Aiの客の中には、二人の日本人がいた。一人は、サンフランシスコ郊外で居酒屋を営んでいるという小川さん(仮名)、それから、もう一人は、ロサンジェルスから出張中の篤史さん(仮名)だった。
小川さんは、アメリカへ来てもう二十年近くが経つらしい。その間、日本人相手の居酒屋をずっと営んできた。自らをファーストネームでなく、名字で名乗るところからして、いかにも日本的である。が、よく聞けば、これだけ長くアメリカにいながら、英語がほとんどできないらしい。「アメリカ人とは言葉が通じないから、こういうところにもなかなか来れなくって」と言われたのには、真剣に驚いた。
もちろん、移民の中には英語ができない人たちがたくさんいる。特に、中国人やスペイン語圏から来た人たちは、それぞれのコミュニティがサンフランシスコ市内や、その周辺にできているから、英語が話せなくても生きていける。新聞だってあるし、ケーブルテレビでは、放送だってある。銀行のATMには必ずスペイン語もあるし、運転免許試験場では、英語・スペイン語・中国語・タガログ語(フィリピン)から選択できる。中国人の場合は、チャイナ・タウン以外にも、巨大な中国人のショッピング・モールが複数あり、買い物にも困らない。
しかし、サンフランシスコ周辺の日本人のコミュニティは、そこまで大きくはない。にもかかわらず、こうして日本語だけで何十年も暮らしている人がいるというのは、予想もしていないことだった。少しは、アメリカ人やアメリカ文化に興味を示すことはないのだろうか?映画とか見にいかないのだろうか?英語通じなくって、落ち込んだりしないのだろうか?自閉症にならないのだろうか?疑問はどんどん膨らんでいった。
Aiのこともネットで見つけたわけではないらしい。英語ができないんだから、英語のホームページなどこの小川さんには役に立つまい。常連のお客さんから紹介されて、会う事にしたとか。だから、顔も知らずに会ったとか。とにかく、日本人だから大丈夫だって。何とも頼りない。
Aiにとっては、久々に会う日本人だったので、話がはずんだ。実際、一時間近く話こんでしまった。が、さて、セックスというところになって、とても困ったことになった。というのは、この小川さん。まったく、自分で動く気がないからである。しかも、何一つ、Aiを褒めるような言葉もかけなければ、「いっしょにいて楽しい」とも言わない。ああ、これだから、日本人は嫌だ!と思った。
この時まで、特に意識はしなかったが、アメリカ人の客は、どの客も多かれ少なかれ、Aiの容姿を褒め、「会いたかった」とか「楽しみにしてた」とか口にし、場を盛り上げようとする。何も言われないのは、今回がほとんど初めてである。何とも肩すかしを食った感じだった。
確かに、向こうはお金を払っている。こちらが奉仕するのは当然かもしれない。だけど、こちらもサービスがしやすいように、少しは気を使っておだてるだの、気分を盛り上げるなどしたらいいと思った。小川さんには、こういうサービス精神がまったくなかった。
この人とセックスする奥さんって、面白くないだろうなあ、とふと思った。「きれいだね」とか「かわいいね」とか言われることは、まず考えられない。それに、いっしょに気持ちよくなろう、という気もさらさらないらしい。これでは、いっしょにセックスをする意味なんかまるでない。男を気持ちよくするのは女の役目か?そんなに男は偉いのか?男はじっとしていれば、すべてサービスしてもらえると思っている、その態度が気に入らなかった。いくら商売とはいえ、これでは、こちらもサービスのしがいがない。
初めての日本人客には、ほとほと愛想を尽かしながらも、ニコニコしながらサービスした。日本人の男ってこんなものなのかなあ、としばらく思っていると、一週間もしないうちに、別の日本人から電話があった。(つづく)