タイトル画像
ラブピースクラブショップ
スタッフおすすめトーイランキング
バイブレーター編!
No.1
誰もが虜になる大人気吸引式バイブ!!
No.1
うっとりするほど美しいトーイ
No.1
ラブピースクラブロングセラー! 北欧の最高傑作トーイ。
女印良品
アンラッキーなお産 <後編>
アイコン
18.01.22 by 田房永子



 その数日後、子育てについて講演する仕事があった。この一連の「逆子になって帝王切開が決まった」という話をしたら、「私も逆子で帝王切開しました」というお客さんが何人も話しかけてきてくれた。こんなにたくさんいるんじゃん! 落ち込んでいる時ってついつい「こんな状況になっているのは世界で私一人だけ」みたいな錯覚をしてしまう。そんなことなかった。

 「私も、田房さんと同じで上の子の保育を誰にも頼れない環境だったから、帝王切開の日が決まって『ラッキー』と思った」と話してくれた人もいてうれしかった。
 「うちの子は、ずっと横向きで帝王切開になった。生まれてきてから本人に聞いてみたら『パパとママに早く会いたくて、外に出ようとしてたら、横になったまま動けなくなっちゃったんだよ』と言っていた」という話を聞いた時は、涙が噴き出そうになった。
 それに、保育園のママ友や学生時代の友人とか、話してみると帝王切開で生んだという人はとても多くて、「周りが丸出しにする『残念ねえ〜』によって気持ちを蝕まれる」という状況に共感し合ったり、帝王切開でのメリットもいろいろ聞けた。そうやって話したり、情報交換することで「ラッキーな自分」に還ることができた。

 そこから少しさかのぼり、妊娠6ヶ月の頃、マドレボニータの「マタニティケア教室」(https://www.35.madrebonita.com/class-ninpu)に通っていた時のこと。雑談中、「産後の膣や陰唇の回復」についての話になった。一人の参加者の妊婦の人が言った。
「私は一人目が帝王切開だったから、次も帝王切開。だから膣のことを考える機会がなかった」
 「ああ、そうなんだ、帝王切開だと膣や陰唇はそうか、伸びたり傷がついたりしない、そのままなのか」と、その時はじめて知った。(詳しく書くと、帝王切開でも骨盤底筋群には影響があるという。でも陰唇部分が裂けたり伸びたりはしないってこと)

 帝王切開と決まった時からずっと、あの妊婦さんのニコニコした可愛い顔がずっと頭に浮かんでいた。例えば、帝王切開は死ぬ確率がものすごく高いっていうなら「残念ねえ〜」を丸出しにするの分かるけど、みんな死んでないじゃん。帝王切開して、次も帝王切開だって話す人があんなにニコニコと元気はつらつでバランスボールも私より高く弾んでいるのに、なんでそんなに「帝王切開は回避できるならすべきもの・・・」って深刻な、暗い気持ちにならなきゃいけないんだろう。

 帝王切開や逆子を「好ましくないもの」みたいに扱わないでほしい。こっちだってどうしようもないんだから。どうせ口を開くなら、「赤ちゃんにもいろんな事情があって逆子になる。いまの医療は大丈夫だから、心配しないでまかせてね」と言ってくれてもいいじゃないか。(そう言う病院もあるんだろうけども)。
  「治す」なのか「直す」なのか分からないが、逆子を「なおす」という言い方にも、ものすごく違和感がある。

 そんな風に、あの診察室で感じた不満を頭の中で言葉にして何度も反芻しながら、ラッキーな自分に還れた私は、逆子対策は一切せず、帝王切開経験者のママ達とメールをやりとりし、完全に「帝王切開、楽しみです!」という気分になった。

 そして2週間ぶりの健診の日。エコーを見ると、赤ちゃんの頭が下になり、逆子じゃなくなっていた。
 帝王切開の手術がなくなり、入院の予約もキャンセルして陣痛を待って下さい、ということになった。また、「いつ生まれるか分からない、保育の予定が組めない」という不安な状況になってしまい、思わず「ハァ〜〜・・・」とため息が出た。医師は安堵の呼吸だと思ったのか、笑顔で「いや〜、ラッキーでしたね!」と言ってくる。うわああ、言った、ラッキーって言葉、はっきり言ってる・・・。私は意識的に口角を上げてハイそうですね、というリアクションをした。「帝王切開のほうがよかったです。そのほうがうちの場合は、私が安心して出産できるからです」っていうのが本音なんだけど、絶対に言えない。言っても仕方が無いし、意味がなくても言ってみよう、と謎のチャレンジ精神があったとしても、言えない。

