女印良品
「男は僕だけ」と言いたがるオヤジ
2011.04.22
by 田房永子
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 カルチャー教室のような、趣味が目的で人が集まる場所で、女ばかりの中に一人だけ男がいるという状況がよくある。そういう時たいていの男は黙っているが、「あれ〜? 男が僕一人だ(笑)」とウレシそうに発言するタイプのオヤジが結構いる。「まさかのハーレム状態(笑)」とかわざわざ口に出して言うオヤジ。別に言う必要ないし、面白くもないのに、なんでわざわざ言うんだろう。「女性の中に一人でも僕、楽しめちゃう人なんで、僕のことはお気になさらず♪」というこちらへの気遣いの言葉なのか? 誰もオッサンのことなんて気にしてないのに…。
 この手の「僕だけが男」を強調するオヤジ、略して『僕だけオヤジ』は、やたら社交的で、「僕はどんな女性とも公平にフランクに接することができます♪」みたいなオーラもすごい出してくる。こっちは趣味が目的で来てるからそんなのどうでもいいのに、自分の女性観を披露するムードで室内を充満させたがるから厄介だ。初対面が介する場にいる女性は、素直でポジティブな人が多いので『僕だけオヤジ』の相手をちゃんとする。おかげで白けた空気を投げるのは、私を含めた少数に留まる。

 私が最近よく見る『僕だけオヤジ』は、年齢が40代中盤〜50歳くらいで、髪を中田ヒデ風にこざっぱりと切り揃え、“シャレた”格好をしている。「仕事も大事だけど、遊び心も忘れてませんヨ。一生やんちゃボーズ宣言☆」とかブログに書いてそうなオヤジである。聞いてないのに「『カジュアルだけど、オトナにしか出せない色気』が本日のテーマです」と語りかけてくるかのようなコーディネイトを全力でしている。本人はさりげなく振舞っているが、そのさりげなさも全力なので、むしろ勃起したチンコがそのまま歩いているかのように、私には見える。
 社交的で、全ての女性に対して平等な態度であることをやたら主張するが、常に目の前にいる女たちを年齢と美貌でランク付けしているのがバレバレ、それが『僕だけオヤジ』の特徴だ。『僕だけオヤジ』が一番大好きなのは、18〜23歳位の女である。とにかく若くて美しい女へ「僕は、キミの同年代の坊やとは、一味違いますよ。是非ご賞味あれ」というメッセージを込めたカウパーを飛び散らかすために、30〜40代の年増女たちをとことん利用する。

 先日、アクセサリーを作るワークショップに行ったら、参加者の女6人の中に『僕だけオヤジ』が紛れ込んでいた。最先端って感じの未知なる布で出来たお洒落ジャケットの胸元に、女子からカワイイ〜と言われそうなピンバッジを付けていて、芸術系大学の教授っぽいいでたち。それだけで私の陰核レーダーが一気に「嫌悪」へ振り切れた。僕だけオヤジは予想を裏切ることなく、自己紹介で「今日はなにやら、黒一点で(笑)」とウレシそうに言った。女ばっかりが集まる所へわざわざ来ているくせに「なにやら」という言葉を挟みこんでくるあたりに、熟練した匠の技を感じさせる。ため息を抑えるのに苦労した。
 節電の中、アクセサリー作りが始まった。35歳くらいの“年増女”が「暗くて手元が見えない〜(笑)」とつぶやくと、すかさず「老眼鏡貸しましょうか?(笑)」とジョークをカマすBOKUDAKEオヤジ。年増女特有の「年齢自虐ネタ」に便乗することで、若い女の「若さ」を間接的に強調させるのがBOKUDAKEのやり方である。「他の女たちより君は若くて素敵だね」と直接言うのではなく、水面下で伝える。だからBOKUDAKEオヤジが相手をするのは、機微を受け取れる「アタマのある若い女」になる。ノリがいい年増女を選ぶことにも長けているので、老眼鏡と言われた年増女は「んも〜! いらないわよッ(笑)」と返し、ワイワイしていた。さもBOKUDAKEの発言によって盛り上がったかのような雰囲気になっているアクセサリー教室。BOKUDAKEの隣の席に座っている若い女が笑顔になる。
 私はこういう時、僕だけオヤジのガールハントに利用されるのは御免なのでなるべく輪に入らず、顔を能面化させる。そうすると一気に僕だけオヤジの視界から私が消えるのが分かる。僕だけオヤジにとって必要なのは「若い女」と「使える年増女」のみなのである。

 しばらくすると、雑談の中で、僕だけオヤジの隣にいる若い女の子と僕だけオヤジは同棲中の仲であると衝撃発言をしていた。別にこんなとこで言う必要ないのに…と思いつつ、面白いからもっと聞きたい…と思った。その女の子は18歳で大学に入りたてだと言う。その女の子をよく見ると、メイクをしてなくて黒髪のショートヘアで、真面目そうで聡明そうで、でもちょっと同年代の中では浮きそうな感じの子だった。僕だけオヤジと前戯3時間くらいで結局挿入なし、みたいなセックスしてるんだろうな、と思うと、女の子の地味な服の小さめの胸のふくらみがやたらエロく見えた。
 そういえば10代の頃、僕だけオヤジ専門の子っていたなあ、と思い出した。そして自分もバイト先で僕だけオヤジに絡まれたことがあった。僕だけオヤジは、30歳くらいの女のことを私の前ではわざと「ババア」と呼んでいたことを思い出し、更に顔が地蔵化した。

「僕だけオヤジ」
女向け商品度★★☆☆☆(ある程度の需要がある事は否定したいができない)
「恋が僕の原動力」とか普通に言いそう度★★★★★
奇抜なファッションに挑戦はしない無難度★★★★★

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プロフィール
田房永子
田房永子(たぶさ・えいこ)
漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。
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