山崎舞野
10月10日 福島で見えた、バーチャル日本とリアル日本
2017.10.12
by 山崎舞野
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 正直なことを言うと、この2週間ほど、テレビはもちろん、ネットやSNSでも、選挙ネタを見るのがイヤで情報をシャットアウトしていた。正気を保てる自信がなかったからだ。

 モリ・カケ問題なし崩し解散、現職都知事が都議選後最初の都議会定例会そっちのけで国政新党結成。ついこないだ代表選挙で選ばれたばかりの党首はいち抜けたと鞍替え、党はあっという間に解体。もうなんか、怒るの通り越して笑うしかない状態だ。突然降ってきた「またしても選挙」の衝撃に友人たちのSNSも浮き足だっている。政党政治の「空中戦」に我も我もと参戦し、みんながみんな評論家状態。ここで巻き込まれちゃダメ! ちゃんと正気を保っておかないと、完全に気力も体力も奪われてしまう! Jアラートならぬマイアラート鳴りまくりのこの2週間だった。

 そして迎えた10月10日の総選挙公示日。安倍総理の「第一声」はまさかの福島市から始まった。福島第一区候補者の応援演説だ。黄金色に実った稲穂をバックに開口一番総理が語るは、ここ福島が、2014年の政権奪還総選挙の始まりの地であるということ。そして再び同じ場所で初声を挙げて、今回の選挙も絶対勝つぞ! というアピールであった。

 わざわざ福島まで来て原発の「ゲ」の字も言わない。被災者の「ヒ」の字も言わない。ひたすら語るは北朝鮮問題! ミサイルと核の脅威!(ノーベル平和賞どうしたよ) そしてオリンピック! なんなのこの人。彼の中にある日本はもうバーチャルリアリティの世界。目にいれたくないものは目にはいらない。ウソでも言えば現実になる、そんな世界で何年も生きてると、リアル現場にいても目の前のことが目に入らなくなるのかと恐ろしくなった。

 しかし同じ日の午後、「現実の」福島では非常に重要な、そして画期的な出来事があった。東京電力福島第一原発事故に対する住民訴訟で、国と東電の責任を認める判決が下ったのだ。福島県の全市町村や隣接する宮城県、茨城県、栃木県の住民約3800人を原告とする裁判は、原発訴訟としては最大級のもの。金額はまだまだ不十分とはいえ、これまで国が定めていた地域よりも広い範囲が賠償地域として認められた。これは原発によって生活や仕事など多くのものを失った人たちの精神的被害も賠償の対象と認めるものだ。

 また、今回特に画期的だったのは、国と東電が、津波を原因とする原発事故の可能性を予見できたにも関わらず対策を怠ったことの責任が問われたことだ。東電と国がずっと言ってきた「想定外の事故だからしょうがなかった」論を真っ向から否定する判決が出たのだ。当然、動かぬ証拠とデータもある。この事実は東電幹部三名に対する刑事訴訟でも指摘されており、こちらの裁判結果にも大きな影響を与えそうだ。

※詳しくは、この問題を何年も詳しく追い続けてきたジャーナリストの添田孝史氏の著作(『原発と大津波 警告を葬った人々』岩波新書)やtwitter(@sayawudon)を参照してみてくださいね!

 国民に国政を問う総選挙の第一声で、まがりなりにも福島の地に立った現総理大臣が、その存在にすら触れようとしなかった福島第一原発事故に対し、法ははっきりと国に責任があると判決を出した。本当に大きな、重要な判決だったと思う。ずっと長く裁判を闘ってきた、原告のみなさんの喜びの表情を見て、わたしもこの2週間の悶々から目が覚めた。やる気になった。しかしこの重大な「現実」は、バーチャル日本に生きる安倍さんには届いていたのだろうか。はなはだ疑問である。

 まあいいさ。届いてないなら、届かせてやる! そのための選挙、そのための国民主権なのだから。

 悔しいけれど、国民主権は選挙の時しか行使できない。原発事故のことだけじゃなく、福祉の問題、消費税の問題、教育無償化、最低賃金、わたしたちが候補者に直接問うべきことは本当にいっぱいある。選挙期間じゃなくちゃ聞きゃしない輩もいっぱいいる。だからこそ、この2週間、わたしたちは地に足をつけて、自分の選挙区の候補をきっちり査定して一票を投じなくてはいけない。政党政治の空中戦に煽られて、SNSで即席政治評論ぶってる場合じゃないのである。

 と、ここまで書いていたところで、沖縄・東村で米軍ヘリが集落に墜落のニュースが届いて絶句した。米軍ヘリパット建設に対する根気強い反対運動が続いていた東村高江。まさにその場所で! 日本の遙か上空を通過しただけの北朝鮮のミサイルにはJアラート鳴らしまくるのに、沖縄の集落にヘリ墜落には「大変遺憾だ」でひとまず済ます総理がテレビに映る。彼の考えるバーチャル日本には、沖縄は入っているのだろうか。在日外国人は暮らしているのだろうか。子どもを産まない女は存在しているのだろうか。病気で働けなくなった人は生きているんだろうか。

 バーチャル総理のバーチャル日本劇場はいい加減これで終わりにさせたい。そのための選挙なんだ、って思ったら、やっと現実を直視する勇気が出てきました。投票日まであと10日。みんな、選挙、行きましょうね!

プロフィール
山崎舞野
山崎舞野(やまざき・まいの)
フリーランスライター。広く浅く多方面に首を突っこむ性質だが、広く浅くだからこそ共通する構造が見えてくることがあると痛感する日々。

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