 自分の命が、赤ちゃんの命が、大切じゃないのか、みたいな方向の話だからである。母親なら絶対に死守すべきことを、放棄するのか、みたいな、母親としての大罪、みたいな分野の話だからである。

 そこに、出産であそこが伸びちゃってセックスするのが楽しいと思えなくなることへの懸念とか、夫の仕事とファミサポの予定が上手く噛み合わず、“関わると心身に不調が出る実親”に子どもの世話を頼むしかなくなる事態になる恐怖とか、母親個人の感情が反映されたり考慮されることはない。それらは「赤ちゃんの命、元気、健康を第一に考えた出産方法」を前にすれば、なんの意味もないことだからだ。 

 反面、妊婦それぞれに違った事情や家庭環境があるんだから、それでも選べない出産方法を提示する側の医師が、どの方法かによって「ラッキーですね」と妊婦に声をかけるのも、大変に非常に猛烈に無意味なことであると思う。

 私は黙って、「逆子が治ってよかったねー」の診察室で、「よかったです」というフリを最小限でしていた。医師は続けて「一人目は自然分娩なのに、二人目は帝王切開になったら忍びないと思ってたんでね、よかったです」と言った。
 「忍びない」ってどういう意味だったっけ、と思ってあとで検索してみたら、「がまんできない、耐えられない」とかいう感じだった、つまり「そんなことするのは気の毒で可哀相」みたいなことかなと思った。
 ねえねえ、そんなにか? そんなにやばいことなのか?

 ていうか、経膣分娩の途中で緊急帝王切開になることもあるよねえ? 私がもし、結局帝王切開になりました、ってなったら、その「気の毒」が本当のことになっちゃうんだからさ、あとで気まずくない? だから「ラッキー」とかそういうことさ、ほんと言わない方がよくないですか? と思った。
 その人、ぜんぜん嫌な医者じゃないから、あんまり悪く書きたくないけど(もうさんざん書いてしまったけど)、本当に、帝王切開に関する発言だけは、苦言を呈したい感じだった。しかし、「赤ちゃんの命」が人質になっている分野なので、金縛りにあったように私の口は固く閉じ、苦言は全く呈せなかった。

 そして結局、私のお産はどうなったかというと。
 「第二子は、初めてのお産の半分の時間で生まれる」と義母や複数の人に言われたので信じ込み「つーことは4時間半で生まれるな。楽勝だな」と思い込んでいたけど、20時間かかった。
 いろいろ活動した日の夜0時、そろそろ寝ようと思ったらほんとうにわずかな、微弱な陣痛がきた。その時「朝の4時30分頃に生まれるから起きていよう」と思ったのがまずかった。なんで「半分の時間で生まれる」説をそこまで信じていたのかマジで意味が分かんないんですけど。

 陣痛が微弱な時に寝ておけばよかったのに、起きたまま、本格的な陣痛が始まったのは5時間後だった。そこから15時間、とんでもなく眠いのに陣痛で1分ごとに起こされる、という無限の不眠地獄をさまようことになった。朦朧とするその途中、白衣を着た人間が何度も入れ替わり立ち替わり私の股のあいだにやって来て、「診察」といって私のアソコに手をつっこんでなんかいろいろやるんだけど、それが嫌すぎて「やめろーーーー!!!!!」と怒号を挙げて大絶叫で抗議した。

 第一子の出産は助産師さんたちのチームワークや動きがものすごく上手だったんだ、9時間のお産があれだけ楽しかったのは助産師さんたちのサポートが神がかってたんだ、ということも、この時に分かった。

 第二子の病院では、とにかく助産師さんたちがぜんぜん尻の穴をテニスボールで押してくれない。「おしりの穴〜〜〜〜〜!!!!!!! 押してくださあ〜〜〜〜〜い!!!」と何度も何度も絶叫した。すると、かけつけた夫が駆り出され、なんと夫にテニスボールを渡し、私のケツの穴を押さえさせるのである。そりゃないよ(泣)。

 夫には立ち会って欲しいけど、夫は産後、私よりも働いてもらわなきゃいけないからこんなとこで不必要な労働で疲労してほしくない。出産の大変さとかはもう第一子で知ってるから、いいの、それは! それより、これから数日の私の入院中の、子どもの世話とかの体力を温存してて欲しいわけ! そして夫の手が私の肛門を押さえている時に、私の肛門からウンコが漏れたりすることもありますよねえ? 出産ですから〜、何が起こるか分かりませんから〜。そしたらマジで今後の夫婦生活に影響あると思うから、夫と共に私も萎えちゃうから、ほんとにお願い! 夫には私の肛門を押させないでください! ていうか、治療費に入ってますよね? 私の肛門押さえる作業代! お金払ってますよね? そっちの仕事でしょうーが!!

