セックスワークをしている間、Aiが望んでいたような人との一体感は得られたか? 答えは、Yes and Noだ。何よりも、それは相手との相性による。それに、こっちの体調や気分にも左右される。でも、Aiはできるだけそうした「一体感」のようなものが感じられるように、精一杯努力をした。
何をしたかというと、まず客とのコミュニケーションをはかり、相手と体だけでなく、情緒的にもつながれるようにしたのだった。相手と合ったら、できるだけ相手から話を引き出すようにした。そして、少しでも相手のことを知るように努めた。もちろん、話を聞いているうちに、「こいつ、嫌な奴だなあ」と思うこともあった。自分の考え方と相容れないことを言われることもあった。でも、そういう時は、つとめて相手のいいところを見つけるように心がけた。どんな人でも、一つや二つはいいところがあるものである。不思議なもので、それに気がつくと、だんだんその人がいい人のような気がしてくる。
だからといって、いつも相手の言うことを「はい、はい」聞いていたわけではない。もしそんなことをしたら、相手はAiが話をちゃんと聞いていないと思うだろう。Aiの思っていることは、むしろ、はっきり伝えるようにした。それによって、相手はAiとキャッチボールをしているような気になれたのだと思う。いったん向こうに、Aiはちゃんと話を聞いていると思わせることができると、後は比較的簡単だった。向こうは、どんどん心を開いてくる。こっちはそれを受け入れていけばいいだけである。
仕事中は、当然、Aiはプライベートなことを全て話したわけではなかった。ただ、あまり嘘はつかないようにした。嘘をついているとばれれば、お互いの関係がぎくしゃくする。もちろん、相手を喜ばすように大げさに言ったり、相手が嫌がりそうなことを過小に話したりしたことはあったが、ハッタリはできるだけ避けるようにした。こうした態度は、結果的に、相手とセックスをするという行為をスムーズなものにしたと思う。
相手の話を聞くとき、もう一つ気をつけたことがあった。それは、相手の話をできるだけ最後まで聞くことだった。そんなことは当たり前だと思われるかもしれないが、これは意外とできるようでいて、普段できていないことだ。話がわかったと思うと、たいてい、「うんうん」とか「そうそう」といって分け入っていってしまう。相づちを全く打たないのでは味気ないが、打ちすぎるのはよくない。適度にうなずいておいて、後は相手が話し終わるまでよく聞く。こうやって話を聞いていると、たいてい、相手は面白いぐらい自分の話をするようになる。短時間で相手を知るには、もっともよい方法ではないかと思う。
こうやって相手とうまくコミュニケーションができた場合は、セックスもそれなりにうまくいく。そして、相手が射精をしたとしても、「はい、終わり」としないで、できるだけ連れ添う。もちろん、全ての客がそうしたスキンシップを好むというわけではないが、されて嫌な気がする人はそんなにいないと思う。そして、ニッコリしながら「ああ、よかった」と言う。実際には、「とってもよかった」から、「ちょっとだけよかった」まで、いろいろなのだが、ここは嘘ではない範囲で、とにかく「よかった」と言ってニッコリする。客の中には、意外と自分のやっていることに自信をもてていない人がいる。だから、よくやったと褒めてあげることがとっても重要だ。それに、Aiとしてもやった以上は、よかったと思いたい。そこで、とにかく「よかった」と言い、よかったことにするのである。
こうやって客とセックスをして家に帰る。たいてい、どっと疲れる。相手とあまりうまく行かなかった時は、気分的に滅入って疲れる。それに、なんだかいやーな気分である。家に帰ってからは必ずシャワーで体をきれいにし、気分もすっきりさせるようにしていたが、そういう時は、いつもより以上に体を念入りに洗っていたような気がする。そうすれば嫌なこともきれいに流されるかもって思いながら。これがうまくいったこともあったが、そうはいかないことも多かった。
しかし、逆にうまくいった時は、それはそれでつらかった。「なんで自分は今一人なんだ」と寂しくてたまらなくなる。相手をした客を恋しく思うこともあったし、そうでなくても、漠然と自分が一人でいることに寂しく思うことも多かった。が、いずれにせよ、セックスをした後、一人でいるということは、Aiにとってかなりつらいことだった。特に、毎回、情緒的にも相手に寄り添う努力をしていただけに、終わったあとが大変だった。だから、儲かっているワーカーさんは、そんなことしないで、もっとビジネスライクに客と接するのだと思う。Aiもそういうことができたらなあ、と思ったことは何度もあった。そして、そう思う度に、自分にはセックスワークは向いていないと思った。
そういうことが続くうちに、寂しさを紛らわすために、出会い系サイトを利用するようになっていった。(つづく)