“恋愛ゲーム”といえば、こんなこともあった。ある日、ノース・ベイのノヴァトに住むGaryという客から電話があった。Aiの家からノヴァトまでは2時間はかかる。以前に他の客に会いに行った事はあったが、通常のサービス圏外である。「ちょっと家から遠いので・・・」と断ろうとするが、なかなかしつこい。相手は、「絶対に後悔させない」とか、いろいろ言ってくる。こういうことを言う客は多いので、「ああ、また、いつものはったりが始まったか」と電話を置こうとしたが、Garyは、Aiのホームページを以前から見ているらしく、思いつきでかけているわけではない、というのがわかってきた。「それなら、行ってみるか」と、重い腰をあげて出かけることにした。
晩秋の小雨の降る冷たい晩だった。家を出た時から雨がぱらついていたが、高速道路をとばしているうち、すっかり日は暮れ、雨脚が激しくなった。ノヴァトのインターを降りると、小さな街が広がっていたが、すぐに郊外になり、あたりはまさに真っ暗。こんなところに家があるのだろうか。携帯電話が鳴る。Garyだ。「まだかい?」「今、インターを降りたんですが、真っ暗で。こっちでいいんですか?」「大丈夫。もう少し行くと、橋があって、その次を左へ・・・」「あ、はい。」「部屋を暖かくして待っているから」と優しい声。しばらく行くと果たして、Garyの住む住宅コンプレックスが見つかる。
Garyの家は、特に大きいというわけではないが、郊外の庭の広いゆったりした構え。ただ見た目にちょっと古そうだった。ブザーを鳴らすと、Garyがドアに近づいてくる足音が聞こえる。ドキドキしながら、ドアがあくのを待つ。カチャカチャという音がして鍵があくと、ドアがゆっくり開く。「ようこそ」とGaryが登場。おそらく50代だろうが、やや僧侶風の短い髪型と格好よく着こなしたスーツ姿は、もっと若くも見える。「こんにちは」と中へ入ると、あっ!サプライズ!そこには夢の世界が・・・。
部屋には暖炉の火がともされ、暖かな空間が広がっている。BGMにはAi好みのクールなジャズがかかっている。GaryはAiのコートを脱がすと、いきなり抱きついてきた。が、それは強引というよりは、とても心地よく引き寄せられる感じだった。気がつくと、Garyは私と踊りだした。Aiはダンスが苦手だが、Garyにリードされるまま、からだを動かしていると気分がよかった。部屋の鏡に、AiとGaryの姿が映るのが時折見えた。なかなかさまになっている。今日も、かわいい格好してきてよかった。ビロード地の紺色のトップとミニスカート。黒のタイハイ(腿までのストッキング)に、お気に入りのエレガント・ヒール。う〜ん、決まっている。(が、裏話をすると、トップとスカートは古着屋で、靴はディスカウントショップで買ったので、総額50ドル以下。が、とてもそうは見えない。)
からだがだんだん暖まってくると、「のどが乾いただろう。どのワインがいいかな?」と赤ワインが数本出てくる。Aiはキャベルネが好きだったがが、この「メルローはとってもいいから」とGaryに勧められるままに口にする。う〜ん、おいしい。ソファーに座ってしばらくワインを楽しむ。暖炉のやわらかい火とジャズがうまく溶け合う。からだも溶けていきそうだった。しばらくすると、Garyは台所に消えた。
ふと、テーブルの方に目をやると、とても洒落た食器が置かれている。ちょっとAsian風でAi好み。お箸も用意されている。いい感じ、いい感じ。しばらくすると、湯気のたつタイ料理が、ろうそくの火に映える美しいお皿の上に並んだ。どれもおいしそう。「食べ始めていいよ」とGaryの声。う〜ん、どれもうまい。これほど巧みに演出されれば、おいしくないはずはない。(Garyと仲良くなってからわかったことだが、このタイ料理は、近所の比較的おいしいレストランでテイクアウトされたものだった。が、Garyの演出は、それを何倍にもおいしく感じさせた。)
Aiも一年近く仕事をしていたけど、こんなに大切に扱われたと思えたことはなかった。「女になってよかった」と思える瞬間だった。こういうすばらしいことをしてくれる人だったら、どこまででもついていきたいと、その時は思った。確かに、セックスワークやっていて一番興奮した時間だったことは間違いない。そういう時を過ごさせてくれたGaryにはとても感謝している。が、当然のことかもしれないが、こうした恋愛ゲームは長くは続かなかった。(つづく)