まだAiがセックスワークを始めて間もないこの頃、悩まされていたことがある。それはstood-up (待ちぼうけ)だ。電話で待ち合わせの約束をするのだが、待ち合わせ場所に行っても誰も現れないということがしばしばあった。
こちらは、予約があると、化粧から衣装から、肛門の弛緩運動まで全てを整え、準備万端で目的地へ出向く。近くならまだいいが、待ち合わせ場所まで1時間以上かかることもまれではなかった。結構な時間と労力、そして交通費である。こちらから相手の連絡先を聞くようにもしたが、教えてくれなかったり、教えてくれても電話に出ないとか、嘘の電話番号だったりして、役に立たないことがほとんどだった。
はじめはよくわからなかったが、何度も何度もstood-upをされているうちに、どうやら3つのタイプがあることがわかってきた。
?相手がびびってしまうケース
セックスワーカーを雇うというのは、それなりに勇気のいることである。「誰かにばれたらどうしよう?」「パートナーが知ったらどうしよう?」といった貞操不安から始まって、「セックスワーカーなんかとセックスするなんて道にはずれてるんではないか?」という道徳不安、「もし性感染症でも移されたらどうしよう?」という健康不安に、「もし相手が自分の好みでなかったらどうしよう?」というわがまま不安。
金持ちの場合は、こういう不安もそれほど問題ない。「また今度、いい人を雇えばいいんだから」とお気楽である。ところが、それほど金に裕福でない場合は、事がより深刻になる。これに失敗したら、後がないかもしれない。そう思うと、プレッシャーがどんどん高まってくる。
このプレッシャーに耐えきれなくなって、待ち合わせの場所を去ってしまう、あるいは、待ち合わせの場所にまで行けない人、結構いるんだよね。ほとんどの場合は、無断ですっぽかす。が、中には、こうした心理の葛藤過程を逐一電話で伝えてくれる真面目な人もいた。さんざん、駄々をこねた末、最後には「すまん。やっぱりダメだ。」で終わる。こういうのも何度か経験すると、最初から先が見えるようになる。何ともご愁傷さまである。人生、賭けをしないと快というものは得られないのだが。
?単なるひやかしのケース
単にひやかしで電話してくる奴がいる。とりあえず、電話してみるけど、実際に会うお金や勇気はないというタイプ。わざとらしさがあれば、こちらもそれと気づくが、なかなか見破るのが難しいことも多い。
もっと達が悪いのは、芝居をうつ奴。こういうのは、電話でどんどんAiをほめて、その気にさせる。その気になっていくAiの声を聞きながら、それを楽しむ。例えば、余分にお金を払うとほのめかしたり、Aiを思いっきりレディ扱いしたり、とにかくおいしい話をどんどんする。これは、おいしすぎる話だと思っても、おいしければおいしいほど現実に起こってほしいと思うのが心情。ついつい、向こうの策にはまってしまうことがしばしばあった。
慣れてくると、電話の向こうでマスターベーションを始める気配がするのを感じたり、後でマスターベーションをするネタにしようとしていると見破ることができるようになった。しかし、時々、なかなかの芸達者がいる。そういう人には、だまされたと気づいた瞬間、思わず「おみそれしました」と心の中で叫んでしまうものだった。もちろん、すぐに腸が煮えくり返ってきたが・・・。
?Aiを見てやめるケース
これが一番許せない。Aiの顔つき写真はネット上にいっぱいあるから、向こうからはすぐにわかる。が、こちらからは、言われた情報からしか相手を探し当てることができない。これをうまく利用して、Aiに自分を見破られないようにする。そして、実際のAiを観察して、あまり興味を抱かなかったらやめる。あるいは、そもそも会う気はないが、実際に見ることで満足する。他人のふりをして声をかけた相手が、後で電話の主だったと思われることも何度かあった。こういうのは本当に腹が立つ。
敵も手を替え品を替え攻めてくる。こちらもその都度その都度対策を講じていったが、なかなか追いつかない。それにしても、世の中、ずるい奴はいるものである。嘘をつくのが苦手なAiには、全く予想のつかないことばかりだった。何度かセックス・ワークをやめようと思ったことがあったが、それはセックスをするのが嫌になったのではなく、狐と狸のだまし合いをするのに辟易したからであった。