●[第17回目]“男並み”に稼げるようになったら……

「できちゃった婚」ならまだしも「婚せず出産」となったら、きっとウチの親は戸惑うだろうなぁ・・・。2年ほど前、そんなことを懸念して、今後の出産計画を母親に話したことがあった。実際に「婚せず出産」をした私の友人は「金輪際、我が家の敷居をまたぐな!」と、親子の縁を切られてしまったという。それならば私は先回りして、「婚せず出産」の妄想と野望を母親の耳元でしつこく囁き続けよう。そうすればきっと、母親の「先入観」も麻痺してくるに違いない――と、考えたのである。

「あのさ、私、あと4人くらい子どもがほしいんだー。だけど今の婚姻制度が変わらない限り、結婚なんてしたくない。だから私、結婚しないで子ども産むからネ」
「なーにバカなこと言ってんのよ、まだ離婚だってしてないっていうのに」
「でもさ、いずれは離婚できるときがくるでしょ。それからの話だよ。だから、そのときがきたら、ビックリしたり反対したりしないでネ」

最初のうちは話を軽く受け流していた母だったが、私があまりにも熱く、真剣に、しかもしつこく語るものだから、次第に目を三角形にして怒り始めたのだった。
「そんなことは、男並みの収入を得られるようになってから言いなさいっ!!」
母は声を荒げ、真剣な眼差しでこう言った。しかし、その間の抜けた発言に、私は思わず吹き出してしまった。

「ぶっ! 男並みの収入って、なーにそれー? “男並み”っていったって、いろんな収入の男がいるでしょ? いまや、カクサシャカイなんだからさー。で、お母さんの言う“男並み”って、具体的にはいくらくらいなの?」
「う〜ん、そうねえ……」
母はしばらく黙って、素直に考え込んでいた。
「そうね、50万よ、50万。月50万円!」
「えーっ! “男並み”の収入って、月にたったの50万でいいの? あはははははっ」
私が茶化すと、母の目はまた三角形に戻った。
「笑ってるけどアナタ、月50万なんて、稼げないでしょう?」

このときの私の月収は、せいぜい25〜35万程度。だけどなんとなく、このまま仕事を続けていけば、いずれ月50万くらいにはなるだろう、という感触があった。といっても、なんの根拠も確信もなかったのだけれど……。
「今は稼いでないけど、月50万くらいなら、もうすぐ稼げるようになるって! そのくらいならヨユーヨユー!」
そんな私の軽い態度に、母はますます不安を覚えたようで、ピシャリと言い放った。
「それじゃ、月50万稼いでみなさい。稼げるようになるまでは、そんなバカな話、一切しないでちょーだい!」
「ハイハーイ。それじゃ、稼げるようになったら、またその話するからネ!」
 母は「ハァ……」と大きくため息をついたきり、もうそれ以上は何も言わなかった。

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かくして、その1年後。私は母の言う“男並み”の収入を得られるようになった。化粧品メーカーのギャラが月45万。そのほか週刊誌など単発の仕事のギャラが月25〜30万。ついでに夫からも毎月、生活費として20万が振り込まれてくる。
しかし私は、残高照会をするたびにゾッとしていた。銀行の口座がこんなにホクホクしていると、私はなにか悪いことでもしているんじゃないか、という気になってくる。いまだかつてお金を貯めた試しはないし、銀行口座にお金が余っているという状態も経験したことがない。つまり、口座にお金が余っていると、とてつもなく不安を感じてしまうのである。

そこで、ひたすらお金を使いまくった。車を買って、洋服を買って、それからおいしいものを食べて……。以前はコトリンを赤ちょうちんに連れまわし、焼き鳥を食べさせていたけれど、この頃はコトリンをすし屋へ連れて行き、母子2人でカウンターに座って、にぎりを注文させたりしていた。住み込みのナニー・マイマイとの3人暮らしを始めたのは、この頃だった。新居の家賃は、駐車場込みで23万5千円。よかった……。これでだいぶ、銀行の口座からお金が消えて飛んでゆく。

「マイマイ、とりあえず1年契約のナニーということでどうだろう? 私、1年後は何してるか分からないし、今の収入が続いているかどうかも分からない。だから、期間限定の生活共同体ってことでお願いしたいんだ」
こう断ってから、細かい契約内容を決めていった。
「コトリンのお迎えは17時までに。それからごはんを作って、18時くらいには食べさせる。そのあとお風呂に入れて、20時半か21時までには寝かしつけ。で、眠ったあとも、基本的には朝まで家にいてほしい。そして朝はごはんを作って、保育園に送り出すサポートをするまでがコトリンに関するお仕事。それ以外には洗濯と、キッチンまわりと、買い物をお願いしたいんだ」
 
お給料は月に12万円。それとは別に部屋を提供して、光熱費や食費など生活にかかる費用は私がすべて負担することにした。この条件でプロを雇うことはできないけれど、22歳の女の子にしてみたら割のいい仕事ではないかと思う(けど、どうだろう?)。コトリンが寝た後は、朝まで部屋で自由にしていられるし、洗濯とキッチンの片付けさえ済ませれば夕方の17時まで遊ぶなり、バイトするなり好きにしていられる。ただ、まったく夜遊びできないのもかわいそうなので、マイマイが遊びに行きたいときには私が早めに帰るようにする、ということに決めた。

3人の暮らしを始めてから半年ほど経ったある日の夜。新宿のオフィスに1人残って仕事をしていると、マイマイからケータイにメールが入った。
「相談したいことがあります。今日、帰りは遅いですか?」

えっ、相談?!
なんだろなんだろ、相談って。まさか、ナニーを辞めたいとか? やっぱり私があまりにも片付けをせず、いつも部屋中が汚いから愛想を尽かしたとか?? それとも何か、いい仕事が見つかったのかも。どちらにしても私は、マイマイを引き止めることはできない。
「相談? それじゃ、今すぐ帰るね〜」
気になりつつもサラリとした返信メールを出して、私はパソコンの電源を切り、オフィスの電気を消して、自宅へと急いだ。

【今回、イラストはお休みです。ゴメンナサイ!】


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[第20回目]コトリンの変化
[2008/04/07]
[第19回目]“シッター”兼“家政夫”のハル君
[2008/03/05]
[第18回目]ナニーからの相談ごと
[2008/02/06]
[第17回目]“男並み”に稼げるようになったら……
[2008/01/01]
はたいゆみからアンティルさんへ
[2007/12/06]
[第16回目]離婚への長い道のり
[2007/11/07]
[第15回目]離婚記念日〜そして出産計画
[2007/10/16]
[第14回目]シッターさんは求職中。
[2007/10/12]
[第13回目]冷蔵庫の中の変貌ぶり
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