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第三十二回『手を繋ぎませんか』
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17.09.22 by 菊池ミナト



毎週末、きらびやかなブライダルフェアのテーブルで眺める食事中の山田仕郎は、なんと言うかこう、『傍若無人』を地で行く感じだった。
騒いだり喚いたり、四字熟語本来の意味とは少し違うのだけれど、まさしく『傍らに人無きがごとし』なのだった。
そうして結局、3週間に渡り計6回のブライダルフェアに赴き、山田仕郎とコミュニケーションらしいコミュニケーションが取れたのは、他人の結婚式に対する悪口を話していた数分間だけ、それも、ホテルのブライダルフェアで話した時の1回きりだった。
けれども、我々はお互いに同じ意見で、私は他人の結婚式で楽しかったことがなく、山田仕郎も同じだと言う。

悪口と言うか、見解と言うか、先入観と言うか何と言うか、他人の結婚式というハレの舞台に関する感想なので、振り返ってみると色々と取り繕いたい気持ちでいっぱいだが、肯定的な意見は何一つ口にしなかったので、要するにそれは悪口だ。

思えば、お花ちゃんは結婚式という大規模な祝宴には否定的な立場を取っていたが、他人の幸せまで否定することはしなかった。私が負のオーラ満載でよその結婚式を呪い始めると、「ブタちゃんはホント、しょーもねーなぁ」笑い飛ばしてくるのだ。
けれど、今この瞬間に目の前にいるのは山田仕郎だ。
私は、たった数分の間だけだったが、ようやく意思の疎通が図れた気がして嬉しかった。ブライダルフェアでお酒まで飲んでしまったので、アルコールの力で気が大きくなっていたのかも知れない。
そうして6回目のブライダルフェアの帰り、浮かれた私は山田仕郎に「手を繋ぎませんか」と提案していた。

場所は西麻布で、ちゃんと月が出ている晩だった。
右手はどこかの大使館、左手は閑静な住宅街。
初夏の素晴らしい夜を、私と山田仕郎は何故か縦に並んで歩いていた。
山田仕郎は基本的に道を覚えるとか調べるということが無い。対する私は、予約を入れた張本人なので場所を知っている。私が先導し、山田仕郎は私についてくる。すると、必然的に移動は全て縦並びになる。道がわかっている筈の帰り道でさえ、山田仕郎は私の半歩後ろを歩いていた。
小学生の頃、先生に命じられた『一列縦隊』というやつだ。
二人なのに、一列縦隊。
「今のところが一番美味しかったですねぇ」
と私が食事の感想を言うと、後ろから「そうですなぁ」と曖昧な返事が聞こえた。
腕を組んで歩きたい夜だ。山田仕郎にはない文化かも知れないが、こういう帰り道は手を繋ぐか腕を組むかして歩きたい。

お花ちゃんは夏に手を繋いでいると、「暑いんだよ、ブタ!」と身も蓋もないことを言いながら手を振りほどいて逃げるので油断も隙もないのだが、山田仕郎はどうだろうか。ふと思った。
別に誰に確認をとったわけでもないが、恵美子さんから山田仕郎は彼女いない歴=年齢、と聞かされていたので、私は勝手に山田仕郎は女性と手を繋いだことがないだろうと確信していた。
そして、もし初めて手を繋ぐのであれば、少しでもまともな思い出を残してあげた方が良いような気がしていた。
そういう意味では、シチュエーション的にはまずまずの及第点だ。
歩く速度を落とせば横並びになるだろうから、その瞬間に声をかけよう。
そう思って歩幅を緩めたが、街灯が作る足元の影で確認する限り、山田仕郎との距離は縮まらない。なるべく不自然でないよう、心がけながら速度を落としていったのだが、山田仕郎もちゃんと速度をあわせてくる。
街灯の間をじりじりと歩くうちに、結局立ち止まってしまった。
場所はまだ、どこかの大使館の長い塀の前だった。

