当時、私は、事故った後で、車を持っていなかった。使えるのは、公共交通手段とタクシーという、とても情けない状態。今思うと、こんなんでよくも出張セックスサービスなどやり始めたと、我ながらあきれてしまう。が、始めてしまったのだから仕方ない。車を持っていないということは、夜遅くコンコルドまで行ったら、朝まで帰れない。つまり、泊まりでいくしかない。「いきなり、泊まりか?でも、泊まりだと料金を上げないと・・・」英語が堪能ではない中国語訛りのLeeという客相手に、向こうが何を話しているのかもよくわからないまま交渉を続ける。最初の客だから逃したくないという一心だった。
ちゃんと通じているのだろうか? なんだか訳のわからない会話が続く。何を言っているんだろう? 何か持ってきてほしいと言っているようだ。でも何だかわからない。しばらく話すと、Leeが、私にバイブレーターを持ってくるように言っているのがわかった。それならそうと早く言ってくれよって思ったけど、口にうまく出せずにいたようだった。どうやらセックスワーカーを雇うのは初めてのようだ。それなら、ちょうどいい、初めてどうしだ。私がバイブを持っていくというと、Leeは泊まりの料金で納得した。
夕方に家に帰宅。夕飯を食べてから、ふと携帯をみると、何十件もの電話が入っている。すっ、すごい! いきなり、こんなに大勢の客が。これは、幸先いいぞ〜! 片っ端から電話をかけまくる。が、話してみると、実際に予約ができる客は、それほどいない。私が出張サービスのみで、場所を提供していないことがわかると、すぐに電話を切る客。$100以下で私とセックスをしようという、ずうずうしい輩。住んでるところが遠すぎたり、時間が合わなかったり・・・。でも、数名の予約はとりつけた。ラッキー!この時ばかりは、セックスワークなんて意外と楽だと思った。
そうこうしているうちに、出かける時間だ。とにかく、きれいにして出かけなくては。高価な服は持っていない。でも、品のよさで勝負! とばかり、下着からすべてばっちり決めた。化粧も怠りなし。コンドームも持った。これでカンペキ?ううん、ヘア・スタイルが少し気になる。やっぱ、化粧もイマイチ・・・。あれやこれやと直しているうちに、ああ大変! 10時を過ぎてしまった。早くでかけなくては!走ってバス停に向かうも、バスはなかなか来そうにない。仕方なく、タクシーを拾うことにした。タクシーで地下鉄の駅まで約15分。急いでホームへ駆け降りる。10時半。電車の本数はめっきり減っている。なかなかこない。「次にくる電車がコンコルド経由でありますように・・・」やった、コンコルド経由だ。現在、10時40分。ここから、コンコルドまで約45分だ。なんとか間に合う。
地下鉄に乗り込み、席につくとホッとした。が、ホッとしてなんていられない。初仕事である。会ったら最初に何を話そう?ちゃんとセーファーセックス守ってくれるかなあ?守ってくれなかったらどうしよう? どんどん不安になってくる。でも、ここは腹をくくらなくては。よしっ。地下鉄はサンフランシスコ湾の下の長いトンネルを抜け、イーストベイ(東湾)に出た。イーストベイでは、電車は主に地上を走る。湾に広がる夜景が見える。ああ、初仕事だなあ。仕事始めるまで、いろいろ迷ったよなあ。いろんな人に相談して、ようやく決心して・・・。
と感慨にふけっていると、携帯電話がなる。Leeからだ。"Hi! What's going on?"(もしもし、どうしたの)とたずねると、なんと「お得意様が来ているから、店を早く閉めれない。今日は無理だ。また電話する。じゃあ。」「ええっ?何、それ!そんなのあり?!」あっけにとられた。時刻は午後11時をまわったところ。腹が立つというよりも、気が抜けた。が、このまま電車に乗っていても仕方がない。家に帰るしかない。早くしないと、サンフランシスコに戻る電車がなくなってしまう。なんとか、帰りの電車には乗れた。が、バスはもうない。タクシーしかない。だんだん腹が立ってきた。こっちは、さんざんおめかしして、タクシーまで使って、イーストベイまで出かけていったのに、「今日は無理。じゃあ。」何、それ。信じられない。いきなり、赤字だ。
このように約束をしても相手が現れないことを、英語で stood-up と言う。「待ちぼうけ」という意味だ。Lee の場合は、連絡してきたから、厳密にはstood-upとは違うのかもしれないが、そういう細かいことは気にしないことにする。初仕事で、初stood-up。これは、象徴的な出来事だった。というのは、この商売、最初の数カ月は、stood-upとの戦いとなったからである。
失意のうちに帰宅するも、望みはあさっての予約があることだった。最初はダメでも、次回は大丈夫だろう。次回の相手Jason は、とてもソフトな語り口の紳士だった。低めのセクシーな声で「君を喜ばせてあげるから・・・」なんて言う。ああ、しびれる〜。少し人格障害気味のLeeとは大違い。早く、会いたい。早く、会って喜ばせてほしい! お金をもらって、快楽を得るなんて、なんてすばらしい仕事なんだろう、そう真剣に思った。果たしてJason に会うことはできた。が、大変な失態を演じることになる。