マイマイのいない1ヵ月間、マイマイの友達であるハル君に“シッター”兼“家政夫”をお願いすることになった。
「それじゃ、お疲れさま。ありがとね。来週もヨロシク」
初日にハル君が帰ったあと、すかさずコトリンが言った。
「これからもずっとハル君がいい。マイマイよりやさしいし、遊んでくれるもん。お料理もおしえてくれるしね」
「へぇー、どんな料理?」
「キュウリを斜めに切るの。そうすると塩がくっつきやすくなるから、おいしいんだよ。今度作ってあげるね!」
遊園地のアルバイトですらクビになったというのを聞いて心配していたけれど、案外“シッター業”と“家政夫業”は、マイマイより向いているのかもしれない。そんなふうにハル君のことを見直した矢先の翌朝――。
部屋のどこを探してもコトリンの通園バッグが見当たらない。コトリンに聞いても、
「ハル君が自転車のかごに入れたのは見たけど、そのあとは分かんない」
という。どこに置いたのかハル君に聞きたくても、ハル君のケータイは支払いが滞っているため、回線を止められているのだ(ちなみに家の電気も止められているので、ここ数日はローソクの明かりで生活しているとのことだった)。その日の午後、
「駅の近くに落ちていたというバッグが届いてますよ」
と、駅の遺失物預かり所から連絡があった。
「えぇーっ? マジっスか? すいませんっ!!」
頭をかいてペコペコ謝るハル君に、私は家のカギを渡しながら言った。
「これはゼッタイになくさないでね! あ〜、でもやっぱ心配だなぁ……」
「いやっ、大丈夫っス! 今度は気を付けますんで!」
そういってジーンズのポケットにカギを入れようとしたハル君が、両ポケットに手を突っ込みながら呟いた。
「あれ、マジ……? 両方とも穴開いてんじゃん! おぉ、危ねー!」
「・・・・・・」
「あ、いや、カギは財布ン中に入れていきますんで、大丈夫っスよ! アハハハハ!」
そう言って笑いながら、ハル君は買い物に出かけていった。
私が仕事に出かけるため靴を履いていると、ハル君が体をふらつかせながら帰ってきた。
「オレ……、もう人間やめたいっス……」
顔をこわばらせながら、情けない声を出す。
「へ? 何、どしたの??」
「レジで金払おうとしたら、サイフが見当たらなくて……」
「えーーーっ! まさか……、やっぱりなくしたの?!」
「いや、見付かったんスけど、はたいさんに電話をかけたとき、置き忘れたみたいで……」
「あぁ、『菓子パンとロールパン、コトリンはどっちが好きっスか?』って電話を、わざわざ公衆電話からかけてきたとき?」
「はい……。そこに置き忘れたサイフを、誰かがレジの人に届けてくれたみたいで……。もう、こんな自分がイヤっス!! このままカギを失くしてたら、はたいさんに会わせる顔がなかったっスよ……」
こんな調子なのでどこか憎めないのだが、コトリンを預けている間も心配は尽きず、早めに帰ることを心がけるようにしていた。
すると次第にコトリンが、こんなことを言うようになった。
「このままマイマイが帰ってこなかったらいいのに。だってハル君のときは、ママが早く帰ってくるもん!」
さらにそれから数日経つと、
「ハル君も、もうこないでほしい」
に変わってきた。
「ええっ! どうして?」
「足がクサイ! ズボンもタバコクサイ! ハル君がくるとおうちが臭くなるから、イヤ!」
コトリンが真剣な顔をして、涙ながらに訴えてくるのであった。