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それは足音を立てずにやってくる
17.09.08 by 中沢あき



夏の終わりの週末のこと。数週間のバカンスに出かけていく友人たちを横目に家のリノベ作業でどこにも出かけなかった私たちは、せめてものリフレッシュと郊外の森へ散歩に出かけた。車で30分程のその森は自然保護区域に指定されていて、他では見かけない種の動植物がたくさん残っているらしい。
そんなに豊かな自然が都会のすぐそばにあったのかと驚いたが、177平方キロメートルにわたって森や草原や湿地帯が広がるこの自然保護区域のすぐ隣には、近隣の国々への国外線も発着する国際空港があり、加えて第二次大戦直後は英国空軍の空軍基地が、その後は2004年まではドイツ国防軍やベルギー国防軍の演習場があったそうで、今でもところどころに「命の危険•立ち入り禁止」の警告版が立つ。

かつてはその柵の向こう側で銃弾が飛び、今ではその残りがあるかもしれない、という懸念があるからだ。のどかな自然の平和なイメージとのギャップがかえって変な気味の悪さをどことなく感じさせもするが、皮肉なことに軍用地だったゆえにこの一帯は土地開発を免れ、人間の生活に浸食されずにすんだからこそ、貴重な自然が残ることになった。
策の向こう側にも広がる森を見ながら、太平洋戦争でゲリラ戦を生き延びた兵隊の話、または棄民として捕虜になるまで森の中を逃げ回って歩いた女子供の話、そんな話をふと思い出した。こんな森の中を人影や銃弾に怯えながら飲まず食わずで歩き続けるのか。自分だったら歩き通せるだろうか。想像がつかない。

森の中は空気がしっとりしていて、爽やかな香りがする。日曜日の午後、散歩やサイクリングやジョキングをしている人たちとすれ違いながら、私たちも大きく手足を動かして、深く息を吸って前に進む。

時折、飛行機の音がするのは、空港がすぐ側にあるからだ。そしてとある地点までやってきたとき、その飛行機の音は一段と激しく響き、上空を通り過ぎていくようになった。
どうやらこの辺りは、着地直前の飛行機の通り道に当たるらしい。数分ごとに、キーンという音が大きくなったかと思うと激しい爆音と共に、見上げた木々の間を大きな飛行機の胴体の腹が横切っていく。その凄まじさに私たちだけでなく、前を歩く人たちも足を止めて上を見上げている。なんか気味が悪いくらいだよね、と苦笑する夫の横でふと思った。
でもきっと、戦争が起きている国ではこんな音が町中で、頭上で聞こえるのが日常だったりするのだ。例えば、かつては普通の暮らしがあり、治安もよいとされていたシリアの町はいまや戦闘でボロボロだ。あの町ではきっとこんな音が聞こえているのじゃないだろうか。あの機体の腹から機銃掃射や爆弾が降ってきたりする。そうしたら、どこへどうやって逃げるんだろう。

そんなことを考えたりするのも、きっと最近の世界情勢がどこもキナ臭かったりするからだ。戦争やテロは、今までは遠い国の出来事だった。それがだんだんと身近になってきているような気がするのは、思い過ごしだろうか。とはいえ、テレビで見るシリアの破壊された街並には胸が痛くなるけれども、私たちの日常は今までどおりに動いている。
テロやテロ未遂が同じ国や隣国で起きても、私の身近な日常の風景は変わらない。金正恩とトランプが威嚇し合い、日本ではアラートが鳴る。遠く離れているせいだろうけど、正直私にはあまりにも情けないレベルの対立で出来の悪いコメディを見てるようで、これもまたなんだか実感がない。
実際に日本では皆がどう感じているのかはわからないけれども、ネットのニュースと身近な話から見えるのは、今まで通りの日常だ。でもやっぱりふと思う。これからどうなるんだろう、と。

2年前に仕事先で知り合ったドイツ人女性は、こんなことを話していた。
「うちの祖父母は戦争を体験してる世代だけど、戦争の記憶があんまりないって言うのよ。田舎に住んでいたから、ユダヤ人が迫害されていることとかもよく知らなかったって」
義母の友人で95歳になるドイツ人女性も似たようなことを言っていた。
「私の住んでいた町は小さかったから空襲もなかったし、ユダヤ人も近所には住んでいなかったから、そういうことが起きているってことがよくわからなかったわ。もちろん戦況が悪くなってからは生活にも影響が出てきたけど…でもそんなに皆が言うような感じじゃなかったのよ」
と淡々と語る様子は、空襲を逃れながら生き延びた義母や義祖母の思い出話とはだいぶ違う。
ドイツも日本と同じく敗戦国として、国民は皆ひどい経験をしたはず、と思っていた私には、そんな彼女たちの話はものすごく意外だった。でも妙に納得もした。自分が体験していないことはどこか知らない世界のことで、それを想像したり理解したりすることはかなり難しい。

現代はインターネットのおかげで世界中の情報が手に入るようになったし、直接体験していないことでも、それを情報として即時に知ることはできる。けれどもフェイクニュースというものがあるように、全ての情報が正しいわけではないし、正しさの意味は受け取る人によっても違ってしまう。

そのことに気づかないままでは、報道規制がされてそれこそフェイクニュースで国民を騙していったあの戦争のときとあんまり変わらない。結局のところ、私たちは見えない部分への関心や想像力がなければ、世界で起きていることに対して、いくらでも無関心でいられるのだ。怖いことじゃないか。

6年前に98歳で老衰のために亡くなった祖母は、関東大震災も太平洋戦争も、そして最後は東日本大震災も経験した。その亡くなる数年前、祖母に付き添っていた母がそっと私に言ったことがある。
「なんかおばあちゃんが急にね、また戦争が起きるんじゃないか、って言うのよ」。
既に認知症が進み始めていた祖母とはいえ、その言葉に母は、単なるボケた言葉だとは思えずにぞっとしたらしい。日本がどう戦争に入っていったかを知っている祖母は、私たちにはわからない気配を感じていたのだろうか。

森の中の轟音に立ち尽くす私たちの横を、ジョギングする人たちが走り過ぎていく。たぶん近所の人で、この音には慣れているんだろう。彼らにとってはこれが日常の音だから。
それが恐怖の音とならないように、なんて思うのは、やっぱり自分の心の隅にかすかな不安があるからだろう。それが思い過ごしであるようにと、「立ち入り禁止」の立て看板を出口で再び見かけて、願う。


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© Aki Nakazawa
郊外にこんなに豊かな自然があるとは今まで知りませんでした。例えてみれば、東京23区を抜けたらいきなり日光自然公園、とか、そんな感じかな?

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© Aki Nakazawa
その森の出入口に立てられた自然保護区域の標識の横に並ぶのは「過去の弾薬や兵器類の残存により生命に及ぶ危険がある為、許可ルート外には立ち入り禁止」とある警告板。なんとも複雑な気持ちになります。

プロフィール
中沢あき
中沢あき(なかざわ・あき)
映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。