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痴漢目線の体感
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15.02.18 by 田房永子


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※痴漢被害についての描写があります。


 先日、埼京線に乗ってみた。
 埼京線は、東京の都心と埼玉県南部の都市を結んでいて、ラッシュ時の混雑率の高さと、痴漢被害が多い線として昔から有名だ。電車の混雑率と痴漢被害はセットで考えられやすいが、そうではないと思う。実際、埼京線に痴漢被害が多い理由として、一駅同士の距離が長いことと、島式のホームが続くために片方のドアが長時間開かないこと等が挙げられている。つまり埼京線には「痴漢しやすい」条件が揃っている、ということだ。喧嘩などのトラブルも多いらしく、最近では車内に防犯カメラもついたという。


 インターネットで検索してみた。古い情報も混ざっているが、痴漢加害者とされる者たちの間では埼京線は「最強線」と呼ばれ、その先頭車両は「同業」同士が女の奪い合いになるため、痴漢加害者は「戦闘員」と呼ばれるらしい。
 本当におぞましくて許せなくて、書きたくないほどなのだが、痴漢のしやすさによって、“同業”で車両を埋めてターゲットを複数で狙い犯行に及ぶこともあり、それを「カゴメカゴメ」と呼ぶ、と書いてあった。


 埼京線ではなくても、この囲まれる被害は起こっている。私が遭ったのは高校2年生の時だ。夜9時頃、中央線の下り、特急の待合せでドアが開いたまま、ホームに電車が止まっていた。既にギュウギュウ詰めの車内。たまたま一番前の車両の、入り口のちょっと空いたスペースに無理矢理入ると、その途端に隣の男がズボンの中で勃起している性器を私の太ももに押し付けてきた。気持ち悪いので人を押し分けて車内の中のほうに移動すると、フウ、と落ち着く暇もなく、どこからともなくワサワサワサと5本くらいの手が私のスカートに集まってきて、触り始めた。友達が同じ囲まれる被害に遭ったと聞いていたので瞬時に「あれだ!」と分かり、まだドアが空いててホームに止まったままだったので大声で「降ります! 降ります!」と言ってまた人をかき分けドアのほうに進もうとすると、近くのジジイが「おぉい、降りるってよぉ〜」と周りの人に言う。その言い方が半笑いだった。「この子、ダメだぞ〜。次が来るの待つぞ〜」って感じだった。みんなグルなんだ、と高2でも分かった。申し合わせて痴漢グループが乗ってる。ジジイが言うと、サラリーマンの人混みがささっと避けてドアまでの道ができた。全員がグルじゃないのかもしれない、でも、その中の誰かに助けを求める気にはなれない。誰の手なのか分からないからだ。誰もいないホームに飛び跳ねるように必死で降りると、今度はなぜかその足が重くて地面から離れなくて、ゆっくりとしか進めなくて、電車からあいつらがわらわら出てきて追いつかれるんじゃないかと恐怖で、半泣きでやっとベンチに座って、しばらく震えて動けなかった。
 駅員や警察に言っても仕方ないし、「こんなことで」落ち込む必要は無い、と自分に言い聞かせた。それは高2の私の頭に染みついた思考回路だったから、自然に出てきた。今になって考えると、それは大人たちから「しつけられた」行動であり自分の感情や自分の尊厳よりも、世間の流れや仕組みを優先させることを重視した教えに忠実に沿った行動だった。


 埼京線は今までの人生で10回くらいしか乗ったことがない。「痴漢」で有名な線に、改めて乗ってみようと思った。痴漢を現行犯で見つけられるかもしれないし、何かが分かるかもしれない。
 平日朝8時半、新宿から赤羽行に乗ってみると、下りのためか、人はほとんど乗っていなかった。痴漢行為をする「男」は明らかに他の男たちと動きや顔つきが違うからすぐ分かるけど、そういう男はいなかった。
 赤羽駅に着くと、新宿方面に乗り込むホームから、向かいのホームに掲げられた巨大な横断幕が目に入る。「痴漢は犯罪!痴漢行為は許しません」と書いてある。赤羽駅の新宿行のホームはとても幅が広く、ゆったりとしている。都内の駅でこんなに広いホームはあまりない。駅員が比較的多いように感じた。私はリュックを背負ったまま、怪しいやつはいないか、ホームの先頭から往復し始めた。


