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胎児の「生命」は大事だが女性の「命」は自己責任?!
17.11.10 by 山崎舞野



 安倍総理とトランプ大統領のいちゃいちゃ映像ばかりが流れ続けたこの一週間。もうテレビをつけるのもげんなり、って感じの人も多かったのではないかとお察しします。そもそも「国難」「国難」て言ってたくせに、ゴルフだの鯉にえさやりだのの映像ばかり流れてくるのもどうなのかと思うし……。

 そもそも今回の選挙で、安倍総理は「北朝鮮の脅威と少子高齢化」が今の日本にとっての二大国難だと宣言し解散総選挙を強行したはずだ。核兵器だのミサイルだの物騒な話と少子高齢化が「国難」として並び称されること自体にも激しく違和感があるけれど、北朝鮮問題についてはここでは深く触れない。しかしもうひとつの「国難」について、選挙前のことが早くも忘れ去られそうな今、もう一度触れておきたいと思う。

 昨年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」で、安倍総理は「今後進む少子高齢化に当たり「日本が、少子高齢化に死にもの狂いで取り組んでいかないかぎり、日本への持続的投資は期待できない」と述べている。子どもが生まれないと日本が海外から投資価値なしって思われちゃうよ!⇒そこかよ?! というのもだけど、「死にものぐるいで少子化に取り組む」という言い回しも、本当にこの人の言語的うすっぺらさを如実に言い表している感じでさらにげんなりする。そのわりに、掲げていた「幼児教育無償化」は認可外保育園はあっさり除外。認可外の保育園にすら入れず仕事にも復帰できない待機児童問題が深刻だったからこその「日本死ね」状態だったのに、認可に入れないどころか無償化対象からも外されて怒り心頭状態の人も多いのでは。

 2015年、政府はアベノミクス「第二ステージ」の「新・三本の矢」のひとつとして「希望出生率1.8」を掲げ、加藤勝信一億総括役担当大臣は「少子化が進む中で出生率を一生懸命下支えしてきたのは伝統的家族」であり、「潜在的出生力」が最も高いのは、「伝統的拡大家族」であると明言している。「出生力」ってスゴイ言葉だな、って思うけど、近年「伝統的大家族」の復権を謳うような物言いが増えてきているのは裏にこういう発想があるからなのではないかと思う。

 今月末、11月第3日曜日は「家族の日」で、その前後各1週間は「家族の週間」と定められている。これもそもそもは2008年に決定した少子化対策会議の決定によるものだった。極端なことを言えば、国にとって「家族」とはいわば「子ども生産工場」であるということなんだろう。内閣府の「家族の日・家族の週間」HPを見ると、家族の大切さと共に生命の大切さ、も謳われている。「家族を大切にしよう」「生命を大事にしよう」の何が悪いの? 当然のことでしょう? ほとんどの人はそう思うのだろうけれど、問題は、国が「それ」を言い出した時に何が起こるか? ということの恐しさ、過去の歴史の教訓を、今また私たちがすっかり忘れてしまってるのではないかということだ。

 例えば今年6月、石川県加賀市で「お腹の赤ちゃんを大切にする加賀市生命尊重の日」が制定された。ここでいう「生命」とはつまり「胎児の生命」であり、中絶をなくして女の人にもっと子どもを産んでもらおうという話に他ならない。繰り返すけど、個人や民間の団体がそれを言うのはともかく地方自治体が条例として制定するということは非常に危ういこと。戦前の日本で、国が産めよ増やせよ政策を邁進していた時、女性が中絶をすると罪に問われた「堕胎罪」は、戦後70年たった今の日本でも未だ廃止されていないというのに……。実際には母体保護法によって女性の中絶の権利はかろうじて守られているが、今再びこの堕胎罪すら復活しかねない勢いだ。

 加賀市の条例の流れを受けて、東京、杉並区議の松浦芳子氏が9月の区議会で、杉並区でも同様の条例を促す発言をしている。当日の答弁を確認すると、その日の松浦区議の質問は以下の三点。ひとつは「道徳の教科化」について(「人間力」の低下を憂い、国旗や国歌、郷土を愛する気持ちを育てるという主張)、二つ目が「生命尊重」(自殺者は年間3万人だが中絶で亡くなる赤ちゃんは18万人)、そして三つ目が北朝鮮の脅威に対する区民の安全保障(核シェルターなど)だ。なんだかどこかで見た論理展開……。

 杉並区が今後どのような動きをするのかはわからないが、加賀市も含めて、地方自治体レベルで少しずつこのような動きが広まっていく末に、憲法9条改悪と同時に懸念されている24条の改悪がつながっていくのではないだろうか。(詳細は『24条変えさせない!』HPをぜひ)国と国民を一体化するように、家父長の下に女性、子どもという個人を一体化して戦争へなだれ込んだ戦前。その構造を支えた「家制度」を解体し、家族という共同体ではなく、その中の一人の個人に独立と平等を保障した24条を、再び変えようとする勢力、この流れに関して、敏感にならなければいけないと強く思う。

 さらに拍車をかけた物言いをするところも増えている。内閣府の少子化対策担当部局などに政策提言を行っているという「日本賢人会議所」という団体(故・橋本龍太郎の妻、橋本久美子氏代表)などは、「少子化対策だけではなくより積極的な政策による「多子化」の実現」のためにさまざまな講演会や勉強会を企画している、とのことだが、その提案書には「胎児の救済と生命尊重」という項目があり、そこにははっきりと「母体保護法の見直し」を提言している。つまり現状女性の中絶を「合法」にしている母体保護法を見直していく。つまり、簡単には中絶できないようにしていきたいということを暗に言っている。

 胎児の「生命」には想像力豊かだけれど、貧困や格差や望まぬ妊娠や身近な人間からの暴力が原因で失われていく「命」にはとことん鈍感。産みたくない、産む予定はまだない女性に「はよ産めはよ産め」言って既に産んだ女性には「自己責任でよろしく」。中絶させなきゃ出生率上がるよね? と目の前の「数字」だけ見て実情は見ない。ほんとうにこんなんばっかりでそりゃ「日本死ね」って思いますわな。

 ともかく、道徳教育と生命尊重、そして外国の脅威! この3点セットの使い回しには要注意なのだなということはよーくわかった。こうしてる間にも、地方自治体で、地元の公民館やPTAで。身近なところからこの動きは確実に広まっている気がする。さらっと読むだけなら一見「良いこと」を言っているかのように見える部分もあるから簡単に全否定もできないし、それがなおさら怖い。少なくともわたしはそういった物言いに関しては、こう返すところから初めています。「でも、そんなこと国に決められたくないよね〜」、と。

プロフィール
山崎舞野
山崎舞野(やまざき・まいの)
フリーランスライター。広く浅く多方面に首を突っこむ性質だが、広く浅くだからこそ共通する構造が見えてくることがあると痛感する日々。