 だけど、もうまぶたが重くて重くて目を覚ましてるだけでも眠くてつらい状態でそういう説明を助産師にしようとしたら、ギャーギャーわめいてブチギレてしまいそうで、なんかもう自分がどうなってしまうか分からなくて、気力もなく、ただ「押して〜!!!!」と叫ぶしかなかった。とてつもなく眠い。なのに陣痛に起こされる、朦朧とする、寝る、白人のおじいさんの幻覚を見る、起こされる、絶叫、寝る、白人のおじいさんや動物と船に乗る(ノアの方舟?)、起こされる、を15時間繰り返した。壮絶だった。本当に、人生でこんなにがんばったことないくらいがんばった。

 最後の最後、もう赤ちゃんの頭が出てきてます、という時。断片的に、クラブのフラッシュするライトみたいにバシバシバシ、とノアが現れ、それまでは寝ないようにがんばってたけど、もう「寝る」という行為を自分からしていた。

 でも当然、いろいろ声をかけられて、「ハイハイ! がんばりま〜〜〜〜〜〜〜ああああす!!」と白目をむいて叫んだあと、最後のいきみで赤ちゃんが引っ張り出された。
 持ち上げられ、台に乗せられる赤黒い赤ちゃんを見て、バチンッと目が覚め、「あああああああああああああああああ〜〜〜〜!!!!!!!」と野太い声と涙が出た。あああ、ああああああ、と、夫と赤ちゃんを交互に見た。(関係ないけど、その後「うぬぼれ刑事」を見たら、長瀬智也と西田敏行がこの動きをやってて、あ!あの時の私だ、と思った)

 3900gもある赤ちゃんだった。あとで聞いたら、頭が大きく、さらに逆回転してたからなかなか出てこなくて時間がかかったということだった。
 助産師さん看護師さん医師たちのお産の進行に多大な不満を感じた壮絶で地獄そのものなノア方舟出産だったけど、赤ちゃんを見たら、とりあえずまあいっか、という気持ちになった。

 赤ちゃんとの対面(カンガルー抱っこ)や写真撮影も済んだ。夫も上の子をお迎えに行った。一人、分娩台の上で達成感をゆるくかみしめた。体温を計ったら、私は37度以上あるということで、翌日の朝インフルエンザの検査をするまで赤ちゃんは新生児室で預かるということになった。私も今日は寝た方がいいし、これから病室でやっと眠れる! こんなに眠いこと、人生でもそうそうないぞ。寝るのが楽しみだ、と思いながら、病室に行くのを待った。

 しかし、分娩台で下半身を露出したまま(パンツだけはいてた)放置され、病室に行く気配がない。医師、看護師、助産師たちがなにやら慌てていた。

「ガーゼがない」

 気にせず寝ようとすると、一人の看護師が話しかけてきた。
「あのですね、田房さん。ガーゼがなくなったりしたら困るので、お産を始める前と終わったあとに枚数を数える決まりがあるんですね。だけど今、1枚足りないんです」と丁寧に説明された。「田房さんの子宮の中に入ってるかもしれないので、これから調べます」と言われた。おいおい。

 赤ちゃんが出てきたばかりの子宮に、外からガーゼが入るなんてことあるのか? 吸い込まれるのか?
 という疑問は、医師、看護師、助産師たちも持っているようで「え? 子宮に?」「いや、だから一応みるって」「みておいたほうがいいって」と、コショコショ話している。

 私は体はぐったりしていたが、二人目の子どもに会えたことで脳のテンションは上がっており、ノアの方舟に乗っている、我は選ばれし者、みたいな超越した気分ができあがっていたので、「民よ、そんなに不安であるならば、汝の気が済むまで、我が輩の子宮を調べるがよい」みたいな感覚になっていた。 

 つうか、アソコを広げる器具みたいのを入れてガチャガチャされるのが本当に嫌いで、お産のあいだも「やめろっつってんだらぁ!!!!やめろーー!!!!」とか、ヤカラみたいな巻き舌や豊田真由子みたいな伸びやかなドス声を駆使して絶叫してたのに、それが15時間もあったけどやっと終わってホッとしてたのに、病院側のミスによってガチャガチャをまたやられるって、アンラッキー以外のなにものでもない。しかも下半身パンツ一丁のまま放置されている。「あの・・・寒いんですけど・・・」というと、やっと布をかけてくれた。

 それでも私は超越ノア状態だったので、快くガチャガチャで調べさせてあげた。それでも見つからないので、今度はエコーで診るという。お腹にあてるエコーじゃなくて、アソコに棒をつっこむほうのエコーである。本格的じゃん。本格的に調べてるじゃん。これほんとに子宮にガーゼ入ってるかもしんないよね。あのさ、もしさ、ガーゼがさ、私の子宮の中にあったらさ、あれだよね? お腹切らないとだよね? なんか他の方法で引っ張り出したりするのかもしれないけど、お腹切る可能性もあるよね?

 あれだけさ、さんざん、「帝王切開は負担があります」とか「帝王切開になったら忍びない」とか言っててさ、お産じゃなくて医療ミスでお腹を切って開けることになったら、気まずいどころの騒ぎじゃないですよね? 出産・入院費用タダにしてくれますよね?
 それどころかこれって医療ミスで記者会見とか慰謝料請求、裁判とかになりうる状況なのでは・・・? 

 と思っていたら医師がエコーの棒を持って、私の前に座り、「はい、じゃあ診ます」と笑顔で言った。その時。
「ガーゼありました!」
 看護師の声が分娩室に響いた。

 するとエコーの棒を持った医師が「ガーゼが見つかったので、診るのは中止です」と何事もなかったかのようにエコーの棒を下げたので、おいおいなんだよその感じ、ちょっと待てや、と思い、「いやいや、この際、一応診てくださいよ!!(笑)」と強めに言うと、あそう?という感じで棒をつっこんだ。

 当然ガーゼは入ってないのだが、その医者はなんか、新人らしき人を横に座らせ、「これが、こうで・・・」とか言って、産後直後の子宮のサンプルとして、私のアソコをグリグリしながら授業みたいのを開始していた。
 ほんとです。ノアの方舟は幻覚だけど、ガーゼのくだりは全部現実です。

  退院前日、どうしてあんなにお産に時間がかかったのか、という理由を聞いておきたくて、「先生に聞きたい」と申し出ていた。
 ガーゼの件はもう何も言う気はなく、単純に、何がどうなってたのか知りたかった。だけど、看護師の人が何度も私の病室にやって来て、「クレームとかじゃないですよね?」って聞いてくる。
 やっぱり、あのガーゼの件は病院でも珍しいことなのかなあ、訴えたら本当に何か無料とかになるのかなあ、と思ったけど、もうどうでもよかった。なかなか先生と話をさせてくれず、でも最後、前述した逆回転してたなどの理由が聞けてスッキリした。

それでも産後半年経っても、このお産のことを思い出すとムカムカと怒りが湧いてくる感じがあった。何よりも、夫にお産を手伝わせていたのが許せない、という気持ちが強かった。夫に何か、トラウマを与えてしまったのではないか、という不安からの苛立ち。

 思いきって夫に、「あれが何か、つらい記憶になっていないか?」と尋ねると、「あまりよく覚えてないし、そんなに大変じゃなかったよ」と言われ、それでスーッと苛立ちは方舟に乗ってどこかへ行った。

 たぶん私の、第二子のお産は、病院の対応もいろいろ不満があったし、第一子のお産がラッキーだとしたら、今回はアンラッキーだったと思う。

 でも、それが一体、なんなんだろう。
 どれが好ましいお産とか、体への負担のことは医療に詳しくないから分からないけど、経膣分娩だって負担は当然あるし、助産師さんたちとの相性だけでもその負担は大きく変わることがあると思う。医療ミスで結果的に負担がかかるってこともある。

 何が言いたいかと言うと、ほんっとに、逆子で帝王切開を、あんなふうにアンラッキーな感じで表現しないで欲しい。どのお産も、その人のお産であり、比べられるわけがない。そして、元気な赤ちゃん、母子共に健康、が正解、みたいなのももう、ほんと、いいだろ、そういうの。それぞれの事情や家庭環境、体質、人生がある。

 そして「逆子の原因は母体の冷え」というフレーズ、妊婦を追い詰めるだけだから本当にやめてほしい。そんな風に言い切れるほど絶対的な原因なんかないと思うし、逆子を“なおす”という言い方も、一秒でも早く衰退して欲しい。

プロフィール
田房永子
田房永子(たぶさ・えいこ)
漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。