「手を繋ぎませんか」
振り向いてそう誘うと、山田仕郎は、ひょっとこのような表情を浮かべた。
街灯が平坦な顔に影を作る。普段よりも顔に陰影があるような気がするのは。眉をひそめ口を突き出した素っ頓狂な顔をしているからだ。
何だかもう色々と心が折れそうだったが、私はめげなかった。
「聞こえました? 手を繋ぎませんか」
「何故ですか?」
お花ちゃんはこういう時、「暑いから、ヤダー!」と言う。
山田仕郎は、お花ちゃんとあまりにも違いすぎる。あまりにも違い過ぎて、いちいちお花ちゃんが思い出される。
お花ちゃんは「せっかくだから繋ごうよォ〜」とグダグダ言うと、だいたい半分くらいの割合で手を繋いでくれるのだが、私は山田仕郎にもお花ちゃんに言うように「せっかくだから繋ぎませんか」と言っていた。芸が無い。

『せっかくだから』という無茶苦茶な言い分に諦めた様子で山田仕郎はだらんとぶら下げた手のひらを広げた。その手をパシッと掴んで、横並びに歩いた。それほど暑い晩でもなかったのに、大使館の塀が途切れる頃には山田仕郎の手は汗でびっしょりになってしまった。もし私がお花ちゃんで、山田仕郎が私だったら、「暑いんだよ、ブタ!」が飛び出してもおかしくない。私はお花ちゃんの罵声の幻聴を遠くに感じながら、歩くのを止めた。
「暑かったかな?」
「そうですね」
この数分間で、山田仕郎は満身創痍だ。
「もう、いいでしょう」
しかし断りの文句を口にしておきながら、自分から手を離そうとはしない。多分、離し方がわからないんだろう。
私はパッと手を離して、先ほどと同じ速度で歩き続けた。
案の定、山田仕郎は自然な動きで私の後ろに回り込み、我々は再び縦並びで駅を目指して歩いた。

その晩遅く、お嬢さんから私の携帯宛にメールが来た。
文面は、こうだ。

Subject:ミナトさま
本文:仕郎が帰宅してとても美味しいお食事だったと言っておりました。今日のレストランで決定なのですね。とても嬉しく思います。結婚式の日、方法も、お母様のお蔭で上手くはかどりそうでよろこんでおります。仕郎には秘密ですが、帰ってきてから「こんな嬉しい幸せな日があるとは、思ったことがなかった」と言っていました。私が「これから、何かあった時には、その幸せだった日があったと思い出して頑張るのよ」と言いました。そうしましたら「そんな日はこない」と言っていました。ミナト様ありがとう。仕郎がとても幸せそうで、それを見ている私も幸せです。

私は5分ほどかけて携帯の小さな画面に表示されたメールの文面を繰り返し読んだ。なんだかほろりとくるような、泣ける文章だった。
しかし、平易な日本語で書かれている筈なのに内容は殆ど理解できない。

まず、式場を決めた覚えがない。別れ際の山田仕郎は「検討します」と気乗りしない金融商品を勧められたお客さんみたいなことを言っていただけだ。
ついでに、「こんな嬉しい幸せな日」が漠然としすぎていて全然意味がわからない。
お嬢さんが会話した人物と、西麻布で私の後ろを歩いていた山田仕郎は本当に同一人物なのだろうか。狂っているとしたら、誰だ? 私か、山田仕郎か、お嬢さんか。
「私は正気です」
部屋で一人、携帯の画面を見つめてそう言うと、自分が一番正気ではないような気がした。
そのままベッドにうつ伏せになり、お花ちゃんに電話をかけた。
『なんだよ、寝ろよデブ』
通話状態になるなり何のクッションも無く即座に悪態をつくお花ちゃんに「うう、寝ます」と返事をし、そのまま本当に電話を切って寝た。

プロフィール
菊池ミナト
菊池ミナト/きくち・みなと
主婦
リーマンショック前の好景気に乗って金融業界大手に滑り込んだアラサー。
営業中、顧客に日本刀(模造)で威嚇された過去を持つ。
中堅になったところで、会社に申し訳ないと思いつつ退社。(結婚に伴う)
現在は配偶者と共に暮らし三度三度のごはんを作る日々。
フクロウかミミズクが飼いたい。