フェミに片思い
プロフィール

第08回 予定外妊娠

 その日は雨が降っていました。小学生達の若い汗の匂いが立ち込める教室で。授業参観の後の、帰りのHRを邪魔しないよう、隅にかたまる親達の中に、華奢なカラダに不似合いな、大きくせり出すお腹を庇うように両手をあてた美しい妊婦が一人、佇んでおりました。

美しい妊婦。それは、私の憧れでした。(“美しい”はムリでも“清潔”な妊婦が目標だった・・・)重度のつわりで化粧はおろか、まともな洗顔や歯磨きすら困難で、入院していた産婦人科の洗面台にあったポプリの香りにさえ嘔吐する小汚い妊婦生活を送った私にとっては奇跡のような光景。こんなきれいなナリして、なおかつ胎動を楽しんだり、二人の子供の授業参観にはしごで出られるなんて、すごいわ。

HRの後に行なわれる学級懇談が始まるまでのわずかの間に取り交わされる井戸端会議になんとなく参加しながら、皆がちらちらと彼女のお腹に視線を送っています。
ついに、一人が口火を切り、たちまち彼女が話題の中心となりました。
「ねぇ、予定日はいつなの?」「(妊娠してたの)知らなかった〜。おめでとう!」「男の子か女の子か、もう分かってるの?」  上品な彼女は丁寧にマスカラを塗りこめた睫をアンニュイに伏せながら、「予定外だから、随分と悩んだの。・・・でもね、出来ちゃうと産みたくて。(出産を)決心したの」と、はにかみながらも上品におっしゃいました。

・・・すごい。こんな、“○年△組のお母さん集団”という、たいして親しくもない私などが混入している不特定多数な場において堂々と『避妊に失敗したけど産む』とのたまうなんて。すごい度胸だ。勇気あるなぁ。予定外であるということは意図的に妊娠しようとしたわけではなく、したがって避妊に失敗した、ということで。(彼女の三番目の子供は仏教系の幼稚園に通っているので、宗教上の理由があるとも思えません)コンドーム、もしくはIUDが欠損していたのかしら。それともピルをのみ忘れたか。いやいや、実は彼女のダンナが彼女にナイショで「ウヒヒヒ、もう一人☆」と勝手に計画していて、排卵日にさんざん前戯でじらされ「ああ、もうどうにでもして状態」にさせられたあげく、「今夜はナマでもイイだろう・・・?」と耳元に吹き込まれてワケも分からずに頷いてしまったのかしら。それってレイプじゃないのかな。私だったら許せない。

 過去に自分が冷や汗をかいた経験と彼女のせり出したお腹が相乗効果となって妄想が逞しくなっていきます。誰も「そっかー、失敗しちゃったんだねー」「避妊、ちゃんとやってなかったの?」とは突っ込まない。というか、突っ込めない。出産を決意した妊娠は完全。妊娠は正義。妊娠は幸せの具現化。飛び交うのは『おめでとう』『やっぱりそう(←孕んだら、産みたい。ということ)だよねぇ、わかるわ〜』などの言葉。皆、本気で言ってるんだとすれば、かなりコワい。

殆どの日本の産婦人科では出産後に『明るい家族計画』と称した避妊についてのビデオを経産婦に見せているはず(ですよね?)だから、二人目以降の妊娠に限って言えば“膣外射精は避妊法だと思っていた”などという言い訳はありえない。彼女のお腹にいるベビーは、彼女にとって4人目。これまたすごい。

避妊に完全はないから、失敗することだってあるだろうし、その為の医療行為として中絶がある。生理の出血にナプキンやタンポンをあてがうのと同じ原理なのに、それをやらなかったということは、彼女はよっぽど赤ちゃんが好きなんだろうか。それとももしかして、もしかしたら私が穿ったものの考え方をしているだけなんだろうか。彼女はいつでも「ベイビー、カモン」な状態だけれど排卵日前後にセックスしていたことを失念していた、それで“予定外”だったのだと、そういいたかっただけなのかもしれない。私以外の○年△組のお母さん達もそういう意味で“予定外”という言葉を受け取っていて、『ヒニンニシッパイシタノネ』あるいは『サンニンモウンドイテ、ロクスッポヒニンモセズマグワットンノカ、オノレハ』なんていう汚れた妄想に浸った低俗なすけべぇは私一人なのかもしれない。

妄想ついでにもうひとつ。次の予定外妊娠がやってきたとき、彼女はどうするんでしょうね。また産むのかな。もし中絶したら、きっと夫婦で水子供養とか行って、そこでもアンニュイに佇むんだろうな、彼女。きれいなひとだから、きっと絵になるに違いない。

保守的なおっさん達が「最近の若いオンナの性モラルが低下した」「それにフェミが一枚かんでいる」みたいなことを言ってるけれど、「なんか違うんじゃないの」と言いたい。『セックスすれば、孕むカラダを持っている』ということに人一倍敏感なのがフェミのはず。 フェミから遠い『婚姻制度の枠の中』から吠えても説得力に欠けるだろうとは思うんだけど、北原さんのコラムに登場する、“避妊なしのセックスで燃える”とおっしゃる女性の性的ファンタジーや、私と学級懇談の席を共にした『予定外妊娠だが出産を決意した美しくアンニュイな妊婦』の「孕んだら、産みたいものでしょう?」といういかにも本能的(もう人間の本能なんて壊れてるのに)な考え方は、フェミから遠いところにあるんだよ、分かってんの?と言いたい。そりゃあ、『産め』ば、保守的おっさんにとってはオッケーオッケー、終わり良ければすべてよし、なんだろうけど。妊娠を放置した挙句出てくるのはニンゲンだよ? 愛玩動物じゃないのよ。可愛い赤ちゃん期はほんの数年なのよ。成人するまで20年もかかるのよ?

『できちゃった婚』が確信犯なら、いい。順番なんてどうでもいい。けれど、ロマンチックラブイデオロギーの副産物としての『できちゃった』の中絶件数はきっと、フェミニストの避妊の失敗件数よりはるかに多いはずですぜ、おっさん。・・・とも言いたい。 きっとおっさん達には“ヤリマン”と“避妊しないバカ”を見分ける眼力がないんだろうなぁ、と思いつつ。 『予定外妊娠』について、次回もう少し書きたいと思ってます。ではでは。

INDEX
第12回 [2003/jun/18]
『主婦』って、なに?
第11回 [2003/jun/11]
ボツになった再就職
第10回 [2003/jun/04]
”女の子ジェンダー”のジレンマ
第09回 [2003/may/28]
予定外妊娠・僻地事情
第08回 [2003/may/21]
予定外妊娠
第07回 [2003/may/14]
ミニオヤジ
第06回 [2003/may/07]
パンツ、洗ってる?
第05回 [2003/apr/30]
連休の憂鬱
第04回 [2003/apr/23]
私の「働けイデオロギー」
第03回 [2003/apr/16]
嫌いと言われても
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