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第三十八回『ダイヤモンドは永遠の輝き』
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18.03.23 by 菊池ミナト



10月になり、支店に在籍する行員の夏休みが一巡した頃、事件が起きた。

窓口の女性行員が、外していた婚約指輪を紛失したのだ。


私やつばさちゃんのような営業と比べて、窓口の女性陣は退行時間が1時間くらい早い。窓口が開いてる、銀行営業時間に、業務がギュッと圧縮されているのだ。9時の開店からから15時にシャッターが下りるまで、面前のお客様、背後の上司という衆人環視の中1分1秒を争う伝票処理の戦場で奮闘している。

我々営業は、どんなに積み上げても毎月リセットされるノルマを課せられ、実績が上がらなければ月に1回は個室に監禁されて上司トライアングル(3人に囲まれる)に詰められる、という恐怖の恒例イベントはあるものの、銀行営業時間中は社用車で担当エリアをウロウロしていることが多く、営業は大体お気に入りの休憩スポットを持っている。もちろん、スケジュールがギチギチに詰まっている日もあるけれど、やっぱりストレスの種類が窓口とは違う。


その日、私とつばさちゃんは、20時を過ぎて女性行員はほとんど誰もいないのをいいことに「今の時期はあそこのコスモスが綺麗」とか「新しくできたコンビニの駐車場が意外に死角」等と情報交換をしながら更衣室に向かっていた。おじさん達はまだ残っているが、女子更衣室は金庫と倉庫のある廊下の突き当たりにあり、歩きながら喋っていても特に誰に聞かれる心配も無い。窓口の女性陣も、とっくに帰っている時間だ。

けれど、明かりがついたままの更衣室に入っていくと、窓口の先輩方が何人も残っていた。一人は泣いている。先ほどまで何か喋っていた雰囲気はあるが、今は皆静まり返って一斉にこちらを見ている。

なんだなんだ、いじめか? と思って隣のつばさちゃんを見ると、つばさちゃんは真っ直ぐ前を向いたまま「どうしたんですか!」と言った。

その場にいた、一番先輩の窓口のお姉さまが、ほとほと参りました、という様子で教えてくれた。

「指輪が、無くなっちゃったみたいで」

「ゆびわ」

私が復唱すると、泣いていた先輩が「朝あったはずの、婚約指輪が無いの」と続けた。

あ〜、あの指輪か、と思った。

数日前、15時ギリギリに伝票処理をお願いしに窓口の後方をうろついていた時、その先輩が処理を引き受けてくれた。シャッターを閉めて暫く経ち、滑り込みでいらしたお客さまも皆お帰りになり、やれやれと思って私が処理済みの伝票を受け取りに行った時、一言お礼を言おうと近づくと先輩の左手薬指がキラッとした。

震災後の節電でフロアの蛍光灯は半分以上が抜かれていたが、それでも先輩の薬指を飾る大粒のダイヤモンドは何かの光を反射して煌めいていた。

「わー、指輪、めっちゃキラキラしてますね!」

と、私は小学生のような語彙で褒めた。

あれはたしか月曜日の出来事で、今日は木曜日だ。あの時先輩は、「婚約指輪なの。週末に貰ったばかりなの」と微笑んでいた。

そこから今日に至るまでの経緯は全て人から聞いた話だったが、すぐにどこかからか「華美な宝飾品は当行が定めるマナースタンダードに反する」という物言いがついて、先輩はおじさんの次長に別室に呼ばれ、指輪をしなくなっていた。物言いの件は、昨日、課長を助手席に座らせて営業車を走らせている時に聞いた。

課長は助手席に座り前を向いたまま「菊池さんは婚約指輪、してないよなぁ」と確認するように尋ね、私は「してませんねぇ」と笑った。

「営業があんなものキラキラさせてたら、マズイよなぁ」

課長は半分笑っているような声でそう言い、私は左折する時に課長の手元をチラ見した。課長は単身赴任中だが、結婚指輪は着けていなかった。

つばさちゃんが「最後に外したのはいつですか」等と尋ねている横で、あの物言いはどこからつけられたものだったんだろう、と一瞬思ったが、そんなことは今考えてもどうしようもないことだった。

出勤する電車の中では着けていた。支店に入る前に、道を歩きながら指から外し、保存用の袋に入れた。更衣室で制服のポケットに入れた気がするが、あまりよく覚えていない。窓口で受け付けた伝票にミスがあり、今日は制服のまま一時的に外に出た。更衣室で保存用の袋ごと指輪を無くしていることに気付いた。それから一時間近く探し続けたが、見つからず、途方に暮れていた。

