No. 40 Tyson, Again (Tyson再び)

 以前、「トランスはお好き」第11回で、ヨルダン出身の中古車販売会社の社長、Tyson の話をしているのを覚えているだろうか? いいオヤジなのか、悪者なのか、よくわからないまま何度かつきあい続けた、このTysonとも最後の時がやってきた。

 最初に会ってからも、折に触れて逢瀬を重ねてきたが、その度ごとに、ツケがたまっていった。いつも時間を超過するのだが、その分を十分に払わないのである。今回電話があったときは、先にちゃんと今までの分をいただかないと困ると、かなりしつこくねばった。しかし、相手は悪名高い中古車セールスマン、口八丁で交わしてくる。が、なんとか約束をとりつけ、会う事にした。

 Tysonは、家族が留守なので、ギルロイにある自宅まで来てほしいと言う。ギルロイは、サンホゼからさらに1時間半ほどかかるところにある。つまり、Aiの家からは、片道2時間半という遠距離である。普通なら絶対に引き受けない距離だが、リピーターのTysonで、すっぽかされることはないと思ったので、しぶしぶ出かけることにした。とにかく、今回は、ちゃんと規定の額をもらって帰ると言い聞かせながら。

 ギルロイのインターを降りると、約束した場所からTysonに電話をかける。Tyson は、私が車を家の前に止めると、近所の人に怪しまれるので、近くまで向かいにいくと言う。そこで、近所のドラッグストアの駐車場に車を置き、迎えにきてくれたTysonの車に乗り込んだ。

 自宅に入ると、リビングに通された。大きな画面のテレビとソファーの間に、毛布が敷いてある。どうやら、ベッドルームではなく、このリビングで楽しもうということらしい。なんか落ち着かないないなあ、と思ったが、Tysonというのは、そもそも落ち着きのない人物である。多くを望んでも仕方がない。

 予定通り、先に約束のお金を出してくれと言うが、この期に及んでもTysonはダダをこね続ける。が、こっちも今回は強行だった。はるばるギルロイまできて、また値切られたのではたまったものじゃない。Tysonは、とても嫌そうな顔をして20ドルの束を差し出す。(アメリカでは、100ドル札や50ドル札は多く流通しておらず、数百ドルの買い物の場合は、20ドル札を使うのがごく一般的だった。)間違いがあってはならないと、丁寧にお札の数を数えた。

 ここで、財布にしまってもよいのだが、もしビデオなどで、金銭が授受される場を録画されたりしているとまずい。とりあえず、そのお金を机の上に置き、重しをのせた。客の中には、お金をもって逃げられるのでは、と恐れを持つ人がいるので、こうして一度置いておくことにしていた。これも先輩諸氏から習ったノウハウである。

 Tysonは、テレビのスイッチをつけると、借りてきたビデオを再生し始めた。いずれもアダルトビデオである。ヘテロの男性用に作られたものばかりだった。なんでそんなもの見ながら、セックスしなければいけないのか。Aiはそんなに魅力がないのか、となんだか馬鹿にされたような気もしたが、考えようによっては、こっちもビデオに映ったお姉ちゃんに集中していれば(男にはほとんど興味がもてなかった)よいので、それはそれで楽しいかもと、楽天的に考えることにした。

 Tysonとのセックスは、まったく楽しいものではなかった。向こうは、安心しているのか、こっちに飽きがきているのかわからなかったが、出すものを出すと、眠り込んでしまう始末。あまりにも気持ち良さそうに寝ているので、起こすわけにもいかない。とっとと帰りたいとも思ったが、時間分はいっしょにいないと、こっちがネコババ呼ばわれされかねない。退屈だと思いながら、しばらく、そのまま待っていた。初冬で、日が随分短くなっている。日が落ちると気温が下がってきた。

 目を覚まさないのではと心配になり始めた頃に、Tysonはムクッと起き上がった。待っている間にすっかり体が冷えてきたせいか、トイレに行きたくなった。席を立って、用をすます。もう少しで終わりの時間だ。あと少しの辛抱である。

 今回のTyson宅訪問で、すっかりTysonには嫌気がさしてしまった。こんな勝手なおやじの相手をするのはもう嫌だ。いつも値切られるし。ここは後腐れなく最後を飾って、とっとと帰ろう、そう心の中でつぶやいていた時である。

 机の上に置いてあった札束を手に取る。「ありがとうございました」とニコニコしながらも、一応はとばかり、札束を数え始めた。すると、なんと40ドル足りないのである。なんど数えても、20ドル札二枚が消えている。「あれ、40ドル足りない! どうしたんだろう?」と言うが、Tysonは、「そんなこと言っても知らないよ。Aiがどっかへやったんだろう。取って隠したんじゃないか?」ととんでもないことを言う。

 落ち着いて考えみたが、Aiに落ち度はない。3時間前に数えた時は確かにあった。それが、今はない。とすれば、Aiがトイレにいった隙に、Tysonが2枚抜き取った以外には考えられない。Tysonのディフェンシブ(自己防衛的)な物言いはどうも怪しい。Aiに同情を全く示さないのも、明らかにくさい。

 今回は、口論になっても、Aiも食いさがらなかった。もちろん、身の危険は感じた。ここは、相手の家である。しかも、自分の車は、家の前にはない。ここから離れたドラッグストアの駐車場である。そこまで、どういくのかもわからない。相手がもし凶器でも持ち出したらどうしよう。が、だからといって引き下がることはできなかった。

 30分の言い争いの末、Tysonはしぶしぶ40ドルを財布の中から取り出し、「これは、俺が払わなくてもいい余分な40ドルだからな」とさんざん悪態とつきながら、Aiに渡した。はじめてTysonに言いくるめられなかったという達成感が、体の中に満ちあふれてきた。やったー! 今度は、勝ったー! なんとも言えない充実感。

 が、これからが、険悪だった。家に帰るためには、Tysonにドラッグストアまで送ってもらわなければならない。果たして、連れて行ってくれるのだろうか? とても不安だったが、Tysonは無言のまま、自分の車を出し始めた。Aiも無言のまま車に乗った。「どうかドラッグストアに連れていってくれますように!」これまた、苦しい時の神頼みである。幸い、Tysonは、Aiをドラッグストアの駐車場まで送ってくれた。車を降りると、「See you.」とだけ言って、走って自分の車に乗り込んだ。

 何とも後味の悪い結末である。結局、それ以来、Tysonからは、とんと電話がかからなくなった。こっちとしても、かからなくなってセイセイしている。こういうあくどくて、いい加減はおやじとは、もっと早くから手を切るべきだったと反省しきりである。そうすれば、あんなに怖い目に会う必要はなかったはずだ。こういう危ない目にはもう会いたくない。


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[2006/02/28]
No. 47 What is Sex Work? (セックスワークって何?)
[2006/02/20]
No. 46 The Last Client(最後の客)
[2006/02/13]
No. 45 Is Sex Just Sex?(セックスって、単なるセックス?)
[2006/02/06]
No. 44 Is Sex Work a Crime? (セックスワークは罪?)
[2006/01/30]
No. 43 The Web Ad(出会い系サイト)
[2006/01/24]
No. 42 How to Go Along with the Clients (客との打ち解け方)
[2006/01/16]
No. 41 Experiencing Sex Workshops (セックス・ワークショップの経験)
[2005/12/27]
No. 40 Tyson, Again (Tyson再び)
[2005/12/20]
No. 39 Two Japanese Guys, Part 2(二人の日本人 その2)
[2005/12/12]
No. 38 Two Japanese Guys, Part 1(二人の日本人 その1)
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