喘息がいよいよ本格的な持病になってきたので、私はハウスダストを自宅から完全に追放することを決意した。毎日毎日掃除機をかけることを自分に課した。毎日毎日最低10分、なにがあっても掃除機をかけるのだ!
しかし・・・決めてはみたもののそれは想像以上に苦痛なことであった。掃除機がけは一週間に一度、というここ10年近くの生活習慣を変えること以上に、「掃除機」にやりがいを見いだせないどころか、むだな時間だと思っている自分に気が付いた。一日10分。一週間にしたら1時間以上、一月で4時間以上。オーノー!
ある調査によると、フルタイムで働く既婚女性は、平日平均1時間、家事をしているのだそうだ。少ないように感じるが、これはあくまでも「平日」。あくまでも「平均」。ちなみに、既婚男性の仕事持ちの男の平日の家事平均時間は、20分である。我が家は女二人。ご飯をつくる日とつくらない日で家事の量は全く違ってくるけれど、おそらく平均互いに45分くらいではないかと思う(とここまで書いて、隣の部屋にいるモッコちゃんに『そのくらいよね?』と確認しに行ったら、『何言ってるの? わたしは、一日5時間くらいやってるけど?』とマジギレされた。女二人で暮らすと、自分だけが家事たくさんやっている、という被害妄想が生まれやすいのかもしれない。私も自分はモッコチャンよりは家事をやっている、と思っていた)
さて、そんなわけで、私は決意したのである。掃除機に振り回されるのをやめよう、と。そして買ったのだった。掃除機ロボットを。
直径30センチほどの円盤。厚さ10センチ。背中のボタンを押すと、「プルルルッルルー」と低いが軽快な音が鳴りゆっくりゆっくり動きはじめる。少し進んでは壁にぶつかり方向を変え、また自ら突然方向転換し進行する。その動きは、一見、無秩序である。しかし着実に部屋の隅々を掃除してゆく。円形だから角のホコリはとれないものだと思っていたが、そでから突き出たハケがささっと角にたまったホコリをはきだしてゆく。掃除が一通り終わると、自らドックと呼ばれる基地に戻り充電をはじめる。日本製でないからだと思うけれど、機械の女声で「掃除をはじめます」とか「掃除が終わりました」とか無駄な声を出さないところも、好感がもてる。
初めて掃除機ロボットを部屋に走らせた日の感動を、私は一生忘れないだろう。みるみる部屋がきれいになっていく。絨毯が今までみたことのない色に変わった(どれだけホコリがつもっていたのか)。床が今まで味わったことがない「まんべんなく輝いている」状態になった。
家電一つでこれほど幸せになったのは、中学生の時にVHSビデオを買ってもらった時以来である。しかし、この喜びは、VHSを買ってもらった時のものとは、少し違う。それは、なんというか、「豊かになった喜び」とか、「新しいものを得た物質的な喜び」とかそういうこと以上の何か、なのであった。
私は今、昔の女たちが「掃除機」や「洗濯機」や「炊飯器」や「ガスコンロ」に出会った時の感激がいかなるものであったのか・・・を、今までにないほど完璧に理解している、ような気分になっているのだった。「家電」とはいかに女の生活を変えたのか、それをリアルに実感しはじめているのである。
私が感じた喜びは、そう、「解放」と言ってもよい、そういう類の喜びである。「掃除をしなければいけない時間」からの解放。「誰かがやらなければいけないことを毎日自分だけがやっていること」からの解放。「私がやらなくて誰がやるの?」という自分を励ますことからの解放。掃除機という「原始的」な巨大家電を扱う肉体労働からの解放。「たった10分の掃除すらできない」と自分を責めることからの解放! 自由! フリーダム!
家事という、終わりのない労働。毎日毎日やり続けるためには、家事が好き、という方向に自分を導くことが私にはもっとも手っ取り早いモチベーションであった。そして「好き」という暗示をかければかけられないこともないのが「家事」である。やらなければいけないからではなく、家がキチンとしているのが好きだからやるの、と胸をはって掃除機を私は掃除機をかけ続けてきたのだから。
ところがどうだ。本を読みながら掃除機をかけられる。料理をしながら掃除機をかけられる。昼寝をしながら掃除機をかけられる。その状況に私は今、心の底から夢中になっている。今まで使った掃除機を早くも捨てたいと思っている。むしろ、憎いとすら思っていた自分に気が付いた。そう、掃除機が私、嫌いだったのーーーっ! 掃除なんて、ほんとーは、気分の乗った時にしかやりたくないものなのーーーーっ! 掃除機に対する長年の本音をここで一気にはき出せた心地よさも含めて、私は掃除機ロボットの出会いに運命を感じているのであった。
さて。フルタイマーも専業主婦も関係なく、女、というくくりで家事時間を調べると、内閣府の調査によれば平成12年度、女は誰もが平日、3時間49分、一日家事をしている。ちなみに、男の平均は30分である。男が家事をしないのは、忙しいから、なのか。それとも、誰かがやってくれるからなのか。「男の料理」という「分野」はあるが、「男の家事」という分野も早く発見され、男が張り切って家事に手をかけることを、祈る! そして掃除機嫌いの女たちが、掃除機ロボットと幸せな出会いをすることを、望む!