つばさちゃんが確認した情報は以上だった。小一時間捜索活動に付き合ったと思われる女性陣は、何となくソワソワと鞄に手をかけたり携帯を触ったりしている。

「先輩、その婚約指輪、購入店はわかりますか」

私がそう尋ねると、先輩は「銀座のティファニーだと思う」と言った。

銀座のティファニーはもう閉店している時間だ。けれど、百貨店に入っているティファニーならまだ営業している。

「お店に電話しましたか」

「いや、まだ」

「じゃあすぐしてください。どこのティファニーでもいいんで。もし先輩が無くしてしまったのが路上だったとして、拾った人がサイズ直しで持ち込んだ場合、店頭でストップしてくれるように手配してくれる筈ですから」

先輩が携帯で電話番号を調べ始めると、窓口の女性陣は「まだかかりそうだし、先に帰るね」と帰っていった。

つばさちゃんと『フツー、先に帰るか?』と目で会話しながら、私は、きっと今回の件はおじさん達の判断で、事件ではなく事故、という扱いになるんだろうな、と思った。

ちなみにブランド品の指輪を紛失した時の初動は、お花ちゃんが酔っ払って色んな物を無くすので否が応でも身についてしまった知識だった。


先輩の無くなってしまった婚約指輪は、案の定、次の週の朝礼では「恐らく路上で無くしてしまった」ということになっていた。

課長に用事があって喫煙室に入っていくと、代理格が煙草を吸いながら「どうせはめられないなら、家に置いときゃいいのになぁ」「リスク管理がなってないよ」と喋っている声が聞こえ、課長は私の声だけ聞こえた風で「どうしたの?」等と言っていた。

全体的にそんな状態だったので、もちろん全員総出で窓口があるフロアを大捜索したり、ロッカーを一度どかして探したり、あまり気分の良いものではないが、抜き打ちで営業時間中にロッカーを見られたり、といったことも無かった。

「こっちは性善説ベースだからね」

そう、つばさちゃんは言っていた。

「菊池ちゃんと私は旧行が一緒だけど、こことは違うじゃん」

「うん」

『旧行』というのは合併前の銀行のことだ。私もつばさちゃんも合併後に新入行員として採用されたが、旧行の文化は根強く残っている。二人とも初めて配属された支店はもともと、合併された側だった。ここは違う。

「システムもそうなんだよね、人間は間違いをしないと思って作られてるの。菊池ちゃんと違って、私長いこと外に出してもらえなくて窓口に座ってたからさぁ。こっちにシステム合併させられたとき、マジで大変だったよ」

「へぇ」

「そういうわけだから、誰かが盗ったかも、っていうことにならないんだろうね」

「そんなもんかね」

持ってくるやつが悪い、とは声に出しちゃうのにね。そう言おうとして、つばさちゃんまで嫌な気分にさせることはないな、と思ってやめた。


無くなった婚約指輪のことは(女性行員の前で積極的には)誰も口にしなくなったが、同じく結婚式を控えていた、という理由だろうか、代理格や課長と二人で営業車に乗っている時の話題として、「医者が用意する婚約指輪とは」という話になることが多くなった。

私は一度も銀行に着けていったことはないし、飲み会でも着けていたことはない。

というか、山田仕郎から指輪を贈られていない。

婚約指輪を買ったのは恵美子さんである。どうして知っているのかというと、何てことはない、まだ前の支店にいた時、指輪を恵美子さんとお嬢さんが選んでいる場に呼ばれたからである。

山田仕郎は近所の知り合いの家におつかいを頼まれた子供の様に、紙袋ごと私に「これをどうぞ」と渡して済ませてしまった。

ダイヤモンドのカラット数も地金も申し分ない指輪だったが、私は貰った当日に自宅でひとり包みを開封し、すぐに包み直して引き出しにしまってしまった。

同じダイヤモンドなら、大昔にお花ちゃんが「おい見ろ、ダイヤモンド、永遠の輝き!」と爆笑しながら渡してきた、鑑定書も何もついていない物凄く小さなネックレスのダイヤモンドの方がずっと大切だった。

プロフィール
菊池ミナト
菊池ミナト/きくち・みなと
主婦
リーマンショック前の好景気に乗って金融業界大手に滑り込んだアラサー。
営業中、顧客に日本刀(模造)で威嚇された過去を持つ。
中堅になったところで、会社に申し訳ないと思いつつ退社。(結婚に伴う)
現在は配偶者と共に暮らし三度三度のごはんを作る日々。
フクロウかミミズクが飼いたい。