 とても広いので「痴漢する男がいそうな箇所」を絞ることにした。女性専用車両が来る位置には女の人がたくさん並んで待っていたが、ここは違うし、駅員が立ってるところも痴漢は避ける気がする。ホーム後方には駅員が何人かいたので、中間の車両に絞ることにした。既に9時半頃だったので、制服を着ている女子学生は一人もいない。
 私は今まで本やネットで読んだ現役痴漢たちの酷い物言い(※)や、そこから読み取れる彼らの価値観、痴漢加害をしていた人に聞いた話を思い出し統計しながら、「痴漢はどの列に並ぶのか」だけをずっと考えて、ホームに立っている人たちを後ろからジッと見た。
 すると、だんだんと、そこに立っている人たちが、インベーダーゲームのUFOのように見えてきたのである。


 ホームで列に並んで電車を待っている人の90%くらいが、スマホや本など何か手に持って下を向いている。その中で「男の人」は、「痴漢」にとってはターゲットでもなければ敵でもない。むしろカモフラージュに使えるし、場合によっては罪をなすりつけられる相手でもある。もはや「味方」とも呼べるかもしれない。だから全然怖くない。ただの黒いかたまりに見える。駅員の存在は恐ろしいが、緑色の制服を着ているので目立って分かりやすいので、避けることも簡単だった。
 そうやって、男を「黒」、駅員を「緑」として捉えると、女の人が「赤」となって際立って見えてくる。心の中で、「痴漢ってこんな風に、ホームを見ているのかもしれない、いや、きっと見てるんだ」と衝撃を受けながら、意識的にその「黒」「緑」「赤」の世界にピントを合わせてみた。今度は「赤」の中で、“ターゲット”を探さなければいけない。
 まず、体が太っていて大きくてミニスカートを履いている女の人は「怖い」という感じがした。体に触ったりしたら「なんだオラてめえ」とつかみかかられる、ような気がした。
 私自身、ホームに立っている知らない女の人をそんな風に思ったことはない。でも「これから女の人に痴漢行為をする」という人間になりきって「黒・緑・赤」で見てみると、太っている女性は“ターゲット”から外すしかなかった。捕まりたくない。人生をかけて犯罪を犯すんだから、失敗はしたくない。
 ものすごく短いスカートを履いていて、細くて高いヒールの、美脚の若い女性がいた。薄いストッキングに包まれた太ももが、妙にいやらしく見えた。「そそられるけどやっぱ強そうだからやめておこう」と思った。年齢が高そうな女性、に関しては、怖いのはもちろん、「もったいない」という感覚もした。せっかく犯罪を犯すのに、もっと“市場価値の高い”女を狙わないと損、という気持ちである。とにかく、太っていたり、年齢が高かったり、派手な格好をしている女は、「厳しそう」に見えた。ハッキリと男に向かって怒ってきそう、怒られそう、に思えた。
 そうやって絞っていくと、このホームには“ターゲット”がいなかった。結局、「それらの条件を満たす好都合なターゲット」はやはり、10代の女子学生になってくる。10代の女子学生は「子ども」である。その「子ども」という圧倒的に弱い者を相手にすることで、簡単に犯罪が犯せるのと同時に、逆に「子ども相手なんだから捕まっても仕方ない」という、捕まった場合の言い訳のようなものも、自分に用意できるのではないかと思われる。


 私は、愕然とした。今まで集めた、痴漢加害者に関する情報と、「痴漢目線」で体感した感覚が、ほぼ一致したからだ。ここから、ターゲットを決めて実際に実行に移してしまう心理までは分からない。だけど、元加害者男性が言う「被害女性のことは人間と思ってなかった」という感覚や、「この人を触ってもトラブルにならないだろう、と予想を立ててそれが実現した時の楽しさ」の意味は、分かった。
 痴漢行為は、「魚釣り」にソックリなんだと思う。ここに魚がいる、と予想を立てて、思った通りの魚が釣れた時の楽しさ。それは『やっぱり俺の読みは当たってた』という、俺が俺を賞賛する快楽である。予想以上の高級魚が釣れるかもしれない、というロマンもある。「高級魚」を痴漢の場合に置き換えると、痴漢掲示板によく書いてあるが、「嫌がってたのに、感じ始めて喘ぎだしたりする女」のことである。そんな女が実際いるかいないかは、どうでもいいんだと思う。彼らの中では、絶対に実在するということになっているんだから。


 『慎重なのに大胆』という、被害者として加害者の行動を見た時の印象、そのものを、私は自分の内部で感じた。ホームがインベーダーゲームの画面、人々が「黒・緑・赤」のUFOに見えている人間にとって、目の前の大きな横断幕「痴漢行為は許しません」は、ゲームの面白さを煽る背景でしかない。
 防犯カメラなどの対策が実際の被害の減少には役立っていないとは思わないが、もう「排除」していくだけではダメなんじゃないだろうか。根本的に、何か、間違ってるんじゃないだろうか。
 私は一度だけ魚釣りで釣ったことがあるが、妙な興奮を感じたのを覚えている。普段目にしない大きな魚がビチビチと跳ねて、なかなか釣り上げられなくて怖かった。釣り上げた時の、「釣れた!」という高揚、ちゃんと自分のバケツに入れるまでは安心できないというスリル、それらを堪能したあと魚を川に戻したのだけど、命までは奪わない自分の優しさ、みたいなものも感じられた。それまで釣りなど興味がなかったが、確かにくせになると思った。実際にそれから何度か川に行ったけど、ぜんぜん釣れなくて面白くなくてやめた。 
 まずは本当に、ちゃんと、大人たちが、10代の子どもたちに尊重させるというところから始めなきゃいけないんじゃないだろうか。自分の尊厳を尊重するということを。それには、大人たちが自分の尊厳を尊重するという感覚を持つ必要がある。
 テレビのトーク番組で「どうして大人たちは痴漢を知らんぷりするのか」という話題になった時、タレントが「痴漢が刃物を持ってるかもしれないし、周りの人は助けられない。被害に遭った女の子も静かに逃げるしかない」と言っていた。タレントがテレビでそういうことを言うこと自体、痴漢犯罪の実態が幅広く知られていない証拠だし、刃物を持っているかもしれなかったら、なおさら、私はそんな奴を女の子一人に任せるなんてことしたくない。


 痴漢の掲示板を見ていると、「目撃談」もよく書いてある。書き込んでいる男は、ひどいことをされている様子を、ただ見ている。それに興奮するでもなく、怒るでもなく、あっけにとられて見ている。まるで自分とは別の世界の衝撃映像、であるかのように描写する。そういった、自分に危害があるかもしれない危機感とは別の、シンプルな他人事感、それは、痴漢被害というものが実際にあるということを、知らされていないからだと思う。もっともっと、知らなきゃいけない。当たり前のように起こっているひどい事件を、「ある」んだ、と知らなきゃいけない。私は、しっかり、学校教育の段階で教えて、勉強するべきだと思っている。まったくそういった授業も受けていなくて、自分がターゲットになったこともない人が、分かるわけがないと思う。だけど、分かってもらわないと本当に困る。被害者は、10代の女の子が多いというだけで、年齢も性別も関係ないが、今はおぞましいことに、「釣れたら面白い魚」を大人たちが作り上げ、放流して、釣り堀を保っている状態なのが現実である。ターゲットになりやすい女の子たち、痴漢加害者、電車を利用している痴漢犯罪を知らない人たち、それぞれに向けて、いろいろなアプローチを、これからも考えていきたい。


 そんな感じで、この「痴漢目線」の体感、何の素質がなくてもできることだと思うけど、こういう検証をなんで「男」がやらず、女の私がやっているんだろう、と思いながら帰宅した。

 
【補足1】
(※)以前に書いた、痴漢掲示板についてのコラム
http://www.lovepiececlub.com/lovecafe/mejirushi/2011/06/30/entry_004133.html


【補足2】
 男性ライターユニット、桃山商事の清田さんと佐藤さんが、私の本「男しか行けない場所に女が行ってきました」について情報サイトmessyで語ってくれた。(ここで読めます→http://mess-y.com/archives/17150 とても面白い記事です)
 この中に出てくる「他の客とは違う俺」「(俺だけに提供される)裏サービス(を期待する)」「俺という男に興味を持ってくれ!」という言葉が、埼京線の痴漢目線体感と、強烈にリンクした。
 この「俺だけには特別に扱ってくれ」感、普通に男が持っている感覚だと思う。これが、痴漢行為をする際の加害者の心理に作用してないはずがない、と思った。もしかしたら、軸かもしれない。

プロフィール
田房永子
田房永子(たぶさ・えいこ)
漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。