことさら「女性向け」と名付けられた「セックス関連」のものに対しては、まだまだ要注意が必要なんだなと思う。
建前ですら”男女平等”が行き届いているとはいえないこの国で、女が本当に自分のだめだけに欲望に忠実に、欲望を露わにすることは、まだまだもしかしたら「危険」なこと。だって、女はこの作品でもことさら注意されているように「本音」を見せてはいけない生き物ですから。そういう中で、セックスを表現するには、よほどの注意が必要かもしれない。ラジカルさと従順さを共存させつつ・・・。だからこそ、セックスにおけるある程度の「コンサバ」表現は(大きなメディアにおいては特に)、しかたないよね、って私だって考えるようになった(←昔に比べたら)。何年か前に、マンコマンコ!!! と騒いでいたら、産経新聞で大きく「反社会的人間」扱いされた経験がある。頭に来たけれど、やっぱり、ちょっと怖かったしね。
でもね、そういう寛容さをもってしても、アンアンの今回のDVDは、やっぱり、ひどい。
本心を隠しつつ、男を手のひらで動かす・・・それが賢い女である、という風に考える女を、私は責めませんが、心から嫌いなんだと実感した。そういう女たちは、まっすぐに欲望し、欲求する女を、男たちと一緒に笑い、ないもの、にしようとするから。そういうのは、本当にうんざりなの。
一緒に観ていた、アンアンのセックス特集が”過激”だった時代を知らない24歳の女子(考えてみれば、幼稚園の時からセックス特集があった世代なのね・・・)が、こうつぶやいていた。
「これ以上、女に、何をしろ、って言うんでしょうね。女の人・・・ただでさえ、大変なのに」
そのセリフが私くらいの女ではなく、20代前半の女性の発する言葉だってことにも、何か時代を感じるんでした。
北原みのり プロフィール
ラブピースクラブ代表
1970年11月24日神奈川県生まれ千葉県育ち
津田梅子に憧れて、津田梅子のお墓を参る高校時代。津田塾では性教育の卒論を書き、その後、日本女子大の大学院に進む。すぐに挫折して、フリーのライターになる。95年、友人たちとインターネットHP制作会社 有限会社ユミット を立ち上げる。会社の経営をしつつ、ずっとずっと関心のあったエロとフェミの関連のある仕事「マンコ持ちのバイブ屋」を発見。1996年、日本で初めて、女性が経営するセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を始める。エロ系フェミニストとして活躍中。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社2000年)ほか多数。
北原みのりブログhttp://www.onnamedia.com/kitahara
北原DJ婆星http://www.bababoshi.com
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