ハル君には率直にコトリンのクレームを告げ、お迎えの前に必ず足を洗うこと、そしてマイマイのジャージに着替えてもらうことをお願いした。それで足のニオイとズボンのニオイの件は解決したようだったが、次にコトリンが激しい口調で訴えるようになったのが、
「マイマイはイジワル、帰ってきてほしくない! いつもママがお迎えにきてほしい!」
だった。こんな言い方は、それまでしたことがなかったので驚いた。
「でもそうなると、ごはんも片付けも洗濯も保育園の支度も、全部ママがやらなきゃならない。そんなにたくさんママにできるかなあ? そのためには、お仕事を減らさなきゃ。そしたらお金がなくなって、ビンボーになっちゃうけど……」
「だいじょうぶ! ごはんはコトリンが作る! 片付けも洗濯もやるし、保育園の支度も自分でできるよ!」
「えー、まだ4歳なのに?」
「うん、もうコトリンはおねえさんだからね!」
そんな話になり、コトリンは俄然張り切り始めた。
「ごはんはコトリンが作るから、ママはなんにもしなくていいからね!」
そう言ってキュウリとニンジンを切り、塩をまぶしてお皿に盛ってくれた。私はウサギになった気分で、キュウリとニンジンをポリポリ食べる。かなりしょっぱかったので、コトリンの見ていない隙にティッシュで塩を拭い取った。
「コトリンが作ったキュウリとニンジン、おいしいね。お礼に、ママも何か作っていいかなぁ?」
「うん、いいよ。おねがいね!」
コトリンに無断で勝手なことをすると、ものすごく怒られそうなので、私は許可を得てから夕食の準備を始めた。
食事が終わるとコトリンは無言で食器を洗い始め、フキンで拭いて戸棚にしまってくれた。しかし豪快に洗うばかりに、飛び散った水が床に水たまりを作っている。それでもコトリンは満足そうに笑っているので、私はコトリンの見ていないときにこっそり床を拭いた。
そして、洗濯物を私がたたんでいると、
「私が全部やるから、ママはやらなくていいよ!」
「ありがと。それじゃママもお手伝いするよ。そのほうが早いんじゃない?」
「ダメッ! さわらないで!」
コトリンが怒って怖いので、全部一人でたたんでもらうことにした。
そして夜中の4時。
コトリンを寝かしつけたあとに始めた仕事に区切りを付け、お風呂に入っていると、洗面所のほうからガタッと物音がした。こんなときはいつも、
「ママー!」
なんて泣きながらお風呂の扉を開けてくるのだが、この日は一向に顔を見せない。その代わり、バシャバシャと水のはねる音が聞こえてくる。しばらくすると蛇口をキュッと締める音がして、コトリンは静かに洗面所を出ていった。
-----え……、こんな夜中に何やってんだろ???
そっとお風呂を出てコトリンの部屋を覗くと、そこには保育園の制服に着替えたコトリンが、ベッドにうつ伏せで倒れ込んでいた。おそらく、
「朝起きたら、保育園の支度を自分でやる!」
と念じながら眠ったばかりに夜中の4時に目を覚まし、寝ぼけながらも顔を洗って制服に着替えたのだろう。いざ身支度が済んだら力尽き、バタンと倒れて眠り込んだのである。
そんな光景に思わずブッと噴き出しつつも、4歳の子どもって侮れない! と、本気で思った。コトリンは自分の要求・要望を私にただ突きつけるだけでなく、まずは自分自身が変わることで現状を変えようとしているのだ。そして今までコトリンは、私のことを気遣って文句も言わず、我慢してたんだーーーそう思ったら、急にチクチクと胸が痛み始めたのであった。