客に惚れるといえば、まだ初めて間もない頃、会ったこともない客に惚れてしまったことがあった。ハワイに住むというJossiaは、数ヶ月後にサンフランシスコにいくので、予約をしたいというメールをよこした。丁寧にサービスについて説明したメールを送ると、「ありがとう」という言葉とともに、Jossia自身のことがいくらか書かれた返事がきた。いい人そうだったので、こちらもまたメールを返した。
何度かメールを交換するうちに、Jossiaのことがいろいろわかってきた。航空会社に勤めていて、その研修が3ヶ月後にサンフランシスコであること。アジア人と結婚して間もないが、相手がセックスについて奥手なので、欲求不満がたまっていること。先日も、それが理由でけんかしたことなども書いてあった。最初は無難な返事をしていたのだが、性格的にいいかげんなことは書けない。それに始めたばかりで客との距離のつかみ方もよくわかっていない。ついつい、いい気になって、奥さんとはこういう風にした方がうまくいくのでは、とかアドバイスまでしていた。
そういうメールのやりとりを続けていたら、ある日、そのJossiaから写真が届いた。自分の写真だという。な、なんと超イケメンではないか!!!まだ若く、初々しい。鼻筋が通り、キリッとしていて、まちがえなく美形である。それに、笑顔がたまらなくかわいい。思わず、友人たちに見せびらかした。「誰これ?え、客?じゃあ、こいつとセックスするの!うわーっ。いいなあ!!」と大好評だった。そのことをJossiaに伝えると、彼もとても満足の様子。
そうこうしているうちに、こんなメールも届いた。「最初Aiちゃんと会うのは一日だけだと言っていたけど、今、毎日のコーヒー代とかを節約してお金を貯めている。$1000ドルくらいはなんとかなるから、それでいっしょにいれるだけ、いっしょにいよう。」こんなメールを超イケメンからもらって、有頂天にならないはずがない。Jossiaが来たら、何をしよう、どこへ連れて行こうなどと、思いを巡らせた。もちろん、$1000稼いだら何をしようとも、夢が膨らんだ。
ところが、いざ研修の数日前になると、「飛行機の点検をしていたら、急に機材が倒れてきて重傷を負ってしまった。サンフランシスコにはいけそうにない。ごめん。それに、コンピュータにも簡単にアクセスできない。メールはしばらくできないかもしれない」というメールがきた。大ショック。まずは、事故で大丈夫なのかと心配になったが、それ以上に、会えなくなることが悲しかった。また、あてにしていた$1000が手に入らないのも悔やまれた。
が、とにかく「大事にしてね」とメールを書く。けがは治っただろうか、今度はいつサンフランシスコに来られるのだろうかと、悶々とした日々を送った。かなりつらかった。会ったこともない相手を、心配し、気遣った。しばらくして、向こうが元気になると、何度かメールの交換をした。大変な事故だったらしい。
しかし、本当にそれは事故だったのか、という疑念がわかないでもなかった。が、そう思うたびに、そんなはずはないと、Jossiaを信じるようにしていた。そう信じないと、やってられなかったからだと思う。もし騙されていたのだとしたら、それまでのAiの思いはどうなってしまうのか?あんなに喜んだり、心配したりしたのは何だったのだろうか?Aiは単におめでたい人?そんなはずはない。JossiaのAiに対する気持ちは本物だったに違いない。ただ、事故さえなければ・・・。
今になって思うと、当時は、かなり「おめでたかった」のだと思う。向こうは、Aiとメールを交換していて、とても楽しかったんだと思う。もともと騙すつもりはなかったが、こっちが徐々に本気になってくるので、やめられなくなったんだろう。疑似恋愛をして、向こうもハッピーだったんだろう。こっちも楽しかった。それに、写真をもらった時には、とてもいい気分になれたんだから、それでよしとすべきか。知らない人の調子のいい言葉にだまされるな、というレッスンだったのだろう。
今では、計画的な犯罪(って、まあ刑法では罪ではないが、精神的なダメージを与えるという意味では、りっぱな罪だろう)だったと思えるものの、当時は、そうした反省には至らず、こうした浮ついた“恋愛ゲーム”に何度となく踊らされたのだった。
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