第40回 「春の大感動SP ヤンキー、母校へ帰る」



すごいタイトルだ。「ヤンキー、母校へ帰る」。こんなタイトルの番組が改変期の二時間スペシャルとして放送されたことを、あたしは多分3年くらい忘れないだろう。

しかも、司会は島田紳介と加藤晴彦。完璧だ。100%ヤンキーな二時間。芸能界というものが元ヤンの集まりだということはわかっていたが、そんな人たちが、ヤンキー臭しないように、しないようにと作り上げて行くものが、テレビ番組だと思っていた。だって、一応ヤンキーってかっこ悪いものだとされているから。それなのに。ああそれなのに。全開バリバリ。

舞台は、北海道のとある私立高校。ここは、全国から中退者を誰でも受け入れること、また、生徒数十人が大麻を吸い、逮捕されたことで有名になった学校である。番組は、ある一人の教師とあらゆる「問題児」とのやりとりを、ドキュメント形式で綴ってゆく。この教師も実は、この高校の卒業生。いわゆる「札付きのワル」だったそうだ。しかし、バイク事故に遭い、内臓破裂で生死の境をさまよった時、担任教師(ちなみに女性)が、学校を休んで彼の病室につきっきりでいたのだという。この出来事以来、彼は心を入れ替え、大学を卒業し、教師になって母校に帰ってきた。この教師が、熱い。そして、生徒にもそれを強要する。「もっと熱くなろーぜ!」と。ああ、うっとうしい。しかし、これがヤンキーたちの心には響くらしい。

あたしは埼玉県の片隅、ヤンキー生産地で育った。女子更衣室の壁には「ヤクザさんとFREND(原文ママ)」と落書きされていた。運動会には、クラスごとに大看板をかかげるのが決まりで、それはたいてい人気マンガを模写したものだった。題材は多数決で決められるのだが、3年生の時は、女子の圧倒的な支持で「ホットロード」になった。下絵を描かされるのは、あたし。「ホットロード」、友達が「泣いちゃったよ〜」というから読んでみたのに、一個も共感できなかったあたしが。そして、運動会当日には卒業生がバイクにまたがりやってきて、「パラリラリラリラリラリラ〜♪」と、ホーンで「ゴッドファーザーのテーマ」を奏でながら校舎の周囲をまわっていた。

そんな地域なので、同級生の結婚はやたらと早い。17才で第一子を産み、結婚したものの即離婚。別の男との間に第二子を産むも、こいつともまた離婚。なんてのはザラだ。また、結婚生活は続いていても、ダンナが働かず、子育てもロクにせず、妻はコンビニで早朝からバイトし、ストレスで片方の耳が聞こえないのに、「やっぱり、男の人に子どもあやしてって頼んでも、ダメなのかね〜」などと愚痴をこぼす。そのくせ、「恵理ちゃんは、結婚して、子ども産もうとか思わないの?」と、聞いてくる。

結婚離婚を繰り返す女というのは、「次こそは」と思いながら、また前の男と同じように暴力を振るわれたりする。彼女たちに「学習能力がない」「見る目がない」などと言う人もいるが、そうではない。彼女たちは、そういう男が好きなだけ。ヤンキーの女の子たちは、「男らしい」男が好きだ(元ヤンとは限りません)。それが社会から植え付けられた価値観だとしても、大人になってから男の趣味を変えることは難しいだろう。そして、自分が専業主婦に向いているか向いていないかなど考えもせずに、苦手な料理を作ったりするのだ。

だけど、学校にも、社会にも居場所のない彼女たちが、「結婚」というものに安らぎを求めることを、あたしたちが責められるだろうか。「バカ男に愛してるとか言われて、真に受けてんじゃねーぞ」なんて、言ってすむ問題じゃない。こういうのを、対抗同一性(社会的には少数者、辺縁性にある人々が多数者や体制に対して、自らの生き方に積極的な価値を認め、主張する同一性のこと。小倉千加子「松田聖子論」より)と言うらしいが、カラクリがわかった所で、だから何?って話である。

「フェミに片思い」の澤野さんではないけど、彼女たちに「フェミニズム」なんて話を降ったところで、共感はしてもらえない。「バイブガールズ」のスタッフが、「事実婚をしている人たちが男と対等ぶっているけど、あれはどうなのか」なんて話をしているのを聞いても、実はピンと来ない所もあった。だって、あたしの回りには、「バリキャリ」も「AERA」な女もいないんだもの。

番組は卒業式のシーンで終わる。いろいろトラブルもあったが、卒業式では泣きながら「更生させてくれた」教師に感謝するヤンキーたち。卒業式に出なかったのは、引きこもり気味の地味な男だけだった。エンディングで号泣する司会の二人。島田紳介は言う。「彼らね、この学校に通ってたってこと、一生子どもたちに自慢できるよ。」なぜ、そこまでして高校を卒業することが偉いのかなんて疑問は、彼らには複雑すぎる。

「五つ子ちゃん」のスペシャル番組を見た。彼らは、21歳になっていた。男3人にはそれぞれ自分の部屋が与えられていたが、女2人は同室だった。次男と3男は大学に通っていたが、それ以外の子どもたちは働いていた。長女も働いているのに、彼女は家族全員分のご飯を作っていた。「お母さんより上手」などと、おだてられながら。子どもたちの母親は、産後の後遺症に未だ苦しんでいるらしいが、それについて、詳しいことは何も触れられない。

「大家族スペシャル」も、一本だけ見た。あたしの好きな前出先生(主婦感覚とか言われちゃうリフォームのプロ)が、大家族の家をリフォームするという企画だったからだ。そこのお母さんは料理が嫌いで、いつもお父さんが料理をしている。お母さんは、「広くてきれいな台所ならば、料理をする」と言う。番組の最後は、生放送で、お母さんがきれいな台所でハンバーグを作る映像だった。

以前にも書いたかもしれないけど、世の中はヤンキーで回ってる。メルヘンちゃんもラッパーもコギャル(死語だ)も、みんな趣味は違うがそのメンタリティはヤンキーだと思う。一見普通の社会人に見える男が、なんか今さらな正論を偉そうに語るなと思ったら(たとえば外国の金持ちはブランド品持たないとか)、愛読書は「頭文字D」だったり。東京以外の日本はみんな地方で、貧乏で、ヤンキーだ。学歴も地位もある大学教授が何を言った所で、ヤンキーの前で、フェミニズムは無力だ。

ヤンキー達は、自分達がマイノリティであるという、それこそが誇りだったりするのだろうが、でも、実はあんたたちの方がマジョリティだよ。とはいえ、育った環境のせいか、あたしはコジャレた町が苦手。足立区、北区(関東以外の方に説明すると、どちらも貧乏人の多い、ヤンキー生産地)の方が、遥かに心安らぐ。どんなに今後成功することがあっても、代官山には住みたくない。といっても、ヤンキーに支持されるマンガを描けなければ売れないわけだから、住みたくても住めないだろうけど。いろいろ絶望しつつ、次回に続く。


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