私は部屋の掃除をしてお金を稼いだことがある。アメリカでは、日本とはちがい、金持ちや上流中産階級の共働き家庭が、掃除夫やベビシッターを雇うのは、ごく日常的なことだった。とはいえ、働き先を見つけるのは、そう簡単ではない。仕事がなかなか見つからず困っていた時、「それなら家へ来て。すっごく汚いから」と、わざわざ声をかけてくれたのは、私の敬愛する大先輩、そして、LPCのフェミドルでおなじみのアニー・スプリンクルだった。
その頃、アニーは、サンフランシスコからゴールデンゲートブリッジを渡った北岸にあるサンラファエロで、友人たちと共同生活をしていた。実は、この少し前まで、アニーは、サンフランシスコ・エリアでもっとも風光明媚なサウサリトに家を構えていたのだが、不幸にも火事に見舞われてしまい、サンラファエロの友人宅に身を寄せていたのだった。
アニーは、決して私にお金を恵むというようなことはしなかった。が、私が少しでも多くのお金を受け取れるよう、仕事をたくさんわりふり、できるだけ長い時間働けるようにしてくれた。アニーの口ぶりはあくまで謙虚で、偉ぶったところがまったくない。私は、気持ちよく働かせてもらった上、昼食と夕食までごちそうになって帰宅した。
私の働きぶりを気に入ってくれたのか、アニーは親友のジョー・クレーマーに私を雇うように薦めてくれた。私がジョーの家へ出かけたのは、Jasonと会った二日後だった。「最近、どうしているの?」というジョーの問いに、私は、セックスワークを始めたこと、なかなかうまくいかないこと、そして、Jason のペニスが入らなかったことを話した。ジョーは、ゲイのセックスワーカーとして働いた経験があるだけでなく、アニーと同様、ワーカーをサポートする活動もしていたので、こういう話はしやすかった。
私の話を聞いたジョーは、「プロだったら、“入らない”では許されないよ」とやさしく諭しながら、私に客と会う前にどんな準備をしているか尋ねた。私は、ぬるめのお湯で浣腸をして清潔にしていること、それから、挿入の際には、ローションを使っていることを話した。すると、「それじゃあ、だめだよ。ちゃんと客と会う前に、肛門の筋肉を弛緩させておかなくちゃ。ほら、いったんバイブを入れるとかして。プロだったら、そういう準備をきちんとしないとね。」とジョーは言った。
目から鱗とはこのことである。客に会う前に肛門の筋肉を弛緩させて挿入の準備をする。考えてみれば、当たり前のことだったけど、それまでは、全く思いもよらなかった。実際、これをするかしないかは大きかった。体にかかる負担度が全然違う。それに、自分は用意ができていると自信をもつことで、挿入時の緊張もやわらいだ。緊張がなくなれば、それだけでも挿入は楽になる。まさに一石二鳥だった。
これはいいことを聞いたと少し気を取り直し、残りの部屋の掃除を終えようとしていると、携帯に電話が入る。「これから会えないか?」三度目の正直である。今度こそ、ちゃんとお金を手にして帰ってこなくては!