ガサ27 「殺すオンナ・殺すオトコ」

10月1日未明、大阪市の個室ビデオ店への放火で15名が死亡する事件があった。46歳の無職の男による犯行とのこと。「生きていくのがイヤになった」という供述や、借金苦による自暴自棄的な行動である可能性が報じられるにつけ、「生活に疲れた。世の中がイヤになった」と犯行理由が語られた6月8日の秋葉原殺人事件を思い出す。一言でいえば、迷惑なオトコである。彼らをそこまで追い詰めた社会的状況があるにせよ、「イヤになった」人が7人も15人も殺す、つまり、自分の感情のままに他人を巻き込めるパワーを持つ“疲弊したオトコ”という存在に、オンナとの立場の違いを痛感させられる。一方では、1人のわが子を殺したオンナの無情さや残忍さが、まるで狂気に満ちた鬼畜のように語られるというのに。

もちろん、殺人という行為の重さに、被害者の数は関係ないかもしれない。それでも、自分の不満を、見知らぬ他人の身体に向けられる傲慢さと、自分の身近な存在である子どもの身体に向けるしかない閉塞感には、違いがあるように思えてならない。ゆきずりの、不特定多数の他人を殺したところで、加害オトコが失うものは何もない、といったら言いすぎだろうか。実刑を受けることで失う自由など、「生きていくのがイヤになった」オトコにとって、どれだけ痛みを伴うものなのか。それに引き換え、自分の子どもを失うことでしか、子どもと生き延びる道がない、と思いつめた加害オンナは、まるで自らに痛みを課すために犯行に及んだようにもみえる。本来、“助けてくれない社会”に怒りを向けるべきは、ギャンブルで借金をつくったオトコよりも、一人で育児を抱え込まされたオンナであるはずなのに。なぜ、子育てを手伝ってくれないのか、という怒りで、無差別殺人を犯す母親はいない。それこそが、まっとうな怒りであるのに。

オトコは、自分の不遇を社会のせいにし、他人を殺す。オンナは、社会の不備を自分のせいにし、わが子を殺す。かりに、両者ともに“ストレスが高かった”状態(あるいは“心身喪失・衰弱”の状態)だったとして、それを解消する術が「みな殺し」なのか「子殺し」なのか、その違いはどこから生じるのだろう。生きることに行きづまったとき、衝動的に「みんな死んでしまえ」と思うか、「目の前のこの子さえいなければ」と思うか、両者の目に映っている“世界”の大きさはあまりに違いすぎる。どんな苦境でも、オトコは“社会”が見える位置に身をおいている。オンナが目にしているのは、半径1メートルの“子どもとの関係”だ。

秋葉原の事件では、容疑者の失業や挫折経験が報じられ、“下流社会”の問題が論じられた。今回の放火事件でも、個室ビデオ店を宿泊所かわりに利用せざるを得ないサラリーマンの実情が問題視され、加害オトコたちはまるで、そんな階層社会や不況社会の犠牲者とでもいわんばかりの扱われ方だ。マスコミは、加害者の残忍で浅はかな犯行を非難しながらも、オレたちの生きづらさ、オレたちの問題、オレたちの社会といった“社会の問題”を作り出す。そんな社会の鬱憤を大量殺人で晴らした加害者の、まさに“オレ様”的な傍若無人さは、非難されながらもどことなく社会に受け入れられていく。ある種の“英雄(ヒーロー)”として。

この一週間、静岡で3歳の娘を暴行して殺害した22歳の母親が逮捕され(9月28日)、翌日(29日)には、神奈川で小6の息子を殺した40歳の母親が逮捕された。どちらにも夫がいたが、いずれも犯行時に夫は外出中だった。一瞬でもわが子の死を願い、それを叶えてしまった母親と、その同じ時間、趣味の釣りに出かけていた父親では、“生活”を同じくしながらも、まるで違う“生きかた”であったのだろう。母親である彼女たちの“世界”には、目の前の子ども以外に何が映っていたのか。父親である夫たちは、その“世界”を共有してあげられたのだろうか。母親たるオンナたちは、子殺しによって、決して“英雄”になることはない。

個室ビデオ店で夜を明かすことの危険性よりも、母親が家族と自宅で過ごすことのほうが、よほど危険な状況なのだ。個室ビデオ店の防災システムだけではなく、家庭内で母親が追いつめられない社会システムのほうこそ、火急の課題である。


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[2008/11/08]
ガサ29 たしかにひどい事件だが
[2008/10/17]
ガサ28「性犯罪者の去勢」
[2008/10/04]
ガサ27 「殺すオンナ・殺すオトコ」
[2008/09/24]
ガサ26「信頼と行動」
[2008/08/29]
ガサ25 「セクハラCM」
[2008/08/10]
ガサ24 オンナ道
[2008/07/01]
ガサ23 レイプを語る声
[2008/06/13]
ガサ22 男の犯罪
[2008/05/30]
ガサ21 箱入り息子
[2008/05/16]
ガサ20